No.136 土の匂い
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽ネタバレの時間じゃオラァ!
「うぉ!?」
「きゃあ!?」
ノートは唐突に聞こえた歓声に驚いて咄嗟に頭を低くし、完全に油断していたネオンは悲鳴を上げてよろめき目の前にいたノートに抱きついてしまう。
急に聞こえたそれが歓声である事は理解できるのだが、まるで解像度が異常に低い映像の様にハッキリと声を聞き取れない。
ノートは咄嗟にネオンを抱え周囲を見渡し死霊を召喚しようとする。しかし魔法が発動しない。
どうやらこの空間はメッセージ機能などの一部機能が死んでいる様に非常に特殊な空間の様だ。
故にただ警戒レベルを上げて辺りを見渡すしかないのだが、周囲は相変わらず深い霧に包まれ、歓声は全方向から聞こえてくる。
何かの特殊なイベントか。ノートは取り敢えずメニューから撮影モードをONにして待機していると、急に足元の霧が晴れた。しかし全体的に不鮮明さが目立つ。視界もややぼかされていて、音は水中から聞いている様な感じだ。
視点的には空から見ている感じだろうか。多くの人々が同じ方向を向き歓声をあげる。服装的には王道の中世ファンタジーを感じさせる服。
更によく目を凝らすとその服には何処となく見覚えがあった。
民衆の目線の先にあるのは、城壁の手前に設置された櫓の様な物の上に立つ者達。
人々の顔には影は無く、溢れ出るエネルギーで目が焼かれるような気分になるほどの活気が満ちている。周囲の建物は清潔で、この街の技術力の高さを感じさせた。
なんのイベントだかはよくわからないが、櫓から3人の女性が民衆に向けて親しげに手を振っている。
女性達は清純さを感じさせる白い僧服だが、身分が高いのか色々と緻密な意匠が施されている様で、目まで少し隠れる様な大きなフードにも見える白い被り物をしていた。
少し覗き込むように目線を下げると、女子達の背後、櫓の奥には大柄な銀甲冑の騎士が控えている。
櫓の周りを下で守る騎士達に比べてもその甲冑は明らかに上質な物で、腰に何本も剣を差していた。恐らく櫓の上に乗る事を唯一許されるほどの者なのだろう。
無論、下に居る騎士が弱そうというわけでは無い。見たことのない動物、メダルや噴水にも彫られていた獣の紋章が胸に彫られた甲冑を着込み、小型のドラゴンの様な物に騎乗し周囲を睥睨する騎士達は非常に強そうだ。
その騎士の中でも幾人かは旗を掲げていた。
3人いる女性達に対応しているのか、掲げられた旗には3種類のシンボルが刺繍されていた。
1つは右手側にある円の中に接する様に2つの長方形がちょうど窓の様に並んでいるシンボル。
1つは左手側にある円の中に大小バラバラの3つの円がそれぞれ接する様に並べられたシンボル。
この2つのシンボルは何処か強い既視感がある。
一体何処で?と首を傾げて、なんとなくネオンに視線を向けるとネオンはコクリと頷いた。
「えっと、確かあのシンボルは僧服やメイド服を着た、強めのアラクネやラミア、あとそのボス級であるルーナウラ、ソーラシルからもドロップしたメダルに彫られていたはずです。関連性があるのでしょうか?」
そういうとネオンは慣れた手付きでメニューを操作してスクショを見せてくれる。
ノートはそれを聞いてモヤモヤしたものが晴れると同時にネオンの記憶力の良さとマメさに舌を巻く。
どうやらネオンは新しくゲットしたアイテムは取り敢えずスクショしてフォルダ管理しているらしい。ただその写真を見つけ出すまでのスピードが速すぎた。
これが若さかなどと頓珍漢な事を考えつつ、ノートは一際目立つ真ん中の旗を見る。
円の中にXの様な記号が描かれて、線にそれぞれ接する様に2つの円が描かれている。
これに関してはネオンは見覚えがないらしい。
だがそれ以上に気になるのがそのシンボルに対応していると思われる櫓中央に立つ女性。左右に立つ女性が其々見覚えのある杖と大鎌を携える中で、何も手に持ってない。
だが、その首から豪華な意匠が施された剣状のペンダントを下げていた。
そして、その顔は何故か真っ黒に塗り潰されていた。
もともと空から見下ろす様な視界な上にボヤけているので個々人の顔をハッキリと見分けるのは困難を極めるのだが、黒く塗り潰したせいで却ってその存在が異様に目立っていた。
立ち位置的にも恐らくこの場に於ける最重要人物。
彼女が天女の様に柔らかに手を振ればぼやけてもわかるほどに民衆が色めき立つ。服装から考えるに聖女、城壁の前を占領してこんなイベントを開催している辺り姫の様な身分のラインもあるだろう。それほどまでに慕われているで高貴な人物のはずなのに、顔が塗りつぶされているせいで禍々しく見えてしまう。
「どう見る?この光景」
ノートは試しにネオンの見解を聞いてみるが、ネオンは只々困惑していた。
恐らくこの状況に於いてもネオンがやたら落ち着いている様に見えるのは1番信頼している人が自分を守ってくれてるから。この状況に思考が追いついているわけで無く、無理矢理飲み込もうとして喉に小骨が刺さった様な顔をしていた。
