No.145Ex 雲泥
(`・ω・´)なかなか定まらなかったけど、できるだけ2日に1話ペースで更新したいと思います
(´・ω・`)それではヤ〇チャ視点をお楽しみ下さい
「兄ちゃん、次は勝てるかな…………」
「わかんねぇよ。でも次は、次こそ」
見るからに気弱そうな顔付き。杖をキツく握りしめて不安を紛らわせようとする男の呟きに、もう1人の男は苛立ち混じりの強い語気で返す。
始まりは一念発起して攻略組のキャリー募集に参加し、キャンプ地までやってきた事だ。
この2人のプレイヤーは反船後に参加した所謂第3陣のプレイヤーで、反戦の大騒動直後の混乱に巻き込まれた犠牲者でもある。
本来新規を引っ張るはずのプレイヤー達は集合と解散を繰り返し、そこら中で新たなグループが形成された。
世渡り上手な連中はその混乱に紛れて新規勢として実力のあるパーティーに参加できたりしたが、そんなのは少数派だ。
ズルズルとゲームを続け、いつかは他の人とパーティーを作ろう、そんな事を考えてるうちに結局機会が得られずそのまま身内の2人きり。
似たような状態のプレイヤーはそこら中にいる。
探せばすぐに見つかる一山いくらの駆け出しだ。
――――今回のボス戦でいい仲間を見つけよう。あわよくばキャリーされる時に活躍して攻略に一目置いてもらう人脈を作ろう。
そんな都合の良い事を考えていたが、現実は非常に厳しかった。活躍するどころか結局足を引っ張らないようにするのが精一杯で、キャンプ地につけば一声もかけられずただ放り出された。
自分達以外の駆け出しの数人は声をかけられていただけに余計に惨めだった。
それでも挫けず、彼らはメンバー募集にも果敢に応募したが素気無く却下され、されどプライドや口下手な性格によりスタンピード防衛側にも混ざれず。
結局その他大勢の駆け出しと同じ様にランダムマッチに挑む事になる。
結果は惨憺たる物。寄せ集めのガラクタは何もできずに殺された。ボスは調整ミスを疑う程に圧倒的な強さを誇っていた。
1番先に突破すると予想されていた攻略組もアッサリ壊滅し現在作戦を再度練っているようだ。自分達よりも遥かに強いプレイヤーでもその状態だ。1部のプレイヤーが別の奴らが既に撃破したと騒いでいたがきっとガセか何かだろう。
薄暗い心がいい気味だと吐き捨てると同時に、どこか冷静な部分があった。虚勢を張っても期待はしてなかった。
動きのいいプレイヤーを見つけて、パーティーに誘えれば良いな、そんな事を考えていた。
マッチング完了の合図。本来では打ち合わせタイムが別途あるのだが、ランダムマッチ勢は問答無用でボスフィールドに叩き出される。
そして見た。見てしまう。
フィールドは薄く霧がかった沼地。
規模は非常に大きい。ざっと見ても直径50m以上は軽くある。外は昼間だったはずなのに、空には星が輝いていた。
妙な寒気を感じる。何処となく不気味なフィールドに場違いな泣き声が聞こえた。
声の主は探すまでも無い。其奴は沼の中央に蹲っていた。
形容するなら妙に柔らかそうな巨大な木の根の集合体。フォルムは大体は人型だが、根で形成された翼がはためきドクドクと脈動する。根というよりは、土気色の血管と言った方が正しいかもしれない。
4本ある手で顔を覆って泣き虫の子供のように蹲っている。
だが、蹲っている状態でも5m以上の大きさだ。
そしてその泣き虫が如何に恐ろしいかは嫌というほど既に思い知らされている。
泣き言がピタリと止み、ゆっくりと其奴はのっぺりとした顔を此方に向ける。
目も鼻もなく、あるのは縦に付けられた口の様な穴だけ。
先程はこの口から吐き出された泥の弾丸であっさり殺された。
しかし、今ままでと一つ違うところがあった。星々がやたら煌めき、その煌めきがボスを覆っているのだ。
