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No.151 天遥理虚❺

(´・ω・`)テンポが糞過ぎて連投ゲリラしちゃうの巻



 空が落ちる。

 エリア全体を照らす巨大な松明となった雲泥の遺児ヒュディに照らされた泥の天蓋が落ちる。


 威力がどれほどの物かはわからないが、直撃するのはあまりに危険な事は考えなくてもわかる。


「ピン!」


「いけます!」


 そこで今まで待機してじっと魔法の発動を待っていたネオンが応える。

 ネオンの魔法は威力が高いが発動までに時間がかかるものも多い。スーパーアーマー持ちなのか、鎌鼬が発砲を続けても雲泥の遺児ヒュディは【色即是空(シキソクゼクウ)天変雲泥(テンペンウンデイ)燭黒墜(ニグルイナム)】の発動をやめない。

 

 その時の為に、万が一の為に控えていたのがネオンだ。数ある魔法の中でも攻撃力ではなく反撃に重きを置いた魔法。炎を宿す竜巻が解き放たれ、落ちてきた天蓋と激突した。


「ぐぁ!?ヤバい威力だな!?」


「飛ばされるぅ〜!」


「ちょっと、こんな威力なんて聞いてないわよ!?」


「ウハハハハ!派手だなコレッ!」


「…………!」


「ひゃあああああ!?」


「なんでピンちゃんが驚いてんのぉ?てか本当にヤバいねぇ!」


 ネオンが発動した魔法は赤月の都で広範囲魔法をぶっ放し続けた結果習得した新しい魔法だ。

 ネオンの魔法は元から凄まじい威力を誇っていたが、いよいよ大量殺戮兵器のレベルまで威力が上がっていた。故にネオンは新しく魔法を覚えたら闘技場でちゃんとデータをとり性能を頭に叩き込んでおくのだ。

 

 よって計算違いは起きない。そのはずだった。

 だが、ネオンの知識の中には『フィールド属性』という概念がなかった。


 雲泥の遺児ヒュディの天遥理虚(ヴェリタステラ)化は、実は目に見えない部分にも大なり小なり影響を及ぼしている。

 その中でも最も重要なのはフィールド属性。そもそも今のALLFOに於いてこの概念を知ってるプレイヤーはほんの一握りである。

 ノートもフィールド属性に関して少々の知識はあるが、その実態はまだまだ解明できていない。


 本来、ヒュディの天遥理虚(ヴェリタステラ)化によって起きるフィールド属性の変化は一般的なプレイヤーにとっては非常に大きなデメリットである。だが、ノート達は一般的なプレイヤーからは逸脱している。

 ノート達は弱体化するどころか、フィールド属性の変化によって能力が上昇していた。ただしこの能力の上昇はステータスを閲覧しても見ることはできない。特殊な能力が必要となってくる。

 その変化の恩恵を1番色濃く受けていたのがネオンであり、更に発動した魔法の性質がフィールド属性との相性がピッタリだった所為で威力が激増したのだ。


 実はネオン自身も魔法を使いながら妙に威力が高いとは感じていたのだが、初の大規模戦闘にテンションが上がって無意識に自分で威力を上げてしまっているのかな、などと考えていた。フィールド属性の知識がほとんど無かったネオンにはその威力上昇に原因があると思い至らなかったのだ。


 竜巻の風で浮き上がる体。ノート達は悲鳴を上げてノートが召喚した死霊に縋り付く。目を開けるのも億劫な暴風だが、巨体で鈍重な疫骸塒堅壁蝨人コープスハームティッカーはなんとか踏ん張って耐える。


