No.90 ノート探検隊~秘境・深霊禁山の真実を暴け!~⑤
(´・ω・`)おひさ
【撤退組】
「正面、岩石エイ、感知。通路の右側を通って」
モンスターハウスとなった戦場を先駆けて脱出するユリン、ヌコォ、ネオン(とグレゴリ)。実はこの3人、幽霊馬車とバルバリッチャなどの規格外を除けば『祭り拍子』の中で移動力と機動力という点でトップ3の実力を持っている。
ユリンは言わずもがな、真っ先に敏捷パラメータがSに到達するほどにスピード偏重型な上に、その機動力をさらに強化する翼がある。そのうえこの洞窟は水晶などが壁から出っ張っており足場に事欠かない。いちいち地面に下りずともユリンは飛んでこの洞窟内の移動ができるのだ。
ヌコォは副職業に『曲芸師』を選んでいるだけあってパルクールのプロ顔負けの移動を披露している。攻撃予測のスキルも相まって、まるで攻撃の方がヌコォを避けていくように錯覚するほどにヌコォはありとあらゆる攻撃を避けて進んでいく。
避ける、という点ではトン2も負けてはいない。しかし彼女の専門はどちらかといえば対人。乱数の余地がない世界だ。対してヌコォの専門は魔物、より明け透けに言えばAIだ。総合的な回避力対決では実はヌコォに軍配があがるのだ。
そしてネオン。後衛職でありながら近接担当のスピリタス、トン2を超える移動力があるのは少々不思議に思うだろう。だが忘れてはいけない。彼女はノートに拾われる前に延々と無自覚モンスタートレインを繰り返し、面白い称号(№35参照)をいくつも獲得しているのだ。
例えば『逃走者』。その効果は単純で『逃亡時全ステータス強化・スタミナブースト大』という物。ここに『エスケープランナー』の称号がさらに加わり、『逃亡時全ステータス強化・スタミナブースト超極大』の効果が上乗せされる。
そう、こと単純な撤退、逃亡に関してはユリンを超えてなんとネオンが最も得意なのだ。
加えて彼女自身も毎日ランニングをリアルでしているので基礎体力量は堂々の一位。逃走中という状態でもその美しいフォームは乱れず無駄がないのだ。そんな彼女に全ステータス強化のバフが2段階も加われば、それはもう全くの別物といっても過言ではない。
しかしながら、ネオンには少々問題がある。それはプレイヤースキルに基づくものではなくモンスタートレインにより手に入れてしまった数々の称号だ。
称号は様々だが、その効果の要点を纏めると『魔物誘引体質』と『逃走時に引き連れた魔物の強化』だ。モンスタートレインを用いたPKプレイヤーには嬉しい効果かもしれないが、ネオンにそんな趣味も無ければこと撤退戦に於いては非常に要らない効果だった。
その誘引体質は凄まじく、ネオンがモンスターハウスと化したそのエリアから脱出しようと試みようとするだけで魔物のタゲが乱れる。
ノートはこの戦いの最中でうっかり忘れていたが、ネオンは称号のせいで撤退戦には向かない人物なのだ。
それでもタゲが乱れたことには瞬時に気づき誰にも言われるまでもなくインターセプトし退路にノート達も割り込む。
その隙を最大限活用して退避するユリン達。ネオンの称号の効果を忘れてなかったヌコォの判断は迅速だった。
「ネオン、退路を吹き飛ばして」
「でも、ノートさん達がっ」
「どの道無理。ノート兄さんもそれを分かっていたから囮を引き受けた。だからそれを無駄にしてはいけない」
その会話が聞こえていたわけでは無いだろう。だがノートはこちらを見ることなくサムズアップしていた。
それを見て覚悟を決めたネオンは再度その凶悪な魔法を使う。
「ごめんなさいノートさん達!〈シュラッグエクスプロード〉!」
それは爆裂系魔法の一種だが、これは火炎より衝撃に特化している。その魔法がノート達にダメージをギリギリ与えない辺りで炸裂。洞窟が崩落しノート達の横をすり抜けて此方を追いかけてこようとしていた魔物共を吹き飛ばし押し潰す。
