No.116 うっかりカビ生えファンタジー
(≼⓪≽⋌⋚⋛⋋≼⓪≽◟)キョウハイツモヨリオオイゾ
ノート達が巨大な街を発見して翌日。
日を改めて再集合したノート達は長い長いスロープを抜けて再び街に足を踏み入れた。
「おいおい、やっぱり座標的にこんな場所があるのはおかしいだろ」
「スロープを移動する時に【測量士】のスキルで測ってみたけれど、やはり上昇していたわね、しかも体感の傾斜よりも派手に」
女王蟻と戦った時の様に、地下に別世界が広がっているのならまだわからなくもない。
しかし、この場所は通常の地面から下がるどころか上がっており、皆であの蔦でできたボスエリアに入る前の光景を思い浮かべてもこんな場所が存在することなどはあり得ない事だった。
しかもよく考えてみればあのエリア自体、深霊禁山という急勾配な山の中腹にあるエリアだ。この様な平地の巨大空間があるはずが無い。
「あの遠くに見えるの〜、お城だよね〜?」
「多分、お城、です……。見た目は14世紀から15世紀に西洋で建設された、要塞式の城ですね……。でも、城を中心としてこの街全体を取り囲む壁も見えるので、それ以前の城郭都市にも見えますし……」
「ん?ネオンそういうの詳しい系?」
「い、いえ。世界史で習った範囲の話ですので……あ、あの、結構朧げなので、そんな感心されても困りますっ……!」
年齢的に学校の勉強などあやふやなノート、スピリタス、トン2、鎌鼬の二十代中盤組はよく覚えている物だとネオンに深く感心。
因みにネオンと同じく現役JDのヌコォは要らない記憶はどんどん忘れていくタイプなので欠片も覚えていない。
一方現在高3のユリンは理系地理選択なので世界史に関してはノータッチ。それでも言われてみればそんな事を中学生の時に習ったかもしれないと思い出す。
ポイントはその時代に主流となった武器。それに合わせて城の形は変化しているのだ。
その点、単純記憶能力がズバ抜けているネオンはそれがどんな城をモデルとしているかまでなんとなく理解できた。
だが予想以上に感心と注目を集めたので顔を仄かに赤らめて恥ずかしそうに俯き縮こまる。
「まあファンタジーらしい城壁と街並み、城ってところか。ただ街が荒廃してるっつうか、俺達が入れてる時点で普通の街じゃねぇんだろうけどよ」
見た目自体はもう使い減りしすぎて何が正解かわからなくなりつつある西洋ファンタジー世界によく出てきそうな街並み。
ただし色使いに関してはレンガなどから生まれる橙色などの明るさが一切なく、白か黒か灰色に限られているあたりがどことなく美しさと同時に暗さを感じさせ、赤い満月の光が美しく映える。
ノートの言葉にトン2と鎌鼬はピンときてない様な表情を浮かべるが、本来『初期限定特典』持ちは街に立ち入りできない。それはネオンのチェインテンパーメントの効果範囲内にいるトン2と鎌鼬も同様なのだが、基本的に『祭り拍子』が世捨て人プレイ状態なので忘れているのだ。
「建物の間隔、大きさから見て、相当な技術力を持った人達が暮らしていたのかもしれないわね」
「そうだな、サイズ感や構造も人形生物が使っていたものと見て問題無いだろう」
あの時はトン2と鎌鼬は未加入だったので詳しくは知らないが、人形兵器の眠っていた例の廃墟にはおよそ人間では無い知的生命体が暮らしていた形跡があった。
だからこそ今回は色々と注意深く見える範囲で観察してみたが、少し奥に見える街並みは人間の暮らしていた街に見える。
「というより、ここはなんなんだ?中立エリアみてぇだけどよ、どうして通路がこんなでっかい記念碑みたいなオブジェの下にあるんだ?」
「…………単なる目印、って感じじゃないな」
そこには筆記体とはまた違う、アルファベットを極限まで崩した様な文字と、ボスエリアを守っていたアラクネとラミアの上位個体からドロップした金色のメダルに彫られていた謎の存在、その下にこれまたドロップ品に刻まれた『円の中に2つの長方形(窓のように見える)が並んだシンボル』と『円の中に更に大小が不揃いの3つの円が描かれたシンボル』が刻まれていた。
「なんて書いてあんのか分からんのが歯痒い」
「…………たぶん、名前じゃね?こう、記号の間隔的によ」
翻訳スキルか魔法でも有れば読めるのかもしれないが、今のところその様な存在は発見されていない。
人形兵器が中にいた柱に刻まれた文字の解読も一向に進んでいないし、また一つ謎が増えてしまった。