日本サーバー第1章シナリオボス【雲泥の遺児ヒュディ】。
【雲泥の遺児ヒュディ】の表記の横にある《天遥理虚》という初めて見る謎の表記は何なのか。
小耳に挟んだ事がある。フルメンバーで参加した場合だけボスは特殊な強化が発生すると。
試しに挑んだ検証グループ100人が初撃の一撃で消し飛んだと。
先程の一撃でも逃げ切れなかった泥の弾丸の雨。それ以上の何かを雲泥の遺児ヒュディは行おうとしている。
それを見抜けども、彼等は無力だった。
不自然なのはどう見ても100人参加している様には見えない事。
一体どうして。何が起きている。疑問が際限なく湧いて恐怖で足が震える。
そして遂に雲泥の遺児ヒュディは何かを吸い込む様なモーションをした。
もうダメだ。そう思った次の瞬間、馬鹿デカイ漆黒の炎雷が雲泥の遺児ヒュディの顔面に突き刺さった。
響き渡る雲泥の遺児ヒュディの絶叫。しかしそれどころでは無い。
「は?」
「え?」
彼等だけなく、他の参加者の駆け出し付近のプレイヤーもポカンとしてそのビームの発生源を見る。
其処には漆黒の軍服で統一した衣装の上から毛皮のフード付きコートを被ったピエロマスクの連中が居た。
それを見て驚きの声を上げるプレイヤーが何人も居た。2人は知らなかったが、其奴らこそ日本サーバーに大混乱を齎した諸悪の根源だ。
そして魔法を解き放ったのは、恐らく雲泥の遺児ヒュディに手を向けている桃色のピエロマスクの奴だ。邪神みたいな黒い光背のせいで余計に禍禍しさがあった。
同時に、黒光りする大角が突き出る憤怒の表情を浮かべた真紅のピエロマスクを付けた奴が真っ赤なガントレットをつけて疾走し、狐とピエロマスクを強引に融合させた様な金色のマスクをつけた奴が紫色の妖気を放つ刀を携え追走する。
姿も奇異だが、雲泥の遺児ヒュディとの間を詰めるスピードも尋常では無い。
だが、迂闊に近寄ったプレイヤーには等しく破滅が齎される。
雲泥の遺児ヒュディが迎撃しようとまた息を吸い込むモーションをすると、いきなり巨大な赤い鎖のエフェクトが浮かび上がりヒュディを縛る。するとヒュディは動揺したようにわずかに後ずさり、悲鳴をあげながら手を地面に叩き付けた。
その速度は彼等が今まで見たどの個体よりも早く、爆発した様に沼地の泥が爆ける。
やはりこの個体は通常よりも超強化されている様だ。思わずその攻撃に恐怖して目を逸らした。
いくら痛みがないと言っても、あの速度、威力で叩き潰されたら怖いに決まっている。いや、それさえ知覚できたどうかも怪しい。
しかして、次の瞬間に聞こえたのは雲泥の遺児ヒュディの絶叫だった。
ピエロマスクの2人組は生きていた。それどころか雲泥の遺児ヒュディの手の一本が半分切られており、その手から一気に腕を駆け上がると真紅のガントレットが雲泥の遺児ヒュディの顔面を抉る様に叩き込まれた。
ドンッと凄まじい衝撃が空を走る。
不届き者に死を。
途轍もない衝撃が走っても雲泥の遺児ヒュディはダウンせず、持ち堪える。
顔面ド真前で無防備になってしまった真紅の仮面の奴に対して雲泥の遺児ヒュディはすかさず口から何かを吐き出そうとする。
その時、サッと空に影が走った。
目視も難しい異常なスピード。黒い翼が舞う。
嘲笑の笑みを浮かべた黄檗色のピエロマスク。手に持つ二つの大瓶から何かの液体が蒔かれ、星空の輝きに照らされて光る。
奇妙なマスクを付けた漆黒の堕天使が強引に割り込むと同時に雲泥の遺児ヒュディの口に大瓶の一つを叩き込んで攻撃キャンセル。隙をついて顔面を思い切り蹴って水泳の様に一気に空中でターン。
自由落下していた真紅のピエロマスクの奴をギリギリで回収する。