地味に範囲指定が難しい爆裂系魔法の座標計算をきっちり成功させたネオン。それはネオンの弛まぬ努力が無しえた技であり、同じことをしろと言われてもできる者などごく僅かな難度のテクニックだ。
ただ今回は計算というよりノート達に絶対被害が行かない様にと気持ちかなり手前で炸裂させたネオンと、ネオンも忘れていた称号により火炎強化が綺麗に噛み合った結果起きたファインプレーだった。
『右、注意、《エイ》。能力使用、【強制同調】』
そんな彼女らが息つく間もなく視界に浮かび上がるメッセージと絵文字。先行して飛翔しているグレゴリからのメッセージだ。
それはヌコォの感知スキルでも見抜けなかった敵の発見を知らせるメッセージ。
その敵に対してグレゴリは相手の行動を阻害する【強制同調】の能力を使用。これは本来自分よりランクの低い物に対して使用する能力なので、本来ならばこのエリアの魔物には通用し難い能力だ。
だが岩石エイだけは奇襲と毒に特化しているためレジスト系のスキルの保持数は少ない。尚且つもともとエイ自体が獰猛だったり機敏に動く事もないので、ほんの1秒動きを止めるだけでいい。
エイの上を素早く飛翔していくユリン。続けてヌコォがその上を走りつつも更にスキルを使い岩石エイに触れて意識を混濁させ、ネオンがその上を走り抜ける。
エイだけなら2匹いたところでこの3人でも余裕で対処できる。しかし今は撤退することが重要だ。倒す必要はない。
そして倒す必要が無いならば、それに合わせた戦法も取れるというわけだ。
【渇気】のステータス異常に苦しみつつも彼女達の足は止まらない。
立体迷路を空間認識能力特化のヌコォと単純記憶力特化のネオンの2人で潜り抜け、毒溜まりはユリンがヌコォを、グレゴリがネオンを持ち上げて強引に突破、追跡してくる敵がある程度増えてきたら通路ごとネオンが吹き飛ばして撃退し、ただがむしゃらに進む。
「ネオン、もう一回!」
「はい!」
その攻撃タイミングを測るのは自然と余裕の多いユリンの役割となった。脱出経路を考えつつ走るネオンとヌコォよりも空を飛んでいるユリンには圧倒的な余裕がある。
無論、ヘイトを集中させるスキルを発動させて地上の2人に攻撃がいかない様にフォローしているので、万が一撃ち落とされればスタン状態になって作戦が崩壊する。
それでもなお、ユリンは完全に攻撃を回避してみせる。
魔物が軍団状態となること3回目、複数の通路ごと立体的に入り組む最も突破が難しいエリアを抜けたところで、ユリンはネオンに通路を塞いでしまう様に爆破指示を出す。
再度探検する可能性の高い場所を闇雲に崩落させるのは本来ならば言語道断だが、ここはALLFOの世界。一定時間の経過でフィールドは修復されるので思い切った行動も可能なのだ。
立体通路を突破するのに必死で、その時ネオンもヌコォも後ろをよく見ている暇はなかった。なのでその時後ろをしっかりといていたのはユリンただ一人。
今までと違い崩落可能エリアが広いせいもあってネオンはかなり強めの威力の爆裂系魔法を使用した。通路自体もこれまでとは違い複数の通路ごと立体的に交差しているポイントなので強度的にも弱かったのだろう。今までの比では無いくらいに綺麗に、そして大規模な崩落が起きた。
その時だった。盛大に崩れ落ちる洞窟の天井の隙間からユリンは確かにその姿を見た。
それは全身が流動する半透明な棘で覆われた巨大な何か。しかしその肉体の内部は臓器が透けて見えることはなく、何か球体の物が大量に蠢いている様だ。
全体的なフォルムを形容するならそれは蜘蛛、或いはクラゲにも似ている。
しかしその奇妙な身体から伸びるその複数の蜘蛛のような足はまるで触手の様でありながら、その先端は結晶化しており非常に鋭利。
