No.124 実は全部ダミーで
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽超久々ゲーリラ♪
「何か見つかったーー?」
「もう嫌だーー!こんなところにいられるか!俺は帰らせてもらう!」
「あ、あと少しだけっ……!お、おおお、お願い、します…………!」
日を改めて、皆で集まれる日に再度赤月の都の攻略に乗り出したノート達。
また閉まっている可能性もあったが、グレゴリの導きで隠された出入り口に向かうと普通に通ることができた。
遠目で見ると霧が立ち込めてよくわからなかったが、ノート達が近づいた途端に晴れたのだ。どうやらなんらかの条件を満たした存在にだけ開かれる通路の様に思える。
立地にしてもなかなか悪くなく、通常のプレイヤーならここに至るまでは相当苦労する事が予測された。
よって、ノート達は大胆にも赤月の都の中立エリアにミニホームを引っ越しした。
どう考えても攻略には時間がかかるし、座標があやふやと言う事は普通のスキルでは居場所を割り出す事もできない完璧な立地だ。
メンバー満場一致での引っ越しだった。
はてさて、そんなあれこれで少々ロスタイムがあったが、初見時と違いアイテムも揃っており数日の間にアテナとゴヴニュが武器や装備品の補修も行ってくれてある。
敵の動き方も分かっているし、道筋も鎌鼬とヌコォの2人が覚えているので全く迷わない。
ノート達は初見の約半分の時間で目的地であるメダルを見つけた広場にたどり着いた。
「黒騎士エンカが怖いが、できる限り頑張ろう」
そうして始まったのは、ノート達の予想を遥かに超える気の遠くなる様な作業だった。
◆
ネオンには聞こえていた。
『こちらへ来てください。私はその広場の中心の下で待っています』と呼びかける嗄れた女性の声を。
『鍵は貴方の側に在る。虚を見よ』とも。
ノートには朧げにしか聞こえていたなかった声が鮮明に聞こえていたのだ。
なぜネオンだけがそこまでハッキリ聞こえたのかは分からないが、何か隠しエリアがありそうだと予想できて心躍らないゲーマーなど居るわけがない。
入り口は既に示された。あとは近くにあるという鍵を見つけるだけだ。
『近く』の尺度が街一つ分だったというオチは最初から無視した。というより信じたくなかった。
それを信じなくとも、その鍵候補は余りにも多過ぎた。
恐らく何万枚という単位で存在するこのメダル。膨大なメダルの中で正解はたったの一つ――――――
と見せかけて、実は全部ダミーで本命は別にありました、トホホ。
――――なんてベタ過ぎる展開はよくある話。
大概一般のプレイヤーが苦難する中で、主人公がひょんな事からアッサリ正解を見つけてしまうなんてご都合主義はもう胸焼けする程創作物の中で見てきただろう。
だが、お約束という奴はお約束になり得る理由がキチンとあるのだ。
ノートも最初はその線を疑い、メダルを無視して徹底的に噴水の周りを調べた。
鍵を探すならまず鍵穴を確認する。見落としがちだが非常に当たり前のことを徹底する、が、見つからず。
噴水やその周りを幾ら観察しても其れらしい物はなく、しかして新たな発見は不意に訪れる物である。
「これさ〜もしかして動くんじゃな〜い?だよね?」
「え?マジ?」
噴水が重要なオブジェクトであること自体はよく観察すれば直ぐに理解できた。というのも、ノート達でもドン引きしたメダル以上に緻密な細工が噴水に彫り込まれていたからだ。
象形文字とアルファベット、ヒエログリフが歪に組み合わさった様な記号で描かれる謎の絵。
何処かに鍵穴があるのでは無いかと全員が目を凝らし探した。
メダルに描かれた化け物が吠え、人らしき影が逃げ惑い、王冠が砕け、槍が交わされ……と、如何様にも解釈できそうな絵と向き合った。
そして、そんな絵を指でなぞっていたトン2は気付く。幾つかの図は押し込むと動く事に。隠し絵の様に複雑に幾つもの絵が重なっているが、慎重に押し込む事で一部分だけが浮き上がり一つの小さな絵が浮かび上がるのだ。
「…………まさか、正解の絵を描き出せって事なのか?」
「嘘だろっ!?めんどくせぇ!もうぶっ壊そうとぜッ!あん時みたいによっ!」
なんらかのシナリオがありそうなのに、其れが文字という形で残されていない。
では如何にストーリーを考察させる気なのか。ノートはリアルに拘るALLFOがどんな形で合理性を保つのか気になっていたが、その答えはユニークかつ残酷だった。
恐らく、このギミックとデザインを考えた人物は間違いなく天才なのだろう。
一つ作るだけでも難しい隠し絵を同時に何百も、文字らしき記号だけで立体のオブジェクトに対して書き上げているのだ。
