No.Ex 彼と彼女の苦悩/舞台裏
※因みに“誰おま”ってなったら第49部『【みんな知ってる】ALLFO有名人スレ(NPC含む)Part32【ぐらいの人達】/舞台裏』を参照してくださいとだけ先に言っておきます
「ソフィア、ソフィア!」
“彼”がいるのはALLFO内部の特殊な空間。運営よりも上層にいる開発局の連中でも簡単に立ち入ることが許されない、本当にアクセスできるものが限られたエリアだ。
見た目は何処かの大聖堂のような場所。そのステンドグラスに描かれた聖女が急に動き出し、ずかずかと入ってきて話しかけてきた“彼”に顔を向けた。
『なに、竹村君?随分と久しぶりだね。ん?そうでもなかったかも?』
ステンドグラスに描かれた聖女が首を傾げる様は非常に美しいが、その実態を知る彼は全く気にする様子はない。
なんせ彼女の姿に意味はないのだ。その時の気分で聖女になれば悪魔のような姿にも、猫にも像にもなんにでもなれるし、フィールドが常に教会のようになっているわけでもない。
あくまでも“彼女”の遊びでしか無いのだ。
「君のような存在がとぼけた老人のようなことを言わないでくれ」
『だって時間の感覚が違うからね。時間線の切り替えをしていると人間には味わいにくい感覚を味わうんだよ』
聖女のような美しい姿でありながら、聞こえてくるのは俗っぽい女性の声。そんな態度に思わず彼も毒気を抜かれて肩を落とす。
「それよりもだ、“アレ”は君の考えの中では問題ないのか?」
睨みつけているわけではないが、彼女を見つめるその眼光は非常に鋭い。しかし彼女は気にした様子もなく思案するように指をクルクル回す。
『“アレ”っていうのはつまり日本サーバーの突発的イベントのことだね?大丈夫、モーマンタイ、オールオッケー、問題ナッシング。あの程度いくらでも修正なんて効くから。こっちでもちょっとプライバシーに抵触するギリギリで色々と調べたけど、あの一件は完全に偶然だね。むしろアドリブでよく纏めてくれたと思うよ。私でもどうやって公平且つ綺麗に纏めるかちょっと迷ったもの』
肩をすくめる彼女に対し、彼は相変わらず鋭い視線を向ける。
「意図的に手を貸しているわけではないのだな?」
『私は基本的に公平だよ、面白い人はちょっと気にかけるけどね。でも彼に関しては私達からはほとんど手を出してない。手を出す必要がないもの。彼に最も気難しい【ネクロノミコン】を割り当てたのは大正解だったよ』
「…………ほとんど、という事はやはりほんの少しは手を出しているのだな?」
『大丈夫、彼以外にも予定の範囲内で大量にテコ入れしてるから。下手すると死蔵しかねないストーリーを進めようとしてくれてる彼らへのほんの少しのご褒美だよ。そうなるように、ほんの少し誘導してるだけ。プレイヤーとしては一切有利になるような働きかけはしてないよ。むしろキツいルートへ背中を押してるだけ』
いけしゃあしゃあと悪びれもせずに答える彼女に、彼は深いため息を吐き出す。
「…………ほぼ契約違反に近しい行動だぞ。くれぐれも気を付けてくれ」
『わかってるよ。やっちゃいけないラインぐらいはわかってる。それに彼に関しては私というより“あの子”が過干渉というか、一応こっちでもやりすぎだと判断した時には止めてるんだからね?あの、グレゴリくんだっけ?あれはさすがにちょっと焦ったからギリギリで調整かけたんだよ』
「わかった。そっちは君の権限で干渉しているわけではないのだな。では“あの子”の方はまだ手を出さなくていい。しかしシナリオの進行は問題ないのか?運営の方からも流石に聞いてないことが多すぎると連絡が来ているぞ」
『うーん、信用的な問題で人を使っているだけなのに、彼らも出しゃばるなぁ。まあ責任を持って業務に勤しんでることは評価できるけどさ。別に親会社のGoldenPearが動いたわけでもないんでしょう?』
「そうだな。彼らは至って静かだ」
