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No. 111 天衣無縫

(´・ω・`)まあ一応言及はしてあったよね


「地に堕ちろ!【戦覇真拳勝負】ッ!」


 周囲から見ればとても単調な、実際はリソースの緻密な計算と腹の探り合いという高度な戦闘をし続ける事30分。スピリタスのオリジナルスキル【戦覇真拳勝負】のクールタイムが終わった事で千日手に入りかけていた戦況が再び動き出す。

 本来ならば熟練値0のこんなバランスブレイカースキルのクールタイムが30分ということなどあり得ない。だがこれこそスピリタスのオリジナルスキルの真価。

 本当の真剣勝負は何時もできなくてはならない。そのコンセプトの元に作られたスキルだからこそクールタイムが極端に短いのだ。


「さてぇ、わたしたちもいっちょやりますか〜」


「そうね、私達だって持ってるもの。この手の敵にはうってつけなモノをね」


 スピリタス無双が展開される中、異形の赤子天使の前に歩み出るものが2人。指定された聖句、その一部が書き換えられた物を詠唱する。

 戦闘系のオリジナルスキルを入手しているのは日本サーバーではたったの3人。1人はスピリタス。では残りの2人は――――――――――


「「【蹂禛僭詆・粛清ノ偽典・天骪無法】!!」」


 モーション指定の通りに腕を逆さ十字に構え、トン2と鎌鼬はそのスキルの名を告げる。


 オリジナルスキル【蹂禛僭詆(ジュウシンセンテイ)粛清ノ偽典(シュクセイノギテン)天骪無法(テンイムホウ)】。

 “元のスキル”は【従神選定(ジュウシンセンテイ)粛清ノ聖典(シュクセイノセイテン)天衣無縫(テンイムホウ)】なのだが、『祭り拍子』加入時に属性反転を起こした時と同様に、職業:粛清者に紐付いたこのオリジナルスキルも共に反転したのだ。


 このオリジナルスキルの効果は、指定対象の弱体化及び対象に対する特攻付与。相手の属性が『聖・光・善』に近い程、このオリジナルスキルの効果が強化される。

 天使にとっては天敵其の物の様なとんでもないイカサマスキルだが、このオリジナルスキルは同時に制約も存在する。それは、スキルの対象となった者を必ず殺し切らねばならない事。

 神前で誓った以上敗北は決して許されない。失敗すれば恐ろしいデメリットが発生する。これがイカサマスキルに課せられた枷。

 

 スキル発動と同時にトン2と鎌鼬の身体が黒く発光し、ユリンの様に黒い翼と光輪が出現する。無論、その翼はただのエフェクトで飛べるわけではないのだが、一気にその姿が神の使徒へと様変わりした様に感じる(と言っても邪神の類だが)。

 因みにノートはそんな2人の様子を見て、リメイクに次ぐリメイクで命を繋ぎつつも遂にネタ切れで惜しまれつつも数十年前に終了し今なお根強いファンがいる仮面なんちゃらシリーズを思い出したのはここだけの話だ。


 一方で地面から黒い光の柱が出現し、スポットライトの様に異形の赤子天使達を照らす。天使にとってはその光は余程嫌なのか身悶えして逃げ回るが、光はしつこく追尾して決して逃がさない。



「いやー………改めて見ても、うちのメンツ持ってる手札がヤバいわ。そんじゃ、いい加減ケリつけるぞ!」


 3つのオリジナルスキルの同時発動。ノート達はその勢いそのまま天使へと本格的な攻撃を開始した。


 



 オリジナルスキル【従神選定・粛清ノ聖典・天衣無縫】は、オリジナルスキルの中では例外的に習得条件が少なく、かつ完全に確立されている。

 1つ、大サーバー(国単位のサーバー)の中で最も早く性質を善へ到達させる。(先駆者が権利放棄or一定期間すれば次に1番早い人物に発生フラグが立つ)

