No.122 1を聞いて1を知る
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本震から何度かの余震が起き、ノート達が中立エリアに到着する頃には地震は止まっていた。
それは良かったのだが、見切り発車の代償が帰還後に待っていた。
色々な事が起き過ぎて誰もが忘れていたが、中立エリアに帰還したものの、どうやってミニホームに帰るのか。ボスエリアからネモの能力でチートじみたルート構築をしたせいで帰り道が開けず、真面目に死に戻りするかで暫し相談する羽目になる。
今回の探索で得た物は多い。キサラギ馬車のインベントリを使う事でドロップアイテム自体は劣化させずに持ちかえる事ができるが、その代わりに積んでいたアイテムの幾つかを捨てる必要があった。
『祭り拍子』にしては珍しいことに、この話し合いはもめこそしないがなかなか決着がつかなかった。というのも、リーダーであるノートがなかなか決めきれず、皆の意見がバラバラに分かれたのだ。
そんな間抜けな事態に陥っていると、地震の影響を調べるべく中立エリアを探索していたグレゴリから報せがあった。
「なるほど、先程の地震のせいか?」
グレゴリに先導され向かった先には、来た時にはなかった結構大きめの抜け穴らしきものがあった。
土で埋まっていたものが地震の振動で露出した様だ。まだ少し埋もれているが十分通れる。
「冷静に考えて、このエリアに立ち入るのにいちいちボスエリア通るの超非効率っていうか管理面倒だしな。この手の措置はあるか」
ALLFOが追従するリアリティに呑まれていたが、この世界はゲームだ。何処かで折り合いはつけているだろう。
恐らく先程の地震はなんらかのイベントフラグか、一定時間滞在による自動発生イベントか。地震の発生後に都合よく帰路らしき物が出現したところを見るにその分析は大きく間違っていることはないだろう。
「ただ、この先が安全かどうかは分からないわよ」
しかしそれに鎌鼬は異を唱え、ヌコォも同意する様に頷く。
なんだかんだ意地の悪い要素が度々見受けられるALLFOだ。脱出経路に見せかけたダンジョンの入り口でした、なんてオチでもあまり驚かない。
本来であれば座標予測で道の先をある程度予想するのだが、そもそもこの場所の座標があやふやだ。高低差さえあてにならない。つまりどんな場所に出てもおかしくない。
それが彼らの足を慎重にさせる。
今度は此処を進むのかどうかの話し合いか、ノートがそう思った時、意外な事にスピリタスの鶴の声ですんなり方針が決まった。
「別に死に戻ってもいいからよ、早く帰ろうぜっ。ネオンがずっとミニホームに1人っきりだぞ」
アクシデントで自分だけ死に戻りするという事態はオンラインゲームに於いてそう珍しい事はない。慣れてくると共通チャットで「帰還したら呼んで」なんて書き残して待ち時間にリアルの用事を片付けたりする者もいる。
だがネオンは凄まじい勢いでゲーム勘が育ちつつあるが、ゲーム的な面以外の事柄に関しては完全に初心者だ。その生真面目な性格も相まって律儀に待ってそうな気しかしない。
なんなら死んでもチャット自体は送ってこれるのに其れさえ無いということは完全にチャットなどの存在を忘れてしまっているのだろう。でなければ性格的に怒涛の長文謝罪チャットが届きそうなものである。
「あの子溜め込んじゃうタイプだから、早く帰ったほうがいいかもね〜」
それに同意するトン2。
トン2が他人を気にかけるとは珍しいと思いつつもノートもコクリと頷いた。
「オッケー、一か八か行ってみようぜ」
◆
結論から言ってしまえば、彼らの覚悟とは裏腹に通路には何の仕掛けもなく普通に通る事ができた。
本当にただのスロープ状の通路で、その緩やかな傾斜を下がっていた先にあったのは岩と岩が重なりあってできた抜け道だった。
恐らく隠されていた通路だったのだろうが、ノート達が通過をした事で何らかの条件を満たしたらしく、岩の周りに立ち込めていた霧が急に晴れた。
「ここ何処だ?」
恐らく森の中ではあるが、深霊禁山よりはもっと下の山林に近い木々。試しに鑑定を発動させると、2の森を指し示す『グリッデンドールの森』の名が表示される。
とりあえずグレゴリに上空からの偵察を依頼。
ノートが過去にとんでもない事件を引き起こした川を目印にする為に探すと、かなり離れたところに川が流れていた。
「街方面から1の森、2の森を通過して、深霊禁山に入るルートが通常だとすると、ここはそのルートからかなり東の方に逸れてるみたいだな。てか上空から確認できるだけでエリアボスがゴロゴロいるぞこのエリア」
