No.138 壊れたおもちゃ
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽明日投稿すると言ったが一回とは言ってない(本日2回目更新)
それはノートも見たことのある場所だった。いや、比べ物にならないくらい綺麗だったが、確かに噴水広場だった。既に噴水自体はほとんど完成している。
スラム解体も済んで、周囲の光景はノート達が見ていたものとほぼ同じだ。違うのは、ノート達がみた景色は異様に荒廃していたということだった。
そんな噴水に、“聖女自身が模様を彫っていた”。
「わけわかんねぇ…………」
自分の予測と食い違う光景。思わずそう呟くとネオンが不思議そうな目で見る。
「いやな、今まで噴水に彫られていた、あの崩壊を齎した女の正体があの聖女みたいな奴だと思ってたんだが、聖女自身がその模様を彫ってたら話がおかしくなるだろう?」
ネオンも映像を見ているうちになんとなく聖女の正体は予想していたらしく、ノートの言葉になるほどとうなずく。
あそこに彫られていた一連の物語は今までの宗教的な言い伝えの可能性の方がかなり高かった。時系列的には其方の方が整合性があったからだ。
だが、このイベントが開始して、無貌の聖女を見るに、その姿は噴水に彫られていた禍々しい女とそっくりなことに気づく。
預言として誰かがあの噴水に物語を彫り、その預言通りに赤月の都が滅びたと考えていたが、預言した人物と預言された人物が同一とは聞いたことも見たこともない。
見間違いか、それとも引っ掛けようとしてるのか。少しボヤけて見難いが、よく目を凝らすとやはりそれはノート達が嫌になる程見つめていた噴水の模様の様に思える。
やがて無貌の聖女は模様を彫り終え、何かの魔法をかけた。
聖女は背後に控えていた騎士に何かを指示した。ノート達が見る限り、聖女が銀甲冑の騎士に何かを指示したのは初めてだった。
騎士は躊躇うことなく少し屈んで噴水に触れると、噴水から漏れ出た光が騎士に宿り、そのタイミングで騎士の後ろから無貌の聖女がそっと自分の首にかけていたペンダントをかけた。
「…………だよな」
これであの騎士の正体がノートの中で確定し、そしていよいよ噴水の物語と実際に起きたであろう災厄の食い違いに首を捻る。
再び視界が切り替わる。
そこは今まで見たことのない場所だった。いや、よく見れば覚えがある。そこはノート達が赤月の都に訪れる時に通った中立区域となっている墓場だ。
時間は深夜。薄暗い墓場にいるのは聖女と銀甲冑の騎士の2人だけ。いつもは外に居る時大量に引き連れているお供や他の騎士の姿が1人もない。
赤月の都に繋がる通路の上にあった石碑の下を聖女が魔法で埋め立てる。そしてその土に旗を突き刺した。
やたら分厚い旗で、暗くてよく見えないがビッシリと何かが書かれていた。雲が少し晴れ、月光が薄く差す。よく見れば地面にも墓石にもビッシリと何かが書かれており、その中心には旗があった。
そしてその俯瞰した墓石の並びを見てノートはふと気づく。この配置はまるでナンバーズシティの周りにあった墓石の並びに似ていると。
真似たのか、それとも……ノートが更に混乱しつつあるのを他所に、聖女が天に手を掲げて何かを唱えようとする。
そこで初めて銀甲冑の騎士が聖女に何かを言った。今まではただずっと後ろに付き従うだけだった騎士が、何かを言った様に見えた。
だが、聖女は振り返り短く何かを言うとそれだけで騎士は引き下がってしまった。しかも聖女からかなり離れた位置に立った。
そして儀式が始まる。
黒い靄が墓を揺蕩う。死が踊り出す。骸の影が浮かび上がる。
ノートはそんな光景に見覚えがある。
死霊術師の鬼札〈秘到外道魔法:デッドマンズ・ナイトメア・ワンダーランド〉。死の気が強くなった時に現れる特殊なエフェクト。アレに非常に似ていると。問題は、その使い手が死霊術師ではなく民から慕われる聖女様みたいな女であると言う点だが。
聖女が手に持つ旗が光輝くが、光に群がる蟲どものように墓から漏れ出した黒靄が旗に群がる。
聖女からも白い光が出ているが、その光は旗にガンガン吸収されている。そして逆に黒い靄が流れ込み、手が急速に老けていく。
