No.89 ノート探検隊~秘境・深霊禁山の真実を暴け!~④
(´・ω・`)改稿作業終了記念ゲリラ
滑り出しは順調だった洞窟探索だが、その難易度は全員の想定を大幅に超えていた。
「右に新手っ!蟻3匹ぃ!」
「クッソまた蟻か!」
飛びかかってきた中型犬サイズの蟻を殴りつけると同時にハンドサインを出して軽く屈むスピリタス。
その一撃で怯んだ蟻に向かい、スピリタスの背中を蹴上がってトン2が跳躍。蟻達の死角から襲い掛かり長剣でスパっと触角を切り落とした。
こうなってしまうと視覚も聴覚も退化している大型結晶蟻はなかなか身動きが取れなくなる。
そんな蟻の顎にスピリタスの鋭い回し蹴り。ワニガメの様な発達した顎にダメージを与え強引にその口を開けさせると、トン2がスルリと身を寄せて口蓋から脳天へ短槍を突き刺す。
蟻はビクンと痙攣しそのままポリゴン片となって消えていった。
「次やるぞ、トン2!」
「了〜解っ!」
近接担当コンビの2人が生き別れの姉妹の様に息ピッタリのコンビネーションで暴れているが、ヌコォと鎌鼬のコンビも負けていない。
「3時蟻1、弱」
「了解、〔スティシュート〕」
「5時蟻2甲虫1、銀拡、強」
「了解。1時蝙蝠2、音消し要請」
「了解、〔ウェイブミュト〕」
今回の探索で対魔物という点でのMVPコンビは間違いなくこのコンビだろう。
この洞窟にいた魔物はなんといっても平均防御力が桁外れに高かった。しかし早い段階で刺突や矢などの一点集中攻撃に比較的弱いことが判明した。
その点、ボウガンをメインウェポンとするこのコンビのキルレートは近接コンビさえも超え頭ひとつ抜けていた。
思考回路も似ているせいかすぐにお互いに通じる符号で会話をしており、特にヌコォは初期限定特典により得た数々のスキルをうまく活用し敵の攻撃を悉く封じて近寄らせない。
だが総合的な活躍で言えばこのコンビがトップだった。
「〈下級死霊召喚大蠅の群霊〉、〈下級死霊召喚一角巨骨猪〉!蠅は円周状に走り続けて撹乱優先、ユリンに敵を近寄らせるな!ボアは蟻を仕留めろ!!」
「ありがと!そこっ!〔ソルフレス〕!」
先の人工イベントで大量に増えた死霊のレパートリーを生かし次々と死霊を召喚し全体のヘイト管理を行うノート。
それに対してユリンは言葉すら交わすことなく、文字通りこのエリアを飛び回りノートの意を汲んで的確に撹乱を行なっていく。
ユリンもまた先日のイベントで数々のユニークスキルを手に入れた。それにより彼はより高度な三次元の動きを実現し、更にこの閉所故にその移動は加速する。
自分自身が動かなくとも敵同士をぶつける事で効果的にダメージを出すことで、ユリンは全体に大きく貢献していた。
最後にネオン、メギド、グレゴリのトリオ。ネオンは周囲にバフとデバフをばら撒き全体を底上げし、メギドはボディガードとしてネオンに近寄る物全てを屠っていく。
そしてグレゴリは索敵を行い奇襲を防ぎネオンの処理能力が限界に近づけば自分もヒーラーとして活動し全体のバランサーとして機能していた。
そんじょそこらのダンジョンであれば、これだけの連携能力と殲滅能力があるのなら決して苦戦することなど無かっただろう。
だが蓋を開けてみればこの通り。全員が役に立っていると聞こえはいいが、これだけのメンバーがいて全員がフルパワーで役に立たないと回らないほど状況は逼迫しているのだ。
スピリタスとトン2はお互いの脚を蹴ったり手を交差させて移動したりコンビネーション攻撃を行ったりと雑技団の様な超人技を即興でやり、ヌコォと鎌鼬の間では独自の符号を編み出して意思疎通し、ノートがユリンの感謝の声に何の反応も返さず、ネオンも何も話せないほど集中している。ここまでしなければならないほどに、かなり彼らは追い詰められていた。
この洞窟の探索のし難さは突入して早々に分かった。
まず面倒なのが【渇気】というバッドステータス。おそらくは酸欠と殆ど同じなのだが、慢性的な気怠さに感覚器官の鈍り、HPの緩やかな減少などと色々なバッドステータスの詰め合わせみたいな物だったのだ。
おまけに効果的な対処法もなく、適度に食事を行いバフで相殺する他なかった。