それでもなお追いすがるヒュディの口元に火を纏った何かが吸い込まれた瞬間、思わず顔を背けたくなるほどの大爆発が起きてヒュディが絶叫する。
「なんだよ、アレ…………」
空を飛ぶ存在など聞いたことも無い。だが、確かに飛んでいるのだ。
ボスの頭が吹き飛びかねない衝撃を発する爆発が、たった二手で為されたのだ。
続いて出現したのはアンデッドの軍団。口に何かを咥えさせられた犬型ゾンビの群れが絶叫し身悶えするヒュディに突撃する。
死霊特有の死を恐れない突貫。煩わしいと言わんばかりに怒りの悲鳴を上げてヒュディは叩き潰すが、同時にヒュディの手から白い煙が漏れ出し、何度目かの絶叫が沼地に響き渡る。
まだ第一形態でしかないと分かっているが、恐怖の存在でしかなかった雲泥の遺児ヒュディが対等に、いや、一方的に殴られている。
攻略方法を熟知されている。
あまりの光景に言葉を失い棒立ちになるが、徐々にピエロマスク集団と雲泥の遺児ヒュディの戦闘は激化し余波だけでも吹き飛ばされそうになる。
いつの間にか駆け出し組はできるだけ攻撃が飛んでこない場所に集まっていた。
そして先程ピエロマスクの集団を見た時に反応を示した、何かしら事情を知っていそうなプレイヤー達に声をかけてみる。
「なあ、あれ…………アレはなんなんだ?誰か教えてくれないか」
同じ事を考えていたプレイヤーは彼だけではなく、他のプレイヤーも事情を知っていそうなプレイヤーに視線を向ける。
いきなり話しかけられたことに少し驚いた様だが、そのプレイヤー達は顔を見合わせて話し出した。
「逆にお前らは知らないのか?日本サーバーが壊れかけた超弩級のイベントで暴れた、そのイベントの発端となった連中の噂を。動画みなかったのか?」
そう言われてふと気づく。
第三陣が参加する前に起きた大事件。動画が幾つも上がり、考察動画が乱立し、大手のニュースサイトまで取り上げた事件だ。
聖女と舌戦を繰り広げ遁走した涙を流す青いピエロマスクをつけた男。
ピエロマスクの集団の真ん中にはその男が立っていた。
軍服を纏った他の奴と同じ様にフード付きの黒コートを羽織っているが、1人だけ動画と同じ様に、真紅というよりは黒に近い毒々しい赤色のローブを羽織っていた。
その男は死霊を自由自在に操り雲泥の遺児ヒュディを翻弄する。真紅のコートは紅く輝き、不吉な黒いオーラが立ち昇る。
恐ろしき集団を付き従え、死霊を操る様は圧倒的悪人。頭のてっぺんからつま先まで悪に染まり切った不吉と破壊の象徴。
彼等はその様を撮影しようと試みたが、何故か彼等の姿には真っ黒なノイズが走りうまく撮影出来ない。
明らかに特殊な存在である事を指し示す存在感、攻撃。
互角に渡り合っていた様に見えたが、雲泥の遺児ヒュディが先に膝をついた。そのまま蹲ると、沼地の泥が動き出し雲泥の遺児ヒュディを覆い姿形を禍々しい形へと変えていく。
第2形態になった雲泥の遺児ヒュディは立ち上がり天に向けて咆哮する。
星空が泥で覆われる。泥の天蓋。その天蓋が丸ごと落ちてくる。
エリア無視の無差別攻撃。落ちた泥に地面に叩きつけられると同時に飲み込まれて圧殺する雲泥の遺児ヒュディの切札。
蚊帳の外にいると思っていた駆け出し組はポカンと思わず空を見上げる。
遂に死んだ。終わった。そう思った瞬間、途轍もない熱気が顔を焼き思わず悲鳴をあげる。
漆黒の稲光を内包した大火炎の竜巻。
フィールドの半分を覆う様な災厄が突如出現し、泥の天蓋を吸い込み強引に吹き飛ばし雲泥の遺児ヒュディを焼く。
それでも尚雲泥の遺児ヒュディは抗おうとするが、次の瞬間に見た光景により、駆け出し組は本当に声ひとつ出なかった。
