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No. 113 幼児退行

༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽ちょいと短いけど加速していく



「だああああああ!疲れた!みんなもお疲れ!」


 『仕様』というどうにもならない不慮の事故でサンドバッグになった四面赤子の天使は、誰がラストアタックかわからないほどの猛攻を受けて赤いポリゴン片となり消滅した。

 

 30分以上にわたる長期戦。オンラインゲームであれば別にそう珍しくはないが、VRだと疲労度は大きく違う。ノートはようやく警戒を解いて地面にゴロリと転がった。

 疲れていたのは皆も同じ。戦闘が終わった事を実感しため息をつくと、寝転がったり座り込んだりと休憩の姿勢をとった。



「しっかしまぁ、面倒な敵だったな!てかなんだよアレ。死体から天使が出てくるってどういう事だ?」


 今思い出しても、僧侶型アラクネと僧侶型ラミアの背中からズルリと出てくる様は、どんな弁護人だろうと秒間1万発のマシンガントーカーと言えども『これは天使です!』と言い張れる見た目をしていなかった。

 なんならお菓子を頬張っている時の幸せそうなアグラットを横に置いたらそちらの方が余程天使に見えただろう。


 ノートが、アレ本当に天使か?どっちかと言えば悪魔だろ、と続ければ、皆も同意するようにウンウンと頷く。


「あれってどういう状態だったんだろうねぇ?着ぐるみみたいな物だったのかなぁ?」


「それにしては少し変だと思う。様子も違かったし、アラクネ達の方が反応に人間味があった」


 ユリンはサイズや能力的にもルーナウラ・ソーラシルが赤子天使の操り人形の様な物と考えたが、ヌコォはそれに異議を唱える。


「確かに、アラクネ達は普通に喋ったもんなぁ」


 思い返せば、戦闘を開始する前はルーナウラもソーラシルも喋っていた。

 だがその後に戦った赤子は『おぎゃあ』と赤子の様に喚くだけだったし、語りかけてきた声とも違う声だった。


 一応なりとも苦戦したボスだ。流石に『本体になったら幼児退行を起こします』というのはあまり考えたくはない。

 正直最後に死ぬ前に何か恨み節だか警告だかをしてくるとも思ったがそれさえもなく、赤子は本当にただただ音の出るサンドバッグとして死んでいったのだ。


「というかこの硬さはなんだったんだ?今回はスピリタス、トン2、鎌鼬のオリジナルスキルが大活躍だったが、正攻法で戦ってたら地獄でしかないぞ。ALLFOにしちゃ変なバランス調整だったよな」


 理不尽に圧倒的なまでに強い、というよりは倒し切れないという印象が強かった今回のボス。それでいてオリジナルスキルを使ってズルしたせいかあまり成長は出来なかったし、ドロップも色々な武装の素材などに使えそうではあるが想定よりちょっとショボい。


 やはりALLFOは努力・苦労した分の報酬は発生するし、反面、ズルしたりした分はなんらかの形で得るものを失う。


 それを抜きにしても、今回の戦闘の報酬は労力に見合ってないというか、これだけ厳重に隠していたにしては特に何も無いというのがイマイチ納得できない。


「そーだねー、スピさんのスキルが無かったらぁ〜、第一段階でも結構消耗しちゃったんじゃないかなぁ〜?」


「二、三段階目は言わずもがな、と言った感じよね」


 トン2と鎌鼬の指摘通り、今回のボス戦においてはスピリタスのオリジナルスキルが必要不可欠だった。

 確かにかなりの消費アイテムと時間をかければ、ソーラシルとルーナウラはいずれ倒せただろう。

 

 だがその後の赤子天使に関しては倒し切れるとノートも自信を持って宣言できない。ただそれは天使のMPが有限だという前提の元であり、実際は無限だった事を知っていたらノートも無理だと判断を下しただろう。


 更に言えば、この閉じられたフィールドはもう一つ特殊効果を持っている。それは時間制限によるプレイヤーの強制排除だ。

 これは超長期戦による撃破及びこのフィールドを利用した籠城や独占を防ぐゲーム的なシステムである。

 

 制限時間は、ボス戦に参加するプレイヤーの人数とランクなどで計算されており、今回のノート達だとタイムリミットは1時間12分だった。

 実はフィールドをよく観察すればフィールドの色が徐々に白くなっており、それが時間経過を示していたのだが、ノート達は戦闘に集中し過ぎるあまりそれらの細かい変化は見落としていたりする。


 なのでノート達が見ていた視点よりも更に、今回のボス戦はかなり厳しい戦闘だったのだ。


「本当に……アラクネさんとラミアさんが言っていた様に、ここには何もないのでしょうか……?」


 妙なバランス調整を施された今回のボスの性能に関して皆で色々と考えてみるが、あまり皆が皆ピンとくる意見が出ない。

 やがて話がひと段落し休憩も終わりにしようかと考え始めた頃、ノートの側に近寄ったネオンが首を傾げながら呟く。


 その言葉を受けて、どーだろーなー、と言いつつ当たりを見渡すノート。ボス撃破に変わったことといえば、封じられた出入り口が開通したことだけだろうか。

 