 2つ、高成績でバウンティーハンターギルドから発行される超高難度クエストの完走。


 条件はたった2つ。されどこの条件をクリアできるプレイヤーが何人いるというのか。

 最初の条件的に、ファーストプレイヤーへのサプライズギフトなのだが、問題は2つ目。


 まずバウンティーハンターギルドから特殊クエストが発行される条件が厳しい。 

 簡単に言えばPKプレイヤーを殺し続ければいいのだが、それ以外にも細かい条件は存在する。因みに1つでも満たせないと発行されないので、少し理不尽な代物でもある(当然だがノート達は未来永劫、何があっても発行されることは無い)。

 そんなそもそも発行する気があるのか怪しいクエストの発行条件を満たした先にあるのが、人類最高峰の才能を持つトン2と鎌鼬達ですら大苦戦を強いられるバウンティーハンターとの1on1、10回勝負。

 

 戦うバウンティーハンターは10回ごとに異なり、タイプが全く違う。

 如何なる相手だろうと神に仇なす者を絶対に倒す。それがバウンティーハンターである。そんなバウンティーハンターを育てる為に作られた“オリジナルのクエスト”である。

 

 一戦一戦でランクが1つ上がると考えれば、どれだけ頭のおかしいクエストかよくわかるだろう。

 たった一手の間違いも許さない。全て最善手以外での撃破は不可能。トン2と鎌鼬であっても「もうやってられん!」と投げ出したくなる程のクエスト。

 それを完走して確定で習得するオリジナルスキルである。


 その正義のヒーローが変身するためのベルトが闇堕ちした結果、改めて習得した“真の意味でのオリジナルスキル”が【蹂禛僭詆・粛清ノ偽典・天骪無法】である。

 

「いっくよ〜」

 

 異形の赤子天使が2体いる事もあって、トン2と鎌鼬はオリジナルスキルをそれぞれ一体ずつに発動させた。だがスピリタスのオリジナルスキルが発動できる相手は1体のみ。〔戦覇真拳勝負〕が発動している間になんとかケリをつけたい。


 異形の赤子天使の特徴として挙げられるのが、その高い連携力と回復力。どんなに地道に削っても自分で回復魔法を使って回復してしまうし、リカバリーが難しい量のダメージを一気に与えても今度はもう一方の異形の赤子天使と同時に回復をして復活してしまう。

 これでまた振り出し。そんな光景をここ30分でノート達は何度も見てきた。


 つまり正攻法は『大量に頭数揃えて回復が間に合わないスピードで同時に攻撃をし続ける』、それに限る。

 本来ならばボス個体にもMPが設定されているので障壁と回復でガス欠を起こすまで延々と耐久するというとんでもなく泥臭く根気のいる戦いを仕掛けることもできるのだが、異形の赤子天使は例外。

 円形の特殊フィールドを含めて、異形の赤子天使はボスとして成立しているのだ。そしてこのフィールドは天使系列の存在に無条件でMPを供給し続けるというあまりにも異常な効果を持っている。

 

 『うさぎとかめ』でいうなら、プレイヤーが亀で、うさぎは異形の赤子天使。ただしこのウサギは慣例を無視して寝ないどころかスタミナ無限とする。

 この場所は様式美を期待して地道に頑張る亀を地獄に突き落とす性格が悪過ぎるステージとなっている。しかもそんな効果があることに関しては殆どノーヒントだ。

 実はノート達が強引に突破してきたアラクネ・ラミア連合の巣を血眼になって探し回ればそれをやんわりと示唆するとある物を幾つか発見できるのだが(全部集めた上でようやく考察できる程度)、あんなストレスの溜まるフィールドをまともに調べる物好きなプレイヤーが現れない限りは発見されないのは間違いない。


 


 そんなとんでもないバックアップも含めて、スピリタスのオリジナルスキルは一体の異形の赤子天使の力の殆どを封印する。

 と言っても存在としての格が違うので僧侶型アラクネの様に完全に徒手空拳以外の行動を封印できたわけではないが、ここに〔蹂禛僭詆・粛清ノ偽典・天骪無法〕の弱体化効果が加わる事でその力は殆ど効果を失う。