発想力が常人離れしているというか、例え思いついたとしても実現できるはずの無い代物。22世紀現在でもオーパーツレベルの芸術品である。現実世界に持ち出してもさぞかし高い価値を得られただろう。
ドン引きとか気持ち悪いとか怖いとかその次元を通り越し、一周回ってノートは最早感動していた。
同時に、シナリオライターがこのエリアに対して非常に力を入れている事が嫌でも分かってしまう。
こんな事ができるなら他にもっとリソースを割けたはずだ。それでも尚この地に拘ったというのなら、それはどの様な意味を表すのか。
「ALLFOはこの場所に何を隠してるんだ?」
『感覚惑乱』の状態異常による進路の撹乱、立体迷路、2体同時エリア限定型ボス、パニックホラーレベルの敵の襲撃数、『不繋圏外』による全パラメータダウンというトドメの一撃にダメ押しの黒騎士。
厳重さが指し示す答えは
―――余程重要な物を隠している。
ノートにはそれしか考え付かなかった。
◆
「…………なんか違う方法無いかな?」
「城の中に答えがあるとかぁ?」
「それが一番有り得る」
「でも黒騎士エンカが怖いぜ。オレ達でも全く歯がたたねぇ化け物だぞっ」
「城の中も一筋縄では行かないでしょうね」
「お城は……怖い、です」
噴水の謎を解き明かすのは非常にキツい作業だが、魔物どもには全く関係ない。
噴水の周囲にとどまり続けると集まってくるので倒し、中立エリアに戻ってヘイトリセットをして、また噴水広場への往復。
1番活躍していたのは、遺跡などの盗掘や墓暴きなどその他諸々のアンダーグランドな探索者の技能を総合的に有する職業『冒涜者』についているヌコォ。
今までは余り使われなかったスキルや魔法が使われメキメキと解析能力が上がっていく。
しかしそんなヌコォでも3日目の段階で第三者から見ても分かるほどに不機嫌になりつつあった。
常に冷静を重じる彼女でも、解析作業中に職業候補先として出現した『解読者』を血迷って第三職業として選びたくなるくらいにキツい作業だった。
押すと動く絵は何個か間違っていると最初からリセットされてしまう。
動くからといって正解ではなく、絵から物語を紡がねばならなない。そして、『物語』という事は、当然時系列が存在する。
ノート達が行っているのは巨大なジグソーパズルに挑むような物だ。しかも、無地で辺も角も見当たらない鬼畜なジグソーパズルである。
本来であればヒントを集める事で無地のパズルに絵が浮かび上がり、角や辺を形成するピースを得ることができる。
組み立てる事は難しいが、一つ一つ根気よく取り組めば解ける謎なのだ。
しかしノート達はその作業をすっ飛ばして進もうとしているので中々作業が進まない。誰もが段々やめたい雰囲気を漂わせていたが、半端にできそうな感じがあるだけに踏ん切りがつかなかった。
何より、一番最初に声を上げて、地道にずっと絵の謎と向き合っているネオンを見ると人の心が無いと言われがちな『祭り拍子』の面々もやめたいと口に出せなかった。
そんな時こそノートの出番なのだが、そのノートといえば完全にムキになって一緒にパズルに向き合っていた。
誰が一番最初にやめようと言うのか。それともこの噴水をぶっ壊そうと言い出すか(もれなく黒騎士とゾンビパニックになる事が予想されていたので断念している)。
『祭り拍子』の面々もそんなチキンレースにいよいよ嫌気が差してきていたが、光明は意外なところから差した。
「え?分かるのか?」
パズルの角を与えたのは、ノート達の作業をずっと見ていたグレゴリだった。
『我、画家』
「あぁ……そうだったな」
スタンプの会話や他の能力で霞んでいでいたが、グレゴリは能力の一つとして邪神のミニチュアみたいなビジュアルの癖して『画家』などという能力を所持している。
そんなグレゴリはずっとある能力を試すと同時に絵を観察していたお陰で『画家』としての能力が成長したらしい。
グレゴリ曰く、隠し絵にはなっているが、本命の絵は癖があるので分かりやすいのだと言う。
だったら最初から手伝ってくれ、と思いたくなるがノート達の苦悩も無駄ではなかった。
ノート達の試行錯誤などを見る事でグレゴリの能力も成長しているのだ。パズル同様、物事の多くにはとっかかりが必要で、なかったとしてもあった方が大きく前に進める。
そのとっかかりが今回の噴水解読だったわけだ。
絵画という視点でアプローチするグレゴリと、遺物という点でアプローチするヌコォ、史実の歴史からメタ的アプローチをするネオン。
彼等は額を突き合わせて、隠された謎を暴き立てる。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽ぶっちゃけると噴水に関しては今の段階で挑む代物では無い




