No.129 ポンコツなロボット
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽ゲリラだオラァ!
数日間に渡り噴水広場周りに長時間腰を据えていた結果、ノート達は赤月の都の敵の湧き方にある程度パターンがある事を理解していた。
対黒騎士用の作戦を構築する上で、更に2日かけて入念に情報を精査した。
どうやらこのフィールドの魔物はある程度群れを作って動いているパターンと、建物に1人から5人程度で待機しているパターンがあった。
建物内の敵はエサ。コイツらはどうやら周囲にいる敵を惹きつける効果を持っているらしく、下手に構うと周囲から敵が集まってしまう。
その引き寄せ効果の範囲内に群衆タイプが入ってしまうと一気に敵が押し寄せる。ただし、群衆同士はある程度距離を保って一定のコースで徘徊しているので一気に押し寄せる事はない。
この現象が交互に起きる事で敵の湧きに波がある様に感じる。これがウェーブの正体だ。
問題は群衆の規模だ。
小さい物でも最低20、最大で100を軽く超えてくる。
ノート達が黒騎士から逃げる際に遭遇してしまったのはこの群衆の最大サイズ。完全に運が悪かった。
群衆の規模になると耳を澄ませば移動している音が聞こえるし、遠くから先に視覚やスキルなどで察知する事も可能だ。
ノート達はグレゴリがいるので、高度をかなり上げてもらい俯瞰すれば群衆との接触は出来るだけ減らすことができる。
一点注意すべきなのが、浮遊型の敵との会敵。
特に豚ゾウリムシは吼えて周囲の敵を呼び寄せる害悪極まりない能力を持っている。
対処策は今のところグレゴリの新能力かダイスの女神にお祈りするしかない、という中々厳しい状態だ。
救いがあるとすれば、豚ゾウリムシの出現エリアが噴水広場からより城壁に近いゾーンである事。噴水広場までなら遭遇確率は然程高くない。
これらの魔物の特性や周回ルートを分析し、黒騎士だけを釣る様な状況を編み出す。
「周囲の敵は?」
『○』
グレゴリからの解答は良好。敵影なし。憎たらしい豚も見えない。
作戦を第二段階へ。
ノートは筋力の高いマッチョなゾンビを召喚する。
コースを徘徊しているのは敵の群衆だけではない。敵の流れを作っている者が明確に存在する。
それが黒騎士だ。
群衆の徘徊ルートは幾つかのパターンがあり、噴水広場周りには大体6つのルートがある。
群衆は其々のルートを通り徘徊しており、グレゴリの視覚情報の録画を見ていたヌコォは『まるで電車みたい』と感じた。
群衆は基本的に距離を保っているために接触し無いのだが、実は複数あるルートは何処かしらでクロスしている部分がある。
まるで大きな駅の様に2つの路線が集まるポイントがあるのだ。
そこでもし群衆同士が遭遇すると、まるで電車の乗り換えの様に一方の群衆がもう一方に吸収され、大きな群衆となり吸収した方の群衆のルートを巡回し始める。
これがある程度増え続けると出現するのが黒騎士だ。黒騎士はまるでリセットする様に大きくなりすぎた群衆に突貫し皆殺しにする。
つまり、群衆のルートを割り出すと黒騎士の徘徊ルートもある程度予測できる。
黒騎士がフリーな状態で噴水広場に接近するのは1時間に約2回。うち群衆が周囲に居ないのは1回。
狙うのはそのタイミング。
マッチョゾンビはノートの指示を受けてメダルの詰まった箱を持ち上げる。
筋力にかなり特化していてもかなり重いらしい。かなりよろけつつではあったが、半ば引き摺るように箱を持って噴水広場から離れていく。
異様に静かな都の中でチャリチャリと金属音が鳴り、ゾンビの呻き声が聞こえる。
やがてその重量に耐えきれなかったのか、ゾンビは劣化した石畳に躓きメダルを派手に床にばら撒いた。
あちゃー、と思わず目頭を抑えるノート。
結構真面目に作戦を組んでいたので全員若干ピリついていたのだが、それを見て思わずユリン達もクスッと笑ってしまう。
ガシャーンという派手な音。メダルが無常にもコロコロと床を転がり収拾がつかない程に散らかる。
其れでも、良い意味でも悪い意味でも召喚主の命令に忠実な死霊は箱を持ち上げて再び歩き出す。
因みに床にばら撒いたメダルはそのままだ。これが低級な戦闘用の死霊の思考レベルの限界である。
見た目はおどろおどろしいのだがまるでポンコツなロボットの様な挙動を見せるマッスルゾンビの姿に意図せずして『祭り拍子』にも緩い空気が流れる。
そんな癒しを齎してくれたマッスルゾンビ君が突如として真っ二つに斬り裂かれ、『祭り拍子』の空気が一気に引き締まる。
空から堕ちた漆黒の一閃が石畳を砕きながら降り立った。
『ᬤ䉃吤氼吤Ⱑ⨡ℛ⡂!ਛ⑂㔮䵍⑃⑆⑨③⑇⑊Kᬨ!