洞窟の罠はそれだけに留まらない。立体迷路と化したフィールド、そこら中に存在する毒素だまり、何より単純な問題として光源が足りないし少々狭いのだ。
そんな状況をなんとか打開しようと色々と試し、遂にネオンの魔法を使ってみればこの有り様。
どこに潜んでいたのだと聞きたくなるほど次々に魔物が集まってきてしまったのだ。
勿論、その時に隠し通路の様な物が開通したので実験した分のリターンはあったとは言え、死んでしまえばせっかく手に入れた素材なども価値が下がってしまう。後退は非常にゆっくりとなり、その間にも敵は押し寄せてきて終わりが見えない。
今のところこの洞窟には独特の世界が築かれ、此処にしかいない魔物が多数いることが分かっている。
まずノートたちを歓迎してくれた結晶体ヘラクレス。通常のヘラクレスよりも体が大きくなったことで飛翔能力を失ったが、その代わりより強固な外骨格を獲得。また脚がバッタのように異常に発達しており、高速突進から角で敵を刺し貫こうとしてくる。
固いし速いしおまけに魔法の効きも悪いので面倒なことこの上ないが、幸いなことに遭遇率はそこまで高くない。
因みに希少種に紫結晶体ヘラクレスがいたが、こいつは物理衝撃を一定値吸収するという極めて厄介な能力をもっていた。
このヘラクレスと対をなすのが、ギラファノコギリクワガタ。性質はヘラクレスとほぼ同じだが、こちらは刺突と突進ではなく鋏での斬撃と細かいステップによる攪乱攻撃を仕掛けてきた。
瞬間的な攻撃力はヘラクレスに劣るが、一度鋏につかまると簡単には逃げられないし、ヘラクレスよりも回避性能に秀でていた。
これの希少種が赤結晶体ギラファノコギリクワガタ。鋏を延長し、なおかつその頑丈性と鋭利さが上がっているという攻撃力極振り型だった。
この二種はライバル関係にあるようで、遭遇するとノートたちそっちのけ、とまでは残念ながらならないが、隙あらば攻撃しあっていた。特に希少種は装備が型落ちのノートたちでは倒しきれず、希少種同士でつぶし合わせてようやく辛勝できたレベルだ。
この2種は少ないのでまだいいが、ここに白大蝙蝠が加わってくると面倒くささが跳ね上がる。
この蝙蝠は幻惑系の能力に特化しており、そして必ず群れで現れる習性を持つ。
この魔物はヘラクレスやギラファを幻惑でコントロールし敵を襲わせそのおこぼれにあずかる生態をしているらしく、こいつらがいるとヘラクレスとギラファがお互いを攻撃することが減ってしまうし、単純にキィキィ大声で鳴いてうるさいという特徴も持っていた。不幸中の幸いは防御力はほとんどなかったところだろう。ノートの闇魔法が2発当たるだけでも仕留められるレベルだった。
ただし回避能力はヌコォと鎌鼬でもそこそこ手こずるレベルの素早さを有しておりなかなかしぶとい。
そしてこいつらを軽くしのぎノート達を極限まで追い詰めたのが、この天然迷宮の上層支配者、大顎結晶蟻。
まずもってそのパワーと耐久力、知能もスピードも兼ね備えておりパラメータに隙が無い。サイズこそ中型犬程度だが個体数が多く、下手に殺すと酸を飛び散らせて周囲に無差別攻撃を行う。
また、ヘイト率を無視して集団で襲い掛かる習性を持ち、アンデッドのように物量でこちらを殺しにかかってくる。
ワニガメの顎のような異常に発達した大きな顎で噛みつかれたらもう最後、死ぬまでこちらを離さない。
おまけに視覚も聴覚も大きく退化しているようで、ほかの魔物に効果を示した音響弾が効かない。どうも触角でほとんどを感知しているようで触角さえ切り落とせば勝てるのだが、素早く倒さないと自爆するという嫌がらせのような能力も完備していた。
そんな蟻が倒せども倒せどもどんどんと湧いてくるのだ。たとえ安定して倒せても、武器の耐久値はそうはいかない。ノート達のHPが尽きるよりも先にその堅牢な肉体のせいで武器の耐久値の方が尽きそうな勢いだ。
ノート達を苦しめたのはこれらの魔物だけでない。少数ではあるが、代表的な物を一つ上げてみるとノート達の記憶に強く残っているのは結晶体ヤドカリだろう。
洞窟の奥へ進むと現れる大きな結晶群に擬態しており、大きさは小型車程度とそこそこのサイズ。
その姿を簡単に形容すれば動く小さな要塞。魔法を基本とした攻撃を仕掛けてくるうえにシンプルに耐久力が段違いで高い。その強度は蟻の顎でも歯が立たないほどだ。