やがて限界に達したのか、今までどんな状況でも前を向いていた聖女が苦しげに胸を押さえて膝を地面についた。
それでも儀式は止まらない。
旗を中心に描かれた陣の光は徐々に強まっていき、銀甲冑の騎士もジッと見ているだけだ。どんな気持ちで聖女の様子を見ているかは甲冑のせいで測れないが、手が震えていた。
恐らくこの儀式は公にできない代物なのだろう。
そして聖女がいよいよ倒れるというところで遂に儀式が終わる。月明かりが聖女を照らし、一瞬で駆け寄った騎士が聖女を抱き止める。
グッタリとした体に生気はなく目は虚。旗を握っていた手は完全に萎びており、その手に騎士はそっと手袋をつけた。
一方で、何かよからぬ物を大量に吸い込んだと思える旗は、グッタリとした聖女とは対照的にまるで生きているかのように生き生きとはためいていた。
◆
聖女が謎の儀式を執り行って以降の展開は速かった。
聖女は儀式以降常に手袋をする様になった。どうやら手の劣化は元に戻らなかったらしい。それでも精力的に活動をし続け、例の旗を肌身離さず持ち歩くようになった。
旗の効果は絶大だった。
彼女が旗を掲げれば、民も田畑も癒され、恵みが齎された。しかも旗は使えば使うほどその威力を増しているようにノートには感じられた。
最早彼女の成し続ける偉業の前にお供共は口を噤んだ。口を出せないほどに彼女の力と権力は圧倒的な物へと変貌を遂げていた。
「あの旗…………」
「私達がここに連れてこられる前に見た旗と似ている気がします」
そんな聖女が持つ旗にノートとネオンは見覚えがあった。噴水の中に封じられていた旗の幻影。この旗から伸びた手に捕われたのだ。
恐らく、開発陣の想定通りに進んでいれば旗の存在を示唆する物はもっと多く見つかったはずなのだろう。普通なら旗を見て「アレが例のヤツか!」と興奮できたのだろうが、如何せん色々とショートカットしすぎてノート達のリアクションはちょっと薄かった。
開発担当は悔しさで尚泣いた。
だが、その旗が恐らく碌でもないというか、ノートやネオンのネクロノミコンやパンドラの箱に匹敵するチートアイテムに近い物である事はノート達もなんとなく分かった。
そんな旗を携えた無貌の聖女の快進撃は続いたが、遂に転機が訪れる。
巨大な礼拝堂で祈りを捧げた後、旗を携えてその場を後にしようとすると、2人の少女が立ちはだかった。
それは最初に見せられた光景の中で、無貌の聖女と共に櫓に乗っていた少女達だった。
あの様子から見るに偉い人なのだろう。周囲からは崇め奉られている無貌の聖女に対しても怖気付くことなく何かを訴え始めた。
後ろで控えていた銀甲冑の騎士が仲裁しようとしたのか前に出ようとしたが、無貌の聖女は軽く手を挙げて止めた。
どれほど聖女が活躍しても、周囲の反応が変わっても、銀甲冑の騎士だけは常に彼女の背後に控え続けていた。
ただ、旗の儀式以降からは今までの機械的な態度から少し人間的な態度が垣間見えることがあった。その時は決まって、聖女に何かしら悪い事が起きる時なのだ。
2人の少女は何かを懸命に訴えるが、無貌の聖女の反応は実に静かだった。顔が見えないせいで表情が読めず真意は分からないが、猛る少女達に対してあまりにも自然体だった。
結局、口論というよりも一方的な訴えかけを聖女が躱し、埒が開かないと感じたのか2人は去ってしまった。
同時に、何処からともなく不穏なBGMが聞こえ始めた。崩壊を示唆するような、暗い不協和音が響く。
そして決定的な瞬間は訪れた。
いつもの執務室で書物をしていた聖女は羽根ペンをそっと置いた。かなり長く前から取り組んでいた研究の様で、今までで最も長い文章になっている。
それが遂に完成したのだ。
部屋に差す月明かりの光のみ。彼女は其れを見つめて高笑いをした。まるで壊れたおもちゃの様に。聖女という仮面の下で限界まで溜め込んだドス黒い何かが溢れ出した様に彼女は腹を抱えて嗤った。
唐突に発狂した様にも見えるが、ノートにはそう見えなかった。
彼女は何かをずっと探していた。求めていた。誰の手も借りず、たった1人で研究を重ねていた。
その研究の果てが、証明された何かが、彼女にとっては狂ったように嗤うしかない代物だったのかもしれない。
彼女は徐に部屋に掲げられたとあるシンボルを魔法で破壊した。大きな円を12の円が円形に囲う宗教的なシンボル。今まで見せられた映像の中でも何度も出てきたシンボルだ。