怒り狂った獣の如き唸り声。
天に向かって、口から黒い液体を噴き出しながらも黒騎士は吼える。
そして、黒騎士の視界にノート達の姿が目に入る。
瞬間、襲いかかってきたのは真っ黒な炎の塊だった。
◆
黒騎士は瞬時に黒く発光した剣でネオンの放った凶悪極まりない魔法を斬り裂こうとする。
大振りで飛び掛かってきた場合には放つと打ち合わせがあった大火力魔法。ネオンは作戦通りに着地した隙を狙う様にユニークマジックでストックしていた魔法を放った。
しかしこれでは前回の二の舞。黒騎士には魔法を斬る能力があるのは既に判明している。
故に、策を弄した。
黒騎士は魔法を斬り裂くべく一歩踏み出そうとし不自然に歩みが止まる。そこに魔法の影から的確に強弓より放たれた鎌鼬の矢が迫る。
速度は矢の方が速く、先に放たれた魔法とほぼ同時に黒騎士に切迫する。
しかし、放たれた矢は黒騎士に当たる手前で不自然に減速し、次の瞬間には黒騎士の周囲の地面が爆発して鉄釘などがばら撒かれる。
「エグいなぁアレ」
立案した張本人も思わず苦笑するコンボ。
ゴヴニュとアテナの合作である罠が完璧に機能していた。
ネオンの魔法を斬り、トン2達をいとも簡単に退け、鎌鼬の矢さえ剣で弾いた。
一見無敵に思えるほど強い黒騎士だが、鎌鼬の矢がヒットしている瞬間がある。
それはメギドが黒騎士と戦っていた時に援護として放たれた矢。単体では弾かれるが、別の攻撃に対して対処をしている時には流石に黒騎士も一手反応が遅れる。
其れでも尚剣の軌道に強引に合わせて弾く事もあるが、単体で放たれた時よりも格段に被弾率が上がる。
重要なのはこの同時攻撃の状態を発生させる事。
同時に攻撃が発生した場合は黒騎士はどの攻撃をガードするか選択を迫られる。
そして、その選択肢を更に掻き乱す事でより大きな隙を作る。
例えば、罠。
攻撃に対して迎撃を行おうと踏み出す辺りに罠を仕掛けておく。
その罠を避けようとして一手遅れる。同時に迫り来る矢を認識し更に状況が複雑化する。
だが、その矢が狙ったのは黒騎士ではなく、仕掛けられたトラップを発動させるために張り巡らされたトラップ起動用の糸。この糸を矢が切り裂いた瞬間、不発した罠が強制的に発動し黒騎士を襲う。
小型のボス級個体は対処がかなり面倒だが、一方で人型の罠が通じ易いという事でもある。この利点をノートは突いた。
ALLFOには感知という能力が存在している。グレゴリも持っている便利な能力で、例えばそこに罠があるかどうか漠然とだが瞬時に判断できる。
これが有れば宝箱に罠が仕掛けられていても迂闊に罠にかかることはない。
だが、この仕様には穴があるのでは無いかと裏スレ検証勢の1人が指摘した。
例えば、宝箱に罠が2つあった場合。
感知で罠がある事自体は分かっても、個数までは把握できない。そしてその2つ目の罠が、もし1つ目の罠の解除がトリガーとして発動する様な罠だった場合どうなるのか。
これだと折角の感知も役に立たない。
また、指摘を受けて色々と話し合った結果、罠の発動条件に纏わる検証も行われた。
例えば糸を引っ張る事で発動するタイプの遠隔機動型の罠があったとする。
この場合、罠の感知はどこまで適用されるのか?どこまでを罠とALLFOは判断しているのか?
発動の起点となる糸か?それとも糸によって発動する仕掛けか?