「うーん、なーんもねーってことはねぇんじゃんねぇの?アイツら『守人』とか名乗ってなかったか?」


 かと言って特に何かを見つけられるわけもなくモヤモヤするノートに、スピリタスが言葉を投げかける。


「あぁ、そうだったな。守人………って事は何かを守っていたって事だよな」


「まさか、この美しいフィールドが彼等の守っていたモノ、なんて浅いオチは無いわよね?」


 確かにこのフィールドは花々が鮮やかに咲き乱れ、通常のフィールドとは一線を画す美しさがある。敵も侵入してこないし、休憩スポットとしてはなかなか悪くないだろう。

 『何もない場所だからこそ美しく、そして守るべきである』そんな教訓をこのフィールドはプレイヤーに教えてくれる――――――――


「――――んなわけ無いよな」


 もしかしたら、根が善人なよくある主人公ならそれで納得して立ち去っていくのかもしれない。

 だがノートからすれば冗談じゃない、としかコメントできない。

 お説教御高説教訓美談を見にゲームしに来てるわけでは無いのだ。あんな面倒な戦闘を終えたオチがそんな訳が無いとノートは信じていた。


「そういえばぁ、『虚旧の守人』とか最初に名乗ってなかった〜?『虚旧』ってのがよくわかんないけどさぁ〜」


 スピリタスの言葉に続けてトン2が補足する。答えは出ないがとりあえず今わかっていることを皆がポツリポツリと話し出す。


「そもそも『虚旧』ってなに?造語かな?」


「たぶん、そうだと、思います……」


「漢字の造語って日本語だとまだ意味はなんとなくわかるけどさぁ、英語とかフランス語とか他の言語だとどうなるんだろうね〜」


「確かにどうなってんだろうな?調べてみっか?」


 皆も長い戦いだったせいか腰が重いらしい。考察モードに入るとワイワイと話し始め、タナトスが出発前に持たせてくれたお菓子(アグちゃん用の物を一部拝借しているので質はバッチリ)を食べ始めたあたりで完全にくつろぎだしていた。


 そんな彼女達の声をBGMに、ノートは低い声で唸りながら頭を捻る。


 結局、あのラミアとアラクネはなにがしたかったのか。このフィールドだけでなくエリア全体の違和感は何なのか。

 どうしてラミアとアラクネから天使が出てきたのか。

 どうしてこんなバランス調整だったのか。

 そもそも魔物は魔物であって本来は喋れないはず。であるならばソーラシルとルーナウラは何故喋れたのか?

 メダル、2つのシンボル、法衣、神の敵――――――無関係ではないと思われるのに、全く答えが思い浮かばない。喉まで出かかっているというより重過ぎて胃もたれしそうだ。


 何かソーラシルとルーナウラの発言から見いだせないか、ノートが彼女達のファーストコンタクト時についての記憶をなんとか思い出していると、ふと不自然な事があることに気づく。


 それは彼女達がこのフィールドに足を踏み入れる時のこと。

 森にいたボスや人形兵器、女王蟻をはじめとして、ボス個体というものは独自のフィールドを持ちそこで待ち構えていた。

 それ自体はソーラシルもルーナウラも同じ。だが最初からここにいたわけではない。


 彼女達は、フィールドを覆う蔦の壁が裂け、その先にあった白い光の門から出てきたのだ。

 

 転移、とは違う。

 アグラットやグレゴリ、聖女リナ達の移動方法を見てきたノートは、アレは転移では無いと推察する。

 ではゲート間を移動する何らかの演出だろうか?だとしたら、蔦の壁が裂ける必要は何だったのか?


 ただの演出か、それとも。


 だんだん考察から逸れて雑談を始めたパーティーメンバーを他所に、ノートはフラリとルーナウラとソーラシルが出てきた辺りの壁に近寄る。

 

「どうしたのぉ?」


 そんなノートの背にユリンが声をかけるが、ノートは思考の海に深く沈みきっており反応がない。



「グレゴリ、ここら辺を詳しく調べてみてくれ」


『了。〔OK〕』


 ノートの命令を受けてグレゴリは自分の持つ全ての探知系の能力を使って指定された場所を調査する。

 それから30秒ほど経った頃だろうか。グレゴリはノートに指定された場所以外の壁も調査し、また戻ってきて調査をして答え出した。


『回答、ココ、違和感、〔疑問〕』


「具体的には?」


『奥、未知、金属、❓』


「…………ここだけか?」


『⭕️、正解』


「ビンゴだな」


 触ってみたところで硬く異常に太い蔓の壁でしかないのだが、グレゴリはその奥に何かがあるのを感知したらしい。

 ノートがニヤリと笑ったところで、後ろからユリンが抱きついた。


「ねぇ、さっきからなにしてんの?」


「ん?いや、ようやくこのフィールドが隠してたものと思われる物を見つけたところだ」


「え、マジ?」


「まじまじ。って事で、みんな集合ー!」


 色々な疑問に対する答えになりそうな物の発見。ノートは隠されたソレを暴くべくワクワクしながら皆を呼び寄せた。


༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽そういえばアレだけ出してたパンジャンドラムの元ネタを紹介するの忘れてたなって事で


༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽検索 パンジャンドラム カタツムリ

or

༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽検索 パンジャンドラム 英国面


༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽因みに度々ネタは仕込んでますが今まで一度も反応がなかった小ネタが、No.9に出てきた主任の上司達の名前デス


༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽現在執筆中のそれ逝毛!主任マンシリーズは反動で結構ネタに走ってます


༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽え、しょぼん豚はどこに行ったって?


༼; ༎ຶ ۝ ༎ຶ ༽シラナイナァ………

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― 新着の感想 ―
[一言] >>『仕様』というどうにもならない不慮の事故でサンドバッグになった四面赤子の天使は、 オリジナルスキル×3と言う不幸 >>流石に『本体になったら幼児退行を起こします』というのはあまり考…
[一言] 紅茶をキメてマーマイトを食べればみんな幸せ! ね?簡単でしょ?
[一言] そうか、しょぼん豚は出荷しましたかw このサブタイで異常状態で皆がおきゃると思ったぞw
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