大きさはどれくらいだったかは一瞬のことだったので正確にはわからないが、100mだとかそんな小ささではなかった。
そんなデカブツが虚空の中に揺蕩う捻じれ曲がった岩の塊に結晶状の糸を張り巡らせてボーっとしていたのだ。
だがユリンがそれを知覚すると同時に、その球体の何かが大量に蠢きそして開く。
それは何かの膜で覆われていたのだろう大量の眼球だ。その人間の様な眼球が一斉にギョロっとユリンを見つめ返した。赤く黒くグロテスクなその目は、遠距離であろうとユリンの姿を見つめていた。
反射的に背筋にゾクゾクとした寒気が走る。
それと共に襲い来る強烈な重圧感。それは何時ぞやか見た例のアレと近しい存在に思えた。
【e?0Me/?M?の一柱が解放されました】
[Warning:特殊災害が発生します]
【ワールドシナリオγが進行しました。ワールドの『¿¼¤Èù¿ç¤Ë¤¢¤ë¿À¡¹』の 活性率が変化します。一部フィールドの変異を開始します。
フィールド『絋晶深迷宮』は『崩織之絋晶深迷宮』に変異します。
フィールドの一部機能が変更されます。
フィールドの変異に伴い魔物も変異します。
『¿¼¤Èù¿ç¤Ë¤¢¤ë¿À¡¹』の解放により特殊称号『e?0Me/?M?0ny^[?』が与えられます。
特殊災害を発生させたので『特殊災害の引金』の称号が与えられます】
そのユリンの直感を裏付けるかのようなアナウンス。その存在が例のアレと同格であるということをALLFO直々に証明してくれたわけである。
そしてその怪物に一瞬睨まれただけで、ユリンたちにかかっていたネオンの付与魔法によるバフと、食事によるバフが消滅した。
一時的に洞窟内の時間が止まったかのようにすべてが静止し、音と共に時間が戻ってくる。
「走って!まだ終わってない!」
そんな異常事態の最中でもすぐに動き出せたのは、ノートから直接託されたからであろう。ユリンに叱咤されそのアナウンスに思わず足を止めそうになったネオンとヌコォもハッとして走り出す。
バフこそ消し飛ばされたが、その程度はまた補填すればいい。アナウンス通り異常事態が起きているのか、敵は相変わらず出てきているもののまるで混乱しているかのようにその動きは大きく精細を欠いた。
「チャンスだよ!このまま突破する!」
あわれ一巻の終わりかと思ったが、敵の動きが鈍くなったおかげで図らずもユリンたちの生存確率は大幅に上昇。敵が惑っているうちにユリンたちは迷路を踏破し、ついに自分たちが入ってきた洞窟の入り口にまでたどり着く。
しかし安心はできない。ユリンはあの化物を見たときから、何かが自分たちの後ろを這って追いかけてきているような感覚に襲われていた。
「でるよ!」
ユリンはヌコォを抱え上げ、グレゴリがネオンを抱えて洞窟の外へ飛び出す。落ちれば下も見えない虚空だが、ユリンは焦る気持ちを抑えて上へと飛ぶ。
「ユリン、来てる」
「ネオン任せた!」
「撃ちます!備えて、ください!」
上を見上げて必死に飛ぶユリンに下の事情はわからない。だがヌコォには珍しく張り詰めたような鋭い声で警告がなされ、ネオンは焦ったように魔法の準備を開始。
「《ウィンドギガエクスプロード》!」
自分のHPを消費し発動時間を大幅に縮めるスキルを発動。ネオンが発動した魔法により崖の入り口で暴風が弾け、その勢いで敵を殺し崖を封鎖するとともにユリンたちを上空へ一気に吹き飛ばす。
そのネオンの機転により、ユリンたちはなんとか崖の外へ脱出を成功させるのだった。
(´・ω・`)感想いただけると非常に嬉しいです。設定に関して色々気になる方は感想を覗いてみると私が設定ゲロを定期的にしていることがわかるでしょう。質問でもなんでもお待ちしております