極端な話、宝箱から罠の存在を感知したとしよう。それを解除すべく恐る恐る近寄る。しかしその罠が宝箱手前の地面に隠されていたスイッチで発動するタイプだと避けるのが難しくなるのではないか。
感知の範囲がハッキリしなければこの様な事態に陥ることも十分に予測出来た。
実はこの問題は他のゲームだと厳密なルールがあったので然程問題視されていなかった。だが、ALLFOでは自由度が高すぎた故にいつもはあまり深く考えられてこなかった部分にもスポットが当たっていた。
当然この書き込みを見たノート達もグレゴリの協力のもと色々と実験を行った。
結果、条件の全ては絞り込めなかったが幾つか面白いルールも発見していた。
その一つが、罠が他者の働きかけで発動した場合の処理。
例えばAというフィールドの地面に地雷式の罠を仕掛ける。
一方で、その地雷を即座に発動できる様な糸を使った仕掛けも組み込んでおく。
すると何が起きるのか。
グレゴリ曰く、罠の仕掛けられた範囲以外、Aのほぼ全域が罠の感知対象に入ってしまいどのような罠なのか分からなくなってしまうらしい。
その罠と連動する様に別の仕掛けが仕込まれていたらもうお手上げだと。
そんな場合の為に、より精細な感知が可能な『探知』という技能があるのだが、これは逆に探す物を先に指定して能力を発動させるので、その探し物が条件と不一致の場合見逃す可能性がある。
例えば複合型の罠。単体では罠として機能しない物を探知では見逃す危険性があるのだと。
以上を踏まえた上でノート達は策を練った。
フィールドに出現する魔物の知能は割と差がある。
特に強い個体ほど超直感めいた感覚で罠を回避してくる場合が多い。
ノートはこの仕様を敢えて逆手に取る。
気づいてしまう事で選択肢が奪われる。発動してもしなくても罠として機能する罠をこの噴水広場の周囲に張り巡らせた。
短時間で効果的に罠を張るのは簡単な作業では無い。
黒騎士がほぼフリーで噴水広場に訪れる僅かなタイミングの為に、周囲に警戒しつつ罠を的確に張るなど不可能に近い。
だが、それを可能としてくれる存在が『祭り拍子』には存在する。
罠に於けるプロフェッショナル。フルメンバー以外の時によく利用されている罠を作り続けてコツコツと知識を蓄積してきた。ノート達の無茶ぶりになんとか応えてきた。
罠師という顔と、策略家という極めて相性の良い2つの顔を持つ存在、それがアテナである。
死霊ゆえに経験は蓄積できても能力的な伸び悩みが長く続いていたが、その今までの蓄積が進化により力強く開花した。
今のアテナにはノートでも唸るような罠を作成できる。罠を実践でどのように使うかは反船イベントで既に学んでいる。あとはその情報を元に、ランダム追加技能である『策略』の能力を発揮する。
因みにこの技能、取得しているNPCの数は魔物含めて20未満という非常に特殊な技能である。
職業解放条件に取得困難な称号が関わってくる“軍師”系職業に就き、ある程度の成果を得ることで初めて取得できる能力が『策略』だ。
この能力は予見や看破などといった有用な能力が複合的に組み合わさった能力であり、罠師との相性は最高クラス。アテナはノート達から黒騎士の情報を聞き、今回の作戦を聞いて、自らも作戦立案に進言しそれにあった罠を作り上げた。
ALLFOのNPCにはそれぞれ思考レベルに上限が設けられおり、プレイヤーに対する干渉度にも色々と制限がかけられている。その中でも『代行』や『策略』といった一部の特殊な能力は、実はNPCが取得することでその制限の上限を開放するという極めて特殊な性質を持っている。
タナトスやアテナの自立性の高さはこの能力にも原因があるのだ。
因みに、余談だがゴヴニュの持つ『工匠』は生産関係に於いてのみ制限を解除する代わりに、思考能力と同時に生産に於ける能力のみを限定的に強化する効果がある。
単なるNPCがプレイヤーメイドの武具の性能をやすやすと上回る物をゴヴニュが作り出せるのは完全にこの能力が原因である。
逆に、能力によっては制限を強化する物も存在する。メギドの『辛狂復讐者』、キサラギ馬車の『占星』はこの厄介な類の能力に分類される。
対象の思考は単調な物に陥るが、一方で尋常ならざる力を与える。というより、思考レベルを下げないと耐えられないほどに強力な能力なのである。
閑話休題。
アテナの進化は罠師としての能力だけではない。当然、『策略』の能力も上昇している。
死霊の進化は潜在的に召喚主の行動が色濃くでる。召喚主の積んだ経験が反映される。これは死霊のスタイルと召喚主のスタイルの乖離を防ぐためのシステムだが、アテナの策略はノートと非常に相性が良かった。
故に、ノート達の作戦にも違和感なく進言が可能になる。ノート達を唸らせる提案ができる。
そう、黒騎士は既に、最悪のトラップフィールドに足を踏み入れてしまっていたのだ。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽明日から盛り上がっていくぜベイベー!