 竜巻と泥の天蓋が衝突し、泥の天蓋が抉れていく。

 天蓋の全てを破壊する事はできないが、竜巻と激突した場所は破壊され遂に星空の光が差し込む。

 飛び散った泥の余波が降り注ぐが、疫骸塒堅壁蝨人コープスハームティッカーはそれも全て凌ぎ切りノート達を守り切った。


 結果オーライとはこの事か。最終的にはネオンの魔法のお陰でヒュディの切り札をノート達は凌ぎ切る。


「これは2、3周目からはレドのスキル解禁だな……」


 ひよった、といえばそうなのだが、ノートとしてもこのクラスの技を何度も真っ向から迎え撃つのは勘弁したかった。ノートの呟きには副参謀のヌコォも同意する様に頷く。

 レド――――スピリタスのオリジナルスキル〔戦覇真拳勝負〕は飛び道具封じ、或いは半減以下。全体攻撃の威力緩和にはうってつけである。


 だが、周回強化の無い1回目はオリジナルスキルを封じて戦う事が目的だったので、今回は使わない。

 ノート達はすぐさま立て直して反撃を開始する。


 ヒュディにとっても先程の大技は負担なしで使用可能な技では無かったらしい。それとも大技を力技で撃ち破られたのかショックだったのか。地面に手をついて項垂れていた。


 そんなヒュディに対して鎌鼬とヌコォが発砲して無防備な頭部を容赦なく撃ち抜き、ユリンがフィールドを飛び回り再び油を散布する。


 スピリタス達も槍先に油瓶を装着したものを次々と投擲し、ノートも死霊を駆使して油を蒔く。

 これで今ある油のストックはほぼゼロとなる。


 燃え上がるフィールド。沼地から水分が失われる中、唐突に意識を取り戻した様にヒュディは暴れまわるが多少アクティブになった所で使ってくる技はほぼ同じ。対処方法を殆ど把握できている今となっては脅威でも無い。


 そう考えていたノート達に一矢報いるように雲泥の遺児ヒュディは天に吼えた。


µ()®Íͤé¤Ï()Ũ¤ËÃͤ()¹¤ë】

【¸Î¤Ë¡¢¼«¤é()¤ÈÂÐÌ̤»()¤è】

鏡雷泥人(キョウライデイジン)白間(カルブム)


 すると、澱んだ色の暗雲が空を覆い、音無き稲妻が大量に弾けた。

 今までのヒュディの攻撃とは全く性質の異なる攻撃は彼等の不意をついたが、それでも前衛組はギリギリで回避していた。

 一方で後衛は大量に降り注いだ稲妻の直撃を全て免れることができない。防御力が紙装甲な連中ばかりの『祭り拍子』にとっては致命的な攻撃だ。だが、思わず蹲りそうになったノートとは裏腹に、これといってダメージは受けていなかった。

 

 一体何が。どうして。あたりを見渡していると、最後に今までとは大きさが違う稲妻が落ちて、泥が蠢いた。


 そしてその泥は、雷が直撃してしまった後衛組とそっくりの姿を取り始めた。


 



 

 泥で作り上げられたノート、ヌコォ、鎌鼬、ネオンの姿とそっくりの泥人形。泥であることを除けば、背格好から装備まで生き写しだ。


 ノートは温存していたメギドを召喚しガードに回すと、すかさずメギドに向けて弾丸が飛んできた。いや、本来はノートを撃ち殺すための弾丸だったのだろう。そこに召喚されたメギドが割り込んだ形だが、偶然にもメギドの盾にヒットして事なきを得る。


「…………いやいや、これは洒落になんねぇぞ」


 ノートに向けて発砲したのは鎌鼬の泥人形。装備が模倣されているという事は、彼女たちの持つ武器も泥人形は装備しているということ。鎌鼬とヌコォが装備していた拳銃を泥人形も装備しており、しかもオリジナルとほぼ同じ性能を発揮した。

 続けて泥で作り上げられた骸骨の群れが現れノート達に迫り、続けて巨大な火玉が飛んでくる。ノートの泥人形とネオンの泥人形の能力だ。コピーも死霊術や超火力の魔法を使えるらしい。


 問題は、このコピー品の性能だ。

 こいつ等がオリジナルと同等の知能まであったらノートは冷静に考えている暇もなかっただろう。


 例えば、もしノートがコピーの立場であり、オリジナルと同じ性能があるとしたら、スケルトンの群れの召喚などという生温い手は使わない。

 まず手始めにメギドにはメギドをぶつけ、グレゴリの能力で攪乱。遠距離攻撃が得意な中級死霊を中心に召喚して前衛組を狙い撃ちして、ゴースト系でヌコォや鎌鼬を攻めて後衛戦力を割く。勝つのではなく、足止めを狙い、とどめはヒュディに刺してもらう。

 ネオンの場合であれば、火玉よりももっと威力の高い魔法を選択するだろう。ネオンの魔法の威力は対人に於いて鬼札クラスのバランスブレイカーだ。


 このような手で攻められたらノート達も非常に苦しくなっただろうが、泥人形たちの動きにはあまり戦略性が見られない。

 ただ、戦略性が無くてもとある前提が崩れるとノート達も落ち着いていられない。それはコピー品のリソース面の再現性だ。


 HPやMP、使用する魔法やスキル、装備はまだしも、所持しているアイテムや魂のストックを無視して攻撃できるのならば戦略性が無くてもごり押しができてしまう。鎌鼬とヌコォの所持している弾丸の数、ノートの所持している魂のストックが無限扱いならノート達の勝ち目が薄くなるのだ。


 ノートも手始めに死霊を召喚しスケルトン軍団を一気に押し返す。ネオンの泥人形の魔法に対してはネオン自身がより強力な魔法を無詠唱で即座に放って迎撃した。


「ナイス!」


「は、はい!」


 最適解を試案していたので指示が遅れたが、各自はノートの指示をただ待つことなく動いている。こういう時棒立ちになりがちだったネオンも自分で考えて攻撃を行ったのだ。

 魔法の威力の競り合いはオリジナルネオンの勝利。しかし着弾前に魔法の威力が落ちる。ヌコォの泥人形の盗賊スキルによる魔力の強制強奪による魔法威力の半減だ。味方にいても心強いが、敵に回ってもヌコォの厄介さは健在である。