「どうする?」
「ランク自体は高い感じではないな。此処が開通するまでのガードみたいな存在だと思うから、キサラギ馬車で強引に抜けられそうだぞ」
全員でグレゴリと感覚共有を行い座標や立地を確認。ノートの出した提案が採用され、無事にノート達はキサラギ馬車によりミニホームまで帰還するのだった。
◆
「本当に、すみませんでした!」
いや〜大変だったなんて騒ぎながらノート達がミニホームの玄関扉を開けると、彼らを出向けたのはマナー講座の御手本にしても良いくらいの綺麗な土下座謝罪をするネオンだった。
友達同士ふざけて土下座をすることなんて珍しい事でもないだろう。しかしネオンのソレはかなりガチの土下座だった。
「いやいや、頭上げてくれって」
ノートとてチャットの存在は気づいている。だが、今回はネオンの反応を見るために敢えて送らなかった。
対面する前にフォローのチャットを一つ送っておくのも候補としてはあったが、ネオンの成長の為に見送ったのだ。
そんなノートでも少々焦る程の本気の謝罪。慌ててノートは駆け寄りなかば強引に肩を掴んで頭を上げさせる。
ネオンはノートの想定よりも遥かに思い詰めていたのだ。
「いいかネオン、これはあくまでゲームだ。ミスなんてよくあることだし、大抵は取り返しのつく物だ。それはわかってるよな」
「はい、でも、私が……」
落ち着かせる様に、ゆっくりと言い聞かせる。されどネオンは目を潤ませて言い募ろうとする。
ネオンも頭の何処かではそんな事は理解しているのだ。あくまでこれはゲームだという事は百も承知だ。
それはそれとして、自分の心に湧き上がる罪悪感と焦燥感が抑えきれなかった。
「オンラインゲームなんてミスしてなんぼよ。確かにソロだと致命的な事も多いけど、頭数揃えてミスをフォローし合える。それがグループで動く事の強みだ」
「ぶっちゃけ俺なんて他のゲームでも結構ヤバいミスした事あるし、その度にユリン達にカバーしてもらった。逆もまた然りだ。最初からなんでも上手くいくない訳ではない」
そんなネオンに先んじてノートは一方的に話を続ける。ノートの言葉を聞いてユリン達もウンウンと頷く。
「ノートは普段トチらねぇ分、トチった時がヤベェんだよな。GBHWでやらかした時とか火薬の量を見誤ってビル諸共オレたちもボスと一緒に吹き飛んだ事あるしなっ!」
「敵対ギルドを一つ一つ潰したら〜、敗残兵が団結してとんでもない規模の敵対組織ができちゃったりね〜?あん時はまだみんな甘かったよね〜」
「ややマグレだったけれど、うっかり顔出してヘッドショットをキメられ序盤に落ちて司令部大混乱、なんて事もあったわよね」
「あったあった〜。あれのフォロー超辛かったぁ」
「弾丸の残弾数確認忘れとか、焦ると道間違えたりとか、そういう些細なミスをよくするけど機転で乗り越えてるイメージがある」
「そもそもちょっと前の日本サーバー巻き込んだあのスタンピードもノート兄の提案が発端だったけどさぁ、あれ自体は想定外もいいところで超アドリブだったよねぇ」
ネオン以外は別のゲームでもノートと遊んでいた者達だ。ノートがやらかした所など何度も見ている。
一応のフォローなのだろうが罪状を読み上げられてる様で内心複雑なノート。一方でネオンはキョトンとしていた。
ネオンから見た『祭り拍子』のメンバーは、なんでも乗り越えてしまう憧れだった。ミスなんてしている所など思いつかないくらい、いつでも余裕がありそうだった。
だがしかし、そうではなく、俺たちもネオンと同じただのちっぽけな人間でしかないとノートは諭す。
何度もミスをして、その都度フォローし合って、調整して、今のノート達があるのだ。
まだ出会って間もないのに一般的には完璧に近い完成度を誇る鎌鼬とヌコォの連携も、当人達からすれば小さなミスは多くまだその擦り合わせを行っている最中だ。
スピリタスとトン2も同様、周囲から見ればどうしてそこまで上手く動けるんだ、と言いたくなる曲芸じみた連携ができるが、それは狙って狙っての物ではなくどちらかが強引に合わせているが故の結果である事も多い。
ミスなど小さな単位で沢山起きている。ただそれを表に出さずに乗り切るだけの才能が彼らにはあっただけだ。
無論、才能という越えられない壁はある。
しかしミス自体はしていて、普通の人と同じ様にそれを無くすべく模索している最中なのだ。
それがネオンにはまだ理解出来ていないのである。