それをトップの地位に立っているはずの無貌の聖女が破壊したのだ。
次の映像に切り替わった時、聖女は旗を持っていなかった。常に後ろに居続けた騎士の姿も無かった。
彼女はただ1人、設置された高台の上で演説を始めた。いつもと違うのは、高台にいるのが彼女だけなのと、空が赤く染まる夕暮れ時なことだろうか。
彼女の説法は常に民にとって希望であり、誰もが喜んで傾聴した。だが、今回はどうも気色が違うことは直ぐに分かった。
民が騒めいている。顔を見合わせている。常に静寂の元に行われた説法は騒ぎ出した民のせいで成り立っていない。
それでも無貌の聖女は何かを説き続けていた。
やがて皆が聖女に指を指して何かを言い始めた。聖女の元へと押し寄せた。警護をしていた騎士達と民が衝突し酷く醜い動乱が始まった。
騎士は強いが民の数も圧倒的だった。
お供達も混乱している様だが、依然として演説をやめない聖女をなんとか引き退らせようとした。だが、聖女は演説をやめなかった。
彼女から赤い光が立ち昇る。演説だと思っていたそれは途中から詠唱へと変わっていた。その光に護られて誰も聖女に近づけない。
やがて民の勢いに騎士が押され始めた。放たれた火が高台に引火し勢いよく燃え始めた。それでも、聖女は詠唱を続けた。
燃え上がる炎は聖女でさえも燃やし始めたが、聖女は上を向いて祈るだけだった。肝が据わってるのではない。最早これは狂気だ。
やがて赤く染まっていた空を闇が覆い始める。
同時に暴走する民衆の奥で爆発が起きた。いや、爆発が起きたと錯覚するほどに民がいきなり吹っ飛んだのだ。
民を容赦なく薙ぎ聖女の元へ迫るのは姿を消していた銀甲冑の騎士。凄まじい勢いで民草を蹴散らし聖女の元へと猛進する。
だが、遅かった。
急に全てが赤く照らされた。
顕現するのは巨大な赤い月。それを見て聖女は炎に抱かれながらも狂った様に笑った。
赤い月から何かが降り注いだ。するとその場に居た民がバタバタと倒れていく。そして背から、頭から、悍ましい何かが身体を突き破って出てきた。
誰彼も、例外なく、逃げ惑うも容赦なく全ては斃れていく。民も、護衛の騎士も、お供も、赤い月に照らされ死んでいく。
立っていたのは銀甲冑の騎士と聖女だけ。銀甲冑の騎士は苦しそうに蹲っていたが、それでなお這って聖女の元へと進んでいた。
吐き出した血はドス黒く汚染されていた。赤い不吉な光が身体を蝕んでいた。それでも抗った。
その目の前で、空に手を掲げた聖女は、赤い月から滲み出してきた黒靄の触手を掴んだ。それが如何に恐ろしい物か、喚び出した張本人である彼女は知っていた筈なのに。
遅れて空から今度は白い光が降ってきた。いつの間にか城の屋根に1匹の獣が君臨し、空へ吼えた。
その獣は幾たびも見てきた神の御使と思しき獣。その雄叫びに応える様に天使共が舞い降り、赤い月に一斉に攻撃を始めると共に街へと破壊の鉄槌が落とされた。
預言の続き。神の怒りに触れた地には破壊が齎される。
天使共は果敢に赤い月へと攻撃を仕掛けるが、赤い月の強さは圧倒的で、天使共の方が次々と撃墜されていく。
だが天使共は無限とも思える量で次々に投入され、遂には空を埋め尽くし、何か杖の様な物を一斉に掲げた。そして全てが白い光に染め上げられ、全てが霞に飲まれた。
【KP】探索者達は長きに渡り見ていた赤い月の正体に気づきSAN値チェック1d10/1d100
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽ ああずっと、ずっと側にいてくれたのか……
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽我が絶望………
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽我が月光よ………
No.115後書きで赤月の都が出てきた時、都に纏わるストーリーのヒントは出してたんだよなぁ………まぁ更にIF解釈してる上に別の偉人もモデルに入れてますが。後書きで唐突なこと言ってる時はウルトラC難易度のヒントだと思って頂ければ(わかるわけが(ry)