大火炎の竜巻に照らされて揺らぐ雲泥の遺児ヒュディの巨大な影。その影がグニャリと歪むと“ムクリと立ち上がり雲泥の遺児ヒュディに殴りかかった”。
サイズは立ち上がった雲泥の遺児ヒュディを超える巨体。真っ黒な靄の塊の化け物が雲泥の遺児ヒュディに飛びかかる。雲泥の遺児ヒュディはすかさずカウンターをするが、その攻撃は透けて抜ける様に影の化け物に効果を見せない。
見た目は完全に大怪獣戦争。
影の化け物と取っ組み合いになった雲泥の遺児ヒュディの隙を突いてピエロマスクの奴らは攻撃を次々と仕掛け、雲泥の遺児ヒュディの悲痛な悲鳴がまた響き渡った。
同時にドパン!という聞きなれない音が悲鳴に紛れて聞こえる。
見れば、無表情の乳白色のピエロマスクと、ネコ科の動物とピエロマスクを強引に融合した銀色のマスクをつけた者達が何かを構えていた。
遠目では見えづらい。しかしそのフォルムは見間違えようがない。
「おい!アレ銃じゃん!そうだよな!?」
銃というよりは大きく、砲と言うには少し小さいが、そのフォルムは明らかに銃火器の其れで、銃口と思しき場所から白い煙が燻る。
本来ありもしない武器。
あってはならない武器が其処にはあり、其処から放たれた弾丸が雲泥の遺児ヒュディに着弾とすると内蔵されていた魔法が解き放たれて内側から雲泥の遺児ヒュディをズタズタに引き裂き、業火で焼き殺す。
使用している当人達からすると普段使ってる現代銃火器などと比べるのも烏滸がましい劣化品なのだが、的がデカいお陰でブレまくっても荒削りすぎな状態でもしっかり弾は当たる。
度々放たれる規格外すぎる魔法ほど法外な威力は無いが、スピードは比べるまでも無し。
雲泥の遺児ヒュディは次々と攻撃を繰り出すが、前衛2人が全て綺麗に捌いて銃士の2人を守り、間隙を縫うように見惚れる軌道で漆黒の天使が飛び回り身体中を斬り刻んでいく。
依然として影の化け物は雲泥の遺児ヒュディに絡みついており、次々と現れる死霊に覆われて状態異常が次々と発生して沼地の支配者を底無し沼の底の更に下へと招待する。
もがけばもがくほどに苦しみは増す。何か大技をしようとすれば規格外な魔法か砲撃が放たれて攻撃が強制的にキャンセルされる。
そして遂に雲泥の遺児ヒュディの切札と魔法が激突。余波で全て吹っ飛び駆け出し組は天地が分からなくなり、その中でクスリと嗤い声が聞こえると同時に翼がはためく音が聞こえた。
次の瞬間にはナイフの煌めきが目を焼き、彼等の首は沼地を無様に転がり、その全てを見届ける事はなく死に戻りさせられる。
視界が黒く沈む中、彼らは真実に気付く。
なぜ攻略組より早くボスを突破した連中が出たなどと言う噂が出回ったのか。
倒した連中は見ればわかる。そして噂が信じ難いのも納得できる。この状態では自分達が倒したなどと言えるわけもなく、映像証拠もなく、観たのは信じ難いものばかり。
実際に自分で見なくては信じられないものばかりで、言葉を尽くして語るほど自分が法螺吹きに思えてきてしまう。
ボス戦は死んだらその時点で離脱扱いだが、他の参加者が討伐してくれればその時に参加していたプレイヤーもボスを倒したカウントになる。
システム上、自分達もこれでボスを倒したことになるのだろうが、口が裂けても自分達が倒したなどと言えるわけはない。
あの戦いを見た後でそんな嘘をつける度胸のある馬鹿はいなかった。いるはずもなかった。誰があの光景を説明したところで信じてくれるというのか。まともに取り合ってくれるというのか。
それが、第一章シナリオボス討伐イベントと同時に流れた噂の恐ろしい真相であった。
(´・ω・`)冷静に考えて、3回も失踪してこれだけまだ読んでくださるのは本当にありがたいことだと思いました
(´・ω・`)今後ともよろしくお願いいたします