「むしろ、アレだな。ネオンはスゲェよ。今回のだってそもそもネオンのミスじゃないんだけどさ、オンラインゲーム初心者が俺達みたいな奴らと一緒に行動して、ミスらしいミスを起こしてなかったんだから」
ネオンは1を聞いて10理解できるノートの様なタイプの要領の良さはない。1を聞いて1を知る何処にでもいる人だ。
しかし、その知った1を自分の物に落とし込む能力に長けていた。
実際、オンラインゲームで物を知る事自体はやり方がわかればそう難しくないし、更にそれが発展すれば僅かな情報から更なる結論を導き出す考察や検証を専門とするプレイヤーになっていく。
問題は、知っている事とそれを物にできるかは全く別の話という事だ。
その点、ネオンは生真面目なので学んだ事は出来るだけメモして、自分の行動を見直し、地道に一つ一つアップデートしてきた。
時間はかかるだろう。だが着実に自分の弱点を潰す事に特化していた。
「まぁぶっちゃけ後手を取った原因として、オレ達前衛組の警戒が甘かったのは認めるぜ。アレはネオンの仕事じゃねぇ。ダウン取られたのも痛かった。むしろあの状況でよく狼狽えず反撃に移れたなっ!それはマジでスゲェと思うぜっ!」
「そうだね〜、ネオンちゃんのリズムからすれば凄いやり辛い状況だったのに、それを殺して流れを戻してたよね〜。侮っていたつもりはないけれど見直したよ〜」
「そうね、黒騎士のレベルが異常だっただけでネオンさんのあの場での動きは正解だった。むしろアレがなければ全滅の可能性だってあったのだから」
「正直、実際に動き方を教えた私でも成長度合いに関しては驚いているレベル。貴方は凄く強くなった、私達と並んでも見劣りなんてしないくらいに。咄嗟にあれだけの動きができる様になった貴方は、『祭り拍子』の一員として胸を張っていい」
「…………まぁ、ネオンの動きでノート兄が真っ先に落ちるって1番まずい事態は回避出来たしぃ、もう少し自信もってもぉいいんじゃない?ネオンがいないとツラい状況が何度もあったのも確かだし?」
「そういう事だ。誰が悪いっていうより、アイツが強過ぎただけだ。ネオンは俺達と肩を並べる存在としての自信を持ってくれ。今のネオンはただ俺達についてくるだけの存在じゃないんだ。実力を含めて、最早なくてはならないチームメイトなんだよ。だから…………そんな泣かなくていいんだぞ」
ノート達のゲーム歴に比べたら、ネオンのゲーム歴などほんの少しだ。しかも初めて触ったゲームがALLFOであり、決して初心者向けとは言えない厳しい状況下での活動だった。
最初は、素手でも勝てるゴブリン相手に半泣きで逃げ回るだけの無力な少女だったのだ。
初期限定特典『パンドラの箱』ありきの存在。
最初は間違いなくそうだった。指示を待つだけの無力な人間であり、トン2などからは真っ先に切り捨てられていた筈の人種だった。
元々の劣等感に加え、愚かではないネオン自身も自分の事をよく理解していた。
それでも、諦めなかった。
必死で喰らい付いた。
人生で生まれて初めて能動的に努力し、持てる全てを使って足掻いた。
辛さなど微塵も感じない努力に驚愕し、狂喜した。
単に、そんな自分でも受け入れてくれた人の足を引っ張らない様に。
そして、認めて欲しくて、自分を見て欲しくて。
それは無意識下の願望ではあったが、今まで抑え込まれていた感情の爆発は強烈な原動力を彼女に齎し、彼女を徐々に変えていった。
彼女はあまりに弱く無垢であったが、周囲の人々の質によって自分自身も大きく変わる性質を持っていた。
それが悪い方向に働き出来上がったのが今の気弱な彼女だ。
しかしそんな彼女が怯えている暇など無いほど、憧れの人の周りは刺激的で獰猛で才能に満ち溢れ輝いていた。
その座に、その座の入り口に、彼女は狂気的な執念のみで手をかけた。
ネオンの成長は、ネオン自身以上に周囲が感じ取っていた。
まだネガティブで気弱な所は変わってない。それでもネオンは変わったのだ、天才達からも認められる程に。
その努力が、遂に認められたのだ。
もう醜態は晒さない。どんなに辛くても、あの嬉し涙を最後に2度と涙は流さない。そう決めて、いたのに。
溢れ出る涙をネオンは止めることが出来なかった。
止めどなく襲い来る苦難を乗り越え続け、漸くネオンは心から自分という存在に自信を持つ事が出来たのだった。
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽やってる事はアレなんだけど、ネオンが1番友情努力勝利ムーブしてる