とりあえずここが中立エリアになっているのは確かなので、『テント』を再設置してセーブポイントを更新する。
ここでノートは一つ嫌な予感を覚える。
今まで見てきた中立エリアは、ある意味エリアの境界線でもあった。そして大概ながらその境界の前後のランク差は圧倒的である。
恐る恐るメニューを開き、そしてノートはエリア全体に鑑定スキルを適用させた。
【▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇の都ドラフブル:中央部北区 推奨ランク不明】
深霊禁山が初期段階で推奨ランク20〜、起こしちゃいけない類の物を叩き起こしてその後に推奨ランクが30〜に上昇。つまりランク30までならノート達でも観測できる訳で、その上でランクすら測れないエリアという事は――――――――
鑑定スキルが教えてくれた真実は、ノートの予想とそう違いの無い物であった。
◆
「どうする?まずグレゴリ使ってマッピングでもしてみるか?」
せっかく中立エリアがあるのだからという事で、ノート達はいきなり新エリアに突撃せず車座で打ち合わせを行った。
「グレゴリって何ができるんだっけぇ?」
「単純に物の鑑定などができるけど、それ以外にも視界共有でカメラ付きドローンを操作する感覚で視覚でも偵察できる」
グレゴリの能力は偵察に特化している。故にこの様な新天地の調査にはうってつけだ。
万が一の事態に陥っても『影渡り』でノートの元に一瞬で避難できるのも大きな強みである。
色々な要素を踏まえると、間違いなくこのエリアの攻略はそう簡単ではない。闇雲に突撃すればあの腐った森でノートとユリンがボコボコにされた様にロクな目に遭わないだろう。
確かに、ランク差があるエリアといえば『腐った森』こと『罪穢堕之大腐森』も同様なのだが、あちらはノート達も普通に行動ができていた。
だが、今回はフィールドが建造物が存在する街をメインとしたステージ。広さが確保できず、今までとは違った連携が強いられることが予想される。
フィールドの違いによる難易度の変化はノート達も結晶洞窟で散々経験したのだ。そこを甘く見るほど馬鹿ではない。
「ん〜まぁ〜モンスターの数とか種類を把握しておくのはいいかもね〜」
「見た目って案外蔑ろにできないものよね」
今のところ目に見える範囲は不気味なまでに静まり返っている。魔物の影は無く、捨てられた街並みを赤い大きな満月が照らす。
だがしかし、魔物が全くいないなんて事を想像する平和ボケした奴は『祭り拍子』にはいない。ノートとユリンをはじめとして、何度も何度も色々な事態に直面して、いい加減ALLFOが世間一般で絶賛されている様ないい子ちゃんではなく、なかなか“いい性格”をしてる事くらい分かっている。
きっと中立エリアから一歩踏み出せば、その本性を現すとなんとなく感じているからこそ皆もなんとなく慎重なのだ。
「もう考えるより動いた方がいいだろッ!最悪グレゴリは逃げられるわけだしよ!中立エリアがあればとりあえずはなんとかなるしよッ!」
そんな感じで少し意見交換があったが、最終的には話し合いがめんどくなったスピリタスの一声で方針が決まった。
グレゴリはノートの指示を受けて『感覚共有』の能力を行使。『祭り拍子』の視界がグレゴリと共有される。
「一応先に言っとくが、酔ったらすぐに共有解除してOKだからな。それじゃ始めるぞ」
グレゴリから共有される視界は、ドローンについたカメラを超大昔のVRゴーグル越しに見ているのと近い。特に異常自体が起きるまではグレゴリをコントロールする側であるノートはある程度視界の変化を予測できるが、それ以外は視界が急に大きく揺れたり動いたりすることもあるので酔ってもおかしくない。
それを踏まえてノートは忠告すると、グレゴリと死霊術師の力でリンクを繋ぎ口頭で指示を出しエリアの偵察を開始する。
スーッと高さ10mほどに上昇。その後ゆっくりとグレゴリは中立エリアの境界線である光の膜を通過した。
その瞬間の突如として魔物が大量発生するということはなかったが、グレゴリがすぐさま異常を感知して報告した。
「…………リンクの弱体化?というよりグレゴリ自体の性能も僅かに下降してるのか?」
「フィールド全体型の特殊状態異常ってとこかな?」
ノートが感覚共有を維持しつつもグレゴリの状態をメニューから確認すると、そのステータスには『不繋圏外』という謎の状態異常が表示されていた。