「そもそも、私たちって今何処にいるんでしょうか?きっとユリンさんたちも心配してると思うので、取り敢えず無事である事はお知らせしたいのですが……」
前回の反省を踏まえてメッセージ機能を使おうとしたのだろう。しかしステータス画面には文字化けした正体不明の状態異常が表示され、メニュー画面のメッセージ機能の欄は黒く表示されて沈黙していた。
こういう時、実はリアルの方面からのアプローチを考えるところだが、VR世界の中は現実時間より2倍速で時間が進んでいるのでリアルからの直接的な連絡ができない。
それに無闇矢鱈に連絡をして万が一相手が戦闘中だったりとすると気付かれなかったり、気を散らしてミスを誘発させてしまう事もある。
つまり、女王蟻戦でもそうであった様に、基本的には死に戻った側が連絡を取るのは難しい。ノート達から連絡をしないとユリン達には状況が分からないのだ。
と言ってもアグラットを使って悪魔の視界の共有で戦闘を中継するなどという荒技も出来なくはないわけだが、今回は無理そうだとノートは読んでいた。
予測するに此処は夢幻の世界。故にスキルも魔法も使えず、只々この光景を見せつけられているのだろう。
問題は、これを誰が何の意図で見せているのか、だ。
ALLFOらしくない演出。今までに見たことのないメニュー画面の異常。
もし天使勢が黒幕だというのならば、神敵認定されてるノートにわざわざこんな光景を見せる必要があるだろうか?むしろ問答無用で殺しにきそうだ。
だがこの世界に引き摺り込まれる前に見た光景はどちらかと言えば天使系の演出で、その不一致がノートを混乱させる。
「ユリン達には悪いが、今撮影している映像を後で共有するしかないな。ログアウトは流石に出来るらしいが、多分続きから見せてくれるほど親切でもあるまい。スキルもダメ魔法もダメ、オマケにインベントリまで死んでると完全にお手上げだぞ。取り敢えずこのイベントは全部見るしかない」
恐らくトン2達はノートから話が聞ければそこまで気にしないだろうが、考察厨気味のヌコォは映像で観れるなら見たいだろう。それに一度撮影すれば後で見返しも可能だ。咄嗟にイベントの撮影を開始したのはゲーマーとしての癖だった。
因みにこの撮影モードは良くできていて、撮影者を起点に360度視聴者側で視点を操作して映像を見ることが可能である。ズームアップやズームアウトも可能だ。
この技術は先行して映画業界などにも提供されており、今までは撮影に手間がかかることも難なく撮影できるようになっている。
つまり2人きりだと油断してノートにちゃっかり抱きついたままだと後々でバレるわけで、ネオンの顔が赤くなったり青くなったりと忙しい事になっていた。
そんなネオンを置き去りにする様に再び視界に靄がかかり、歓声が遠くなると同時に霧が再び晴れた。
次に見えたのは広い農地を歩く無貌の女性の姿だった。
お供達が引き留める様にピッタリ横に着いて歩いているが無貌の聖女は気にした様子もなく、足が汚れるのも構わずに農地を歩き、背後で農場主と思われる恰幅の良い男が恐縮した様にペコペコと頭を下げている。
それに構う様子もなく、お供が止めるのも間に合わず地面にしゃがみ込み土に手を添える。
何か魔法でもかけるのかと思ったが、聖女は手で土を掬い上げると顔の近くに持っていった。お供がいよいよ顔を青くして引き止めようとするが、聖女に何かを言われたのかすごすごと引き下がる。
顔が塗り潰されていてやっている事は詳しくは分からないが、恐らく土の匂いを嗅いでいるのだろう。或いは何かを観察しているのか。
相変わらず空からの俯瞰だが、先程よりも視点が近いお陰で何をしているのかよくわかる。
やがて聖女は土を弄ったり何かの液体を瓶から垂らしたりして一通りやりたい事を終えたのか、最後に袋にある程度の土をお供に回収させ、恐縮しすぎて最早地面に額をつけんばかりの農場主に何かを言って立ち去った。
何をしていたのかは詳しくは分からないが、見た感じ土の状態を調べていた様に見えた。
ただ、何故そんな真似を明らかに高貴な者と思われる者がしていたのかはよくわからない。連れていたお供も10人以上いたし、それ以外にも騎士が5名も付いていてそのうち1人は櫓の上にいた銀甲冑の騎士に見えた。
聖女が何かする度に顔を青くしたり動揺を見せる周りの者と比べ、この騎士だけは全く動揺していなかったのが印象的だった。
肝が太いのか、それとも何か別の理由があるのか。顔が見えないのが少々歯痒いが仕方がない。
だがしかし、そもそもこの光景を見せられる事になんの意味があるのか。根本的な疑問にノートが囚われる一方で、再び視界に霞がかかった。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽小タイトルを考えるのが楽しい今日この頃
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽明日も更新あるぞい