 異形の赤子天使に赤い鎖のエフェクトが巻き付き、力が封じられた事で翼が力を失い天使は地に堕ちる。

 そこに走り込む2匹の化け物。片や蹴り脚に力を込め、片や刀を構える。


 赤子は怯えた様な顔をして逃れようとするが、その顔面にピンポイントで矢が2本突き刺さり一時的に赤子をスタン状態にする。

 走っていくスピリタスとトン2に強力なバフがネオンから飛び、ヌコォは赤子の防御力を奪い取り、飛翔して背後に回り込んだユリンが後頭部に強烈な一撃をかましてその大きな頭を強制的に下げさせる。


『おぎゃああああああ!』


 けたたましく泣き声をあげるが、喧しい以外にこれといって効果は無し。

 もう一方の異形の赤子天使は相方を助けに行こうとするが、その間にメギドが割り込み、背後にズラリとアンデッドの軍団が整列する。

 そしてその1番後ろで控えるのはノートだ。


「お前の相手は俺達だ」


 通常ならボスを1人で押さえ込むことはできない。だが今の赤子天使はオリジナルスキルで弱体化している。更に――――――


『あっぎゃあああ!』


 挑発したノート目掛けて赤子は光のビームを口から放って応えるが、ノート達は無傷だ。


 『光系・聖系無効化』。今まであまり生かされていなかったが、これもまたノートの持つチート武器『ネクロノミコン』が持つ能力。

 聖・光属性を付与した剣撃なら物理攻撃分はダメージを与えられるが、これが純粋な光・聖属性の魔法となると、ネクロノミコンに護られたノート達にダメージを与えることは不可能になる。

 

 実はALLFOの魔法は無属性の魔力塊に火や水などの属性を付与して魔法を発動させているので、魔法の核となる無属性の魔力塊分のダメージは例え相性の悪い魔法を使っても与える事ができる。

 しかし天使は天使であるが故に、魔法が“本来の魔法”の形をしているのでノートにダメージを与えられない。

 因みにノートはドヤ顔で魔法を受け止めていたが、光・聖属性の魔法が直撃すればかなり威力減衰が起きても無属性の魔力塊分のダメージが入るのでノーダメージにならない。一歩間違えば吹っ飛ばされていたのだが、そんな事は今のノートは知るよしもない。


 異形の赤子天使は聖・光属性特化どころかその権化とも言える。普通ならばアンデッドの天敵のような存在だ。

 だが、それを無効化するからこそ、ノートのアンデッドは最悪最凶の軍団へと変貌するのだ。


 「抜いてみろ、持久戦だけなら文句無しに最強だぞ、ウチの子は」


『Graaaaaaaaaaaaaaaa!!』


 ノートは手を振り下ろすと同時にバフ魔法を発動。

 バフを受けて強化されたメギドが咆哮と同時にスタート。陣形を組んだアンデッドの軍団が怯えたように後退りする異形の赤子天使に殺到した。



(´・ω・`)ドヤ顔のまま吹っ飛ばされるノート君、ということにはならず

(´・ω・`)やりたかったけど天使の性質的に使う魔法の種類がアレだからネクロノミコンの性質的にアレとアレがアレだから吹っ飛ばなかった

(´・ω・`)因みにプレイヤーが時空間系の魔法を習得できないのも魔法の仕様に関わってきたりする

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― 新着の感想 ―
[一言] >アラクネ・ラミア連合の巣を血眼になって探し回ればそれをやんわりと示唆するとある物を幾つか発見できる このエリアが一般プレイヤーに攻略されてマップ埋めプレイヤーからの情報でwikiに載るも…
[一言] つまり無属性の魔力を魔法核にしてたから「俺色に染めてやる」的なので制御を乗っ取れてたってわけですかい? んで、天使達が“光・聖”属性の魔力を核にした“光・聖”属性魔法で攻撃したからノートにダ…
[一言] メタに近いオリジナルスキル二つに能力封印系のオリジナルスキルまで重ねがけとか天使からしたら発狂ものじゃん 顔からビームとかますますギョウザ君っぽいなぁ。まぁ、あっちは光、聖属性ってよりかは…
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