具体的な事はハッキリとしないが、グレゴリの探知可能範囲が1割から2割いきなり減ったところを見るに、恐らくはアビリティ、或いは全ステータスの弱体化。
効果としてはシンプルだが、ギミック自体の凶悪さは異常だ。
それでも『影渡り』その他諸々の切り札は使えそうなのでノートは調査の続行を命じる。
中立エリアから続く枯れ草だらけの草原の先、そろそろ街の端へと近づいたところでそれは突如として現れた。
立ち並ぶ民家の扉を開けて1人の人間が出てきた。
暗い場所で遠くから見れば、その異常性に気づくことは難しいだろう。特に驚かす様なこともなく、ドアをゆっくりと開けてスーッとナチュラルに建物から出てきたのだ。
しかしグレゴリが一定距離以上近づくと、その生気が抜けた様な動きをしていた人型が本性を現す。
左肩から右脇腹にかけて上半身側がバンッと弾けたと思うと、アメーバの様なドブと石油の色をした不定形の生物がウネウネと這い出て蠢き出したのだ。
その汚染されきった様な汚らしい不透明な肉体の中に光る赤い光の玉。それは核か、それとも目玉か。
間違いないのは赤い玉がギョロギョロ動き、グレゴリの方向に向いたところでピタリと動きを止めたことだ。
人間の上半身の左上半分を乗っ取るアメーバ状の不定形生物。その粘体部分がボコボコと泡立つと、そこから十数本の人の手がゾワワワワ!と飛び出してグレゴリに向かって一直線に伸びた。
その見た目はあまりにもグロテスクで、それがグレゴリの視界越しの光景と知っていても何人かは薄気味悪さにビクッと体を震わせた。
それがキッカケだったのか、建物から次々と人型のナニカが出てくる。意思こそハッキリしていないが、見た目がどれもこれもSAN値を全力で削りにきてるとしか思えない冒涜的な姿形だ。半端に人型なのが尚その気味悪さを助長している。
完全に魔物なのかと言えば、そうでもない。人型の魔物の中には何か道具の様な物を持っている個体もいる。そもそもドアを普通に開けてる時点である程度の知能があるのだろう。
追い縋る手から逃げ回るグレゴリの視界に映る魔物共。パッと見でノートがその魔物から感じたのは、人と微生物の融合体の様なイメージ。人が微生物に半端に取り込まれ、ゾンビ化した様な、そんな薄気味悪い印象をノートは感じた。
モンスターの多さは、かなりお間抜け平和主義アイを搭載して見ても多いと言わざるを得ない。世界崩壊後のゾンビ映画よりはマシ、というポップ率である。
おまけにグレゴリが持ってる数少ない攻撃手段である闇魔法で軽く試射してみても、ほとんどダメージを負ってる様に見えないというタフネス。
ネオンの魔法をぶっ放せば物量戦はなんとかなりそうな気もしたが、街の通路はある程度入り組んでおり、効率よく処理することが難しいと予想される。
「………………雑魚敵でこのレベルはマジでヤバいんじゃないか?」
「そんなもんぶっ叩いてみなきゃわかんねぇぞっ」
見た目から考えるに、上半身部分の不定形部分は魔法攻撃のみならず物理攻撃も通じ難い可能性がある。しかし人間の形を保っている下半身部分なら、或いはガントレットに属性を付与すればダメージを効率よく与えられるかもしれない。
【祭り拍子】はまともなマジックユーザーがネオンとノートだけなので、それ以外は自分ならどう攻撃をするかその光景を見て考え始める。
「今のところ何種類ぐらいいる?」
「視界が定まらないからハッキリとは言えないけど、少なくとも通常で5種類は見えているわね」
「うーん、6ぐらいいないかなぁ?」
さながらタチの悪いゾンビ映画状態の街並みだが、ポップする魔物は改めて皆で確認したところ主に6種類いた。
1つ目が1番多いと考えられるアメーバ人。身体の上半身がアメーバ状の生命体に侵食された魔物で、その上半身は可変性に非常に富む。今のところ判明している攻撃方法は、腕触手による追尾で下半身は愚鈍な一方で触手はそこそこ速い。
2つ目がツリガネムシ人。大まかな形は人型だが、裂けた首から太すぎるミミズの様な物が伸びていて、その先に口の広い壺の様な頭がついている魔物だ。
人の部分が割としっかりと保たれており武器となる物を持っている確率が高く、一定距離まで近づくと壺型の口で掃除機の様に吸い込み攻撃を行い、強制的に自分のフィールドまで引きずり込んでくる。