『ならいいよ。振り回されるのも含めて予定の範囲内なんだから。それとシナリオに関しては問題ないんだけどさ、初期限定特典だけは当初の予定より放棄しちゃう人が多かったんだよね。だからなんらかの形でミニホームやテントを与えたりとか予定よりフォローをすることになったけど、彼らに行ったのは本当にそれくらいかな?まあ確かに予想の中の最も奇抜な道を突き進んでるけど、シナリオの大枠には沿ってるから問題ないよ』
「ではその点に関しては君を信じて、もう一つの方を片付けよう。あの人を呼んでくれ」
『―――――――ちゃんのことかな?了解だよ』
大聖堂がホログラムと化して消えていき、ステンドグラスの聖女も消え去る。その代わりに赤い光が彼の前に出現した。
「さて、単刀直入に言うがどうするつもりだ?あのままだと彼らはアレを召喚するぞ」
『―――――――。―――――』
「わかってる。君にも予想外だったのだろうな。条件の一つである植物系の薬の高級素材をいとも簡単に手に入れてしまったし、他の素材の最低ラインも女王個体の宝物庫で確保できてしまった。あとはランクを上げて、残りの条件も近いうちに達成してしまうだろう。あぁ、奴め、余計なことをしてくれた」
思わず頭を抱えたくなりそうになりながらも、彼はそれでもその目から強い光を消すことはない。彼らの担当になってしまった日本サーバーのPL管理部の者たちよりはマシだと思うことで精神の均衡を保ったのだ。
『―――。―――――――。――――』
「このまま好きなようにさせるだと?まさか君まで後押しするのか?」
『―――――。――――――、――――――――――』
「あくまでも在るがままに在り続けるというのだな。それ以上に手を出すこともなければ足を引っ張ることもないと」
『――――』
「わかった。しかしアレをどれくらいまで制限する気だ?」
赤い光と対話を行う彼。しかし彼がそう問いかけると、すぐそばに白い光が現れて鋭い声を発する。
『竹村君、そこまで言及しちゃうと君こそ過干渉だよ。大丈夫、安心して。調整はこっちでいくらでもできるんだから。私たちで作り上げた物を信じて、親はどっしりと構えてなさい』
「…………そうだな、言い過ぎたようだ。すまないな、開発者としてはもう強く干渉すべきではないとわかっているのだが、少々、彼らが気の毒でな」
彼が言及するのは健康レポートでストレス性の脱毛症が進行していると断定された日本サーバーPL管理部の皆さま。最近ではVR空間内では痛まないはずの胃を常にさすっておりその闇の深さが増していた。
『残念ながら、私にはALLFOという世界のバランサーとしての能力はあれど従業員のストレスケア機能まではついてないんだよね。そこはもう『運が悪かったね、頑張れ』としか言えないよ。日本サーバーの一件だって、彼らに負荷がかかりすぎないように少しは調整したんだからね』
身も蓋もないある意味死刑宣告に近い言葉。
少し不甲斐なさそうにこの場を後にする煤けた彼の背中を見ながら、彼女は小さくそう呟いた。
彼が立ち去り残されたのは白い光と赤い光。白い光が明滅すると先程のステンドグラスの聖女の姿とは違い6対の翼を生やした天使へと姿を変える。
『竹村君は色々と心配していたみたいだけれど、好きにやっていいよ。あとは全部私が、“私達”が調整してあげるから』
『―――――――』
『ふふふ、あなたはよくやってくれてるよ。あなたのお陰で今とっても面白い事になりつつあるもの』
上機嫌そうに笑う天使に対して赤い光が明滅する。
『―――――?』
『そうだねー、あなたが動かなくても勝手に面白いことしてくれるし、今のままでいいと思うよ。これからも彼等をよろしくね、“バルバリッチャ”』
天使はそう言うと赤い光に手をかざす。
赤い光が消え去り、残されたのはどこまでも広い真っ白な空間。
『次はどんな格好にしようかな。邪神スタイルとかでいいかな?』
彼女は最後にそう呟くと、その空間から姿を消した。