 コピー泥人形たちの性能はやはりオリジナルとほぼ同等。思考能力も低くない。普通のプレイヤーとタメを張れるだろう。だがオリジナルほどのキレは感じなかった。

 しかしコピー泥人形ばかりに構っている場合ではない。鈍重だが、ヒュディは這いずりながら迫ってきている。泥人形の召喚中はどうやらヒュディも飛び道具が使えないようだが、巨体から繰り出される物理攻撃はノート達を殺すのに一切問題はない。


「俺とピンで泥人形を倒す!あとはヒュディの足止めを頼んだ!」


『了解!』


 かなり厳しい戦闘ではあるものの、不幸中の幸いだったのはコピー泥人形の中に前衛組が居なかったこと。ノートやネオンにとっては前衛組が天敵に近い。逆に前衛組がなければノート達だけでも相手できるとノートは読む。


「グレゴリ、妨害頼んだ」


 オリジナルスキルは使わないが、それ以外は過度に出し惜しみしてる場合ではない。そう判断したノートの指示は早かった。

 召喚されたグレゴリはノートの指示を受けて、新たな能力を行使する。


素闇芸創(ダークアーツ)魂写し(ソウレース)の影絵(シャドウプレイ)


 これも画家派生の能力の一つ。

 グレゴリが能力を行使すると、コピー泥人形たちの影が揺らめき、むくりと起き上がる。その影はコミカルな動きで立ちあがりいきなりコピー泥人形に襲い掛かる。するとコピー泥人形たちのヘイトが分散し一気に乱戦になる。


 魂写し(ソウレース)の影絵(シャドウプレイ)の能力は、能力の対象者の影の幻影を操ることを可能とする。あくまで幻影の類だが、その影は能力の対象者の影響を少なからず受けているので魔法やスキルの魔法もある程度模倣する。加えてゴースト型の持つヘイト集中の能力をデフォルトで発動しているので、敵は優先してこの影の幻影を攻撃するが、幻影はほとんどダメージを受けない(特に対物理に特化)のでヘイトが勝手に上がり続ける。

 時間稼ぎ、仕切り直しに於いては最強クラスの能力。今は【素闇芸創(ダークアーツ)虚偽欺瞞なる(ディセプション )騙し絵(トリックアート)】との長時間の併用はできないが、もし併用できるようになればどれほど厄介な技になるかなど想像に難くない。


 これで数的有利は緩和。加えてヘイトを集めることで一撃必殺を可能としかねない鎌鼬とヌコォの泥人形たちのヘイトを逸らすことができる。


 雲泥の遺児ヒュディの持つ切り札とノートの持つ切り札が切られ、遂に激突した。




(´・ω・`)シャドウプレイは対黒騎士戦でも使ってます。黒騎士の前に立ちはだかった影がソレね


(´・ω・`)あと『自分との戦い』なんて如何にもラスボスが使いそうな技ですが、ALLFOでは初っ端のシナリオボスでも普通に使ってくるぜ☆(アイデアのストックが死ぬことは気にしてはいけない)

(´・ω・`)鏡雷泥人の元ネタは「泥男スワンプマン」です(わかる人にはわかるよね。わからん人はしらべてくだちゃい。一種の思考実験です)

(´・ω・`)CoCで『スワンプマン』のシナリオに参加した時はおっさん探偵キャラで行きましたが、ネタバレしない程度に言うと、酔っ払いロールでいきなり敵本拠地に一人で乗り込んでチャカ持ち3人相手に酔拳(こぶし初期値)で対抗して普通に生還した。なおラスボス戦でダイス目があらぶりラストは皆瀕死になった模様(KPが頭抱えてた)


(`・ω・´)CoCに興味がある人はぜひともリプレイを見て、よりシリアスを味わいたい人はスワンプマンを実際に走ってる卓のリプレイがあるからぜひ見てほしいんだぜ!(ダイマ)




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― 新着の感想 ―
[一言] >>その中でも最も重要なのはフィールド属性。 なんか、『不繋圏外』とも関係ありそう。
[一言] 雷で打たれ周囲の泥がソックリの人間になる奴ですね。アレ?オリジナル死んでないやんけ! 白が泥人間、黒がフィールド攻撃、残りは赤、紫、橙ですかね? 虹の色分けされるとレーザー音を思い出します…
[気になる点] 仮面の色的に呼ぶ感じなのにネオンだけ一度目以降ネオンのままになってません?
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