アメーバの印象が強すぎてノート達は同じ微生物枠のツリガネムシを当てはめたが、掃除機人間とも言えなくはないかもしれない。
3つ目がクンショウモ人。上半身全てが主に変異しており、幾何学状の歯車と棘を組み合わせた様な見た目をしている。静止画状態で見れば、その赤黒い色さえどうにかすればお洒落なコースターにも見えなくはない。
上半身がないので腕も頭もないが、その代わりマジックユーザーらしく闇系や呪い系の魔法を使ってくる。
4人目がダニ人。非常に猫背の人型で、その人間の顔の部分は渋柿の様に萎んでいる。その代わりにその首筋に吸い付く様にダニ型生物が人型に癒着しながら吸い付いており、ダニの胴が大きく膨らんでいるせいで何かを背負っている人にも見える。
人の部分が形を保っているだけに逆に解像度が高く生理的嫌悪感が強い見た目のクリーチャーで、今のところこれといって攻撃は見せていないが、周りよりイカつい見た目で防御力は高そうだ。
5人目がミカヅキモ人。これもまた趣味の悪いデザインをしており、人間を土台に巨大なミカヅキモで生花をした様な状態になっており、人間の体から汚い赤緑色のミカヅキモ状の生物が顔や首、胴、背中と色々な場所に突き刺さってウネウネと動いているのだ。
攻撃方法はミカヅキモ突起からのビーム放射。グロテスクだがちょっと見た目がコミカルにも見える攻撃方法である。
6人目がヒドラ人。大まかな形はツリガネムシ人と似ているが、壺頭ではなく、6本程度に分かれた触手が頭部となっているのが特徴だ。
この主要6種の中では最も機敏に動いており、なんだかノート達のトラウマである般若面蟷螂人を彷彿とさせる。
これらの敵性MOBが街中をウロウロしているのだ。感覚器官がどいつもこいつも機能しているかはよくわからないが、グレゴリを追尾して動いているあたりなんらかの方法で敵を捕捉している様だ。
ミカヅキモビームやクンショウモ魔法連射の弾幕を擦り抜けヒドラ人などの触手アタックをグレゴリは全回避しつつも情報収集は続けているので、視界的にはホラーアクションからSF宇宙戦争ムービーにテイストが切り替わっている。
だがそんな圧倒的なポテンシャルを持つグレゴリを最も追い詰めているのが主要6種以外の魔物。
それは豚の頭を強引に張り付けたゾウリムシの様なキモい敵性MOBである。それがブギー!と鳴き喚き口角から黄色い泡を飛ばしながら淀んだ赤い瞳でグレゴリを非常にしつこく追い回しているのだ。
その飛行スピードはグレゴリとほぼ同等。それをなんとかアテナ譲りの空間認識能力が成す飛行技術で撒いているが、豚ゾウリムシも負けじとヘドロの塊の様なものを吐いて妨害している。
ネックとなるのはその鶏モチーフのよく通る鳴き声。これがサイレンとなり他の魔物を引きつける。不幸中の幸いはタフネスは無いこと。主要6種のフレンドリーファイアで次々と撃墜されている。
飛行のモーションは、その大きなゾウリムシボディを軽く波打たせており、その汚い色味に目を瞑れば空飛ぶ絨毯の様にも見える。
そんなうっかりカビ生えファンタジーな空飛ぶ絨毯に何故イカれた豚頭をつけてしまったのか。ノート達もデザイン担当に小一時間ほど問い詰めたい感じのキモさ全振りMOBだった。
因みにあのクルンとしたバネの様な豚の尻尾もついており、その尻尾に赤いリボンの様な物が巻き付いている様に見えるのが小さじ一杯のチャームポイントだが、むしろなにを考えてリボンを付けたんだとノート達はただただ困惑するばかりである。
またこれらの魔物以外にもレアや推定中ボス相当、腐った森で言うところの鮟鱇百足や般若面蟷螂人に相当する存在がチラホラと散見される。
SAN値ゴリゴリパニックホラーファンタジー。
そんな新エリアの実態を見てしまい、ノート達はなんとも言えない表情をしていた。
(≼⓪≽⋌⋚⋛⋋≼⓪≽◟)ヒサシブリニ設定中隔離施設ニトウコウスルゾ
(´・ω・`)本編にも挿入しますが先行して公開します
(´・ω・`)今までの不自然な点をある程度ネタバラシするヤバめの情報が詰まった番外編となってます
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽最近外伝書くのが楽しくて本編が追いついてないし、ボツネタ系を隔離施設に入れるという悪魔の閃きでくだらないネタが出てくる出てくる
༼;´༎ຶ ༎ຶ༽イアイア、ヤーナ[削除済み]




