No.127 魔法の核
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽今日も元気に更新じゃい
「御主人サマ、この噴水の設計者は稚拙な言葉を使うならばまさしく“天才”でありマス。魔法的な結界を構築する陣と物理的な機構を組み合わせて立体的な結界陣を形成していマス」
作業を開始してから1分ほど。せっかちだとは思いつつ進捗を聞いてみると、作業中な事を謝罪した上で噴水に様々な針の様な物を差し込みつつアテナは報告する。
「立体的な結界か。その陣というのは、錬金術みたいな物か?」
「近しいモノですが、厳密には少々違うかと。専門分野では無い為具体的な解答が出来ず申し訳ありまセン」
「いやいや、気にするな。じゃあ分かる範囲で説明できるか?」
アテナ曰く、まず『陣』というのはこの世の法則に干渉する為の小単位法則、広義の意味では機構に近いらしい。
エネルギーの流れ、定義、構成、世界を支配している膨大な量の法則の極一部を抜き出し、形を与えているのが陣。
故にその扱いは難しく、未発達な分野。
この世界に存在する以上、この世界に在る万物は世界の法則に支配されているとも言えるし、『全てが法則(情報)を保持している』とも言える。
つまり、物が持つ法則を書き換えればそれが別の物体になる事もあるし(上位化錬金・下位化錬金)、別の物質を出現(錬成)させる事もできる。
物質の内蔵する法則の書き換えによる変化。
コレが所謂『錬金術』の本質らしい。
魔法は自分の持つ『意志(精神的なエネルギー)』で自然界の法則(陣)に限定的に介入する力。
魔法の元には緻密な陣が隠されており、自分達は其れを繰り返し使う事で無意識のうちに陣の性質を学習し、その改良版の陣、つまり新たな魔法の行使が可能になる。
自然界にある陣は物質的な陣での干渉が困難。故に錬金術の陣の様に魔法を手書きの陣で発動させる事は非常に難しいらしい。
因みに自然界中の陣の一部を切り取り安定性が高い物を高度な技術で転写した魔法の発動媒体を『スクロール』と呼称するそうだ。
一部しか切り抜いていないのでスクロールは絶対に本当の魔法には到底及ばない。方向や出力の調整なども一切できない。しかし簡単な魔法程度なら使えるので便利ではあるらしい。
陣の記憶量、再現性が魔法の強さに直結する為、精神力(や知力)の高い者ほど魔法を上手に扱える。
また、物の法則を書き換える錬金術に対し、エネルギーに陣(属性・性質)を与える。
これらが魔法に於ける原則である。
と言っても、実際に人やアテナ達が使う魔法はもう少し簡略化されているそうだが、本質は大きく変化していない。
アテナはそう説明した。
では召喚陣は?
ノートがそう問いかけるとアテナは困った様な顔をした。
物質を捧げ新たな物体(生命)を創り出す部分は錬金術に近いが、魔法に近い要素もある。加えて死霊術師の召喚は普通のソレより更に複雑らしい。
そもそも、魂の貯蓄がどんなメカニズムで管理され、どんな術理でノートがソレを消費し新たな死霊に魂を与えて使役しているのか。
錬金術にとって“魂”は物質とエネルギーとも定義し難い謎の存在。
何方の法理でも魂にアプローチする事は不可能に近く、あったとしても禁術扱いになるらしい。
召喚される魔物が、死霊が、何処より至り、意志を持つのか。それがわからないとアテナは呟く。それはアテナ自身への疑問でもある。
一方で、最初から明確な意志を持つ者を喚び出す悪魔召喚に関しては意味不明だとアテナは匙を投げた。
そもそも陣からして通常のルールから完全に外れ過ぎているらしい。実際、アグラットが出現する際に元々書いてあった陣が勝手に書き換えられアグラットが出現している。
考えられるとすれば、この世の法則とは違う陣(法理)による現象が召喚なのではないか。
召喚に関する陣はかなりイレギュラーだとアテナは結論付けた。
言われてみれば、プレイヤーも言わば別の所から召喚された存在に近い。召喚系に関する法理には別次元への干渉を可能とする能力があるのかもしれないとノートは納得する。
その上で、この噴水はその不可能に近い所業を成しているとアテナは絶賛する。
錬金術の陣は2次元、平面的な陣だ。
対して魔法は3次元的な球形の陣を形成しているらしく、人間が完全な形で物理的に模倣するのは不可能に近いとの事。魔法的なエネルギー、魔力塊で形成されるこの球体を『魔法の核』と呼ぶ事もあるそうだ。
この核を切り取り平面的に見る事でスクロールはできている。
そしてこの噴水は、その3次元的な陣を実際に高い精度で再現出来ているそうで、人間の技では無いとアテナは言う。
コレに近い仕組みに覚えがあると言うので聞いてみると、街を護っていた結界が近い物だったのでは無いかとアテナは自信なさげに答える。
ただアレはもっと規模が大きく複雑で、その場にいる人間の精神を魔法陣の一部に利用しているのではないか、と。
アテナの説明にノートは納得すると同時に驚愕していた。
今アテナの説明した事は世界のシステムに関わる重要なフレーバーテキストで、まだ誰も理解できてない、そもそも気付いてすらいない要素だ。
なのに何故こんなにもアテナが詳しいのか。
根本的な部分について問うと、これまたアテナは難しそうな顔をする。
どうも知識の半分は進化の時に“自然と得た”物らしい。生まれながらにして自分が様々な知識を持っていた様に、初めからそうであったかの様に知識を会得した。まるで、誰かに植え付けられた様に。
残り半分に関してはなんとアグラットが出所だった。
錬金に関してアグラットがタナトスに教えている時に一緒に教わったらしい。その現場をバルバリッチャに見つかりアグラットは叱られたので全ては聞けなかったが、魔法に関する知識は色々と与えてもらえたとの事。
そしてそれを『ノート達に、特にノートには気安く明かすな』とも言われたそうだが、そこまで呟いてアテナの顔がサッと青褪めた。
どうも喋ったら不味い部分まで喋ってしまったらしい。
自分の見てない所でAIは何をしてるんだろう、と何処か冷静に疑問を抱くが、恐らくこれも『与えられた仮定の中で1人1人が人間らしい動きを取る様にシミュレーションした結果』の情報なのだろう。
例えば、タナトスはアグラットの為にお菓子を作っているので、アグラットはタナトスに対して好感度が高い。
そのタナトスは料理のために錬金を使って材料を得ている。新たな材料を得るには錬金術の研究が必要不可欠だ。
加えてタナトスは曲がりなりにも魔法の究明者たるリッチであり錬金術も使う。2つの本質が近い物だと実は理解していたとしても不思議では無い。
一方アグラット。此方は魔女の女王、魔法のプロフェッショナルだ。
タナトスが錬金に行き詰まり、ちょうどお菓子をねだりに来た魔法のプロフェッショナルであるアグラットに相談をする。
タナトスの錬金術の向上は自分の食生活の向上に直結する。故にアグラットが得意げに錬金術講座をタナトスに行う。
其処にゴヴニュへ部品発注をすべく鍛治部屋に向かっていたアテナが通りかかり、面白そうな話をしていると一緒に魔法講座に参加する。
アテナ自身は魔法の専門では無いが、進化後には魔法や錬金の技能も会得している。機構自体に魔法を組み込む事も一気に増えたので是非とも知識を増やしたいところだろう。
その現場にやってきたのがバルバリッチャ。
悪戯にノートに知恵や力を与えない彼女からすると今回のアグラットの行動はアウトだったのだろう。アグラットはとっちめられ、タナトスとアテナの2人はノート達に今回学んでしまった事を口外しない様に命じられた。
恐らくアグラットが罰を受けた事に気づけなかったのは、アグラットに何かあるとノート達が気づき、其処から何かを探られる可能性があったからだろう。
故にアグラットには目に見えない形で罰を与えたが、基本的にしっかり者のタナトスやアテナに対しては口頭による指示だけとなった。
結果がこのウッカリ口滑りである。
アテナは久しぶりの指示に歓喜し、テンションが上がっている。また、ノートのオリジナルスキルの効果には従属している対象への強制力を持っている。
この2つが組み合わさり、ウッカリ話してしまったのだ。
理論的に予想してみてもおかしな点がない。脳内シミュレーションも簡単にできる。
いよいよ人間らしいと言うか、ノートには最新のAIに機械以上の何かが宿っている様な気がしてならなかった。
今思えば、1人だと仕事が大変になったなどと今まで言ってこなかった事をアグラットが言い出したのは、ノートに対する密かなヘルプだったのかもしれない。だが、もうそれは神のみぞ知るだ。
実際に会話を交わすと自分の見えていない所で、ログに残らない出来事が見えてくる。改めてノートは死霊達とよく会話をする様にしようと心がける。
そんなノートを他所にアワアワと慌てるアテナだったが、死霊でも青褪める機能が有るのかと内心思いつつ宥めておく。
今回の件は別に誰かが悪い事をしたわけでもないのだ。万が一トラブってもバルバリッチャは頑固なだけで話が通じない相手ではない。
何かあってもフォローはしてやるとノートは励ますのだった。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽またしても何かやらかすアグラット
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽今回開示された魔法関連の情報は一般のプレイヤーまた図書館だとか魔道士系のNPCのイベントを進める事でゲットできます(フレーバーテキストだけど割と重要)
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽因みにノート達に対する干渉方法に関してはAIの中でも意見がかなり割れている