動きが遅いのは唯一の救いだが、メインが魔法なのでリーチは長い。遠くからちまちまと攻撃してきて鬱陶しいが倒すことも困難という嫌な敵だった。
結晶体ヤドカリは防御特化だったが、甲殻類系の攻撃型として結晶体シャコがいた。見た目はザリガニに近いシャコだが、その体には不釣り合いなまでの鋏から強烈な物理衝撃波を発生させ、射線上の物を問答無用で吹き飛ばしてくる。
その威力はうっかり至近距離で食らったメギドが一撃で死にかけるほど。グレゴリが必死にフォローしていなかったら危うく後衛サイドが崩壊するところだった。
そして防御型、攻撃型ときてそれを上回った問題児が結晶体クロゴキブリだ。サイズは大体中型犬サイズ。黒結晶に身を覆われたその身は明かりに照らされ黒光りし、そしてあの高速突進が自慢のヘラクレスを上回るスピードで動き回ってくる。
生命力にも異常に優れており、状態異常攻撃耐性も完備。光、音響攻撃にも耐え、すべての攻撃を回避し、バフ、デバフ系の魔法を多く使ってくる。それはまるであの般若面蟷螂人の再来だ。
なにより感知系のスキルを無効化して奇襲を仕掛けてくるので、2つの意味で心臓に悪い。
感知系をかいくぐるという点では、岩石エイも負けてはいない。
岩石エイはこの洞窟の中型以上のMOBとしては珍しく結晶で構成された肉体を持たない。エイでありながら陸上での活動を可能とし、その体は岩のようになっている。その状態でただ地面に寝転がっているだけなのだが、薄暗い空間で見分けることは至難の業。
加えて強力な毒攻撃ができるので、うっかり近づくとえらい目に合うという悪辣な仕様だった。
そんな魔物たちに立て続けに襲われ、ノート達はそろそろ限界を迎えようとしていた。
「(こうなったら穏便に全員が撤退するのはもう無理そうだな。となれば………)グレゴリ、俺の言葉をメッセージとして全員に仲介しろ!」
『了解、《グッジョブ》』
この状況の最中、ついぞノートも抜本的な打開策を思いつきはしなかった。
そう、ノートとてどんな状況でも打開できるわけではないのだ。無理な物は無理としか言いようがない。
なんだったら、ノート達はランク差がある強敵相手型落ち装備で既に大健闘しているといえるのだ。そのパフォーマンスのすばらしさはノート達を定期的に監視してるVIPの一部が称賛を通り越して呆れそうなほどである。
それほどまでにノート達は限界まで切り詰めて粘った。
それでも無理だと、ノートは冷静に判断を下した。
となれば最優先は今回の探索で手に入れたアイテムの数々だ。それを無傷で持ち帰ればデスペナの損失を補って十分に大幅な黒字を確保できる。
しかし全員でこの場を切り抜けるのは現状を見るにほぼ不可能なのは間違いない。
となれば、撤退組と残留組に振り分けるのが賢い手だ。ノートはまずMPギリギリまで死霊を大量に召喚し、全員の獲得したアイテムを再配分するように指示。
まず残留組として選んだスピリタス、トン2、鎌鼬になんとか1分程度時間を作ってもらい、今回の探索で得たアイテムをできるだけ受け渡してもらう。
そしてそのアイテムを撤退組のリーダーとして選んだユリンに集める。
その撤退組だが、メンバーにはユリン、ヌコォ、ネオン、グレゴリを選んだ。ユリンは言わずもがな、『祭り拍子』の中ではゲームセンスに優れており総合的な評価では最も生存能力に優れている。
ユリンが全力を出せば、少し分の悪い賭けになるものの、20%程度の確率で単独でも脱出することはできるだろうとノートは予想していた。
その確率を上げるためにサポートするのがヌコォだ。この天然迷宮は入り組んでおり、なおかつ立体的なのでコースを覚えるのが極めて難しい。
無論、人並外れた空間認識能力を持っている者には別だが。
そしてヌコォはその適任者といえる。さらには遠距離攻撃もできるし、多彩なスキルを所持しているのでどんな状況でもある程度対応可能であり、撤退組の真のリーダーとしても期待できる。
この二人がいれば、撤退だけならなんとかなる可能性はある。
その2人に加えてネオンを選んだのは、万が一の時の切り札になるからだ。
撤退に専念を選んだ時点で、ノートはネオンの制限を取っ払うことにした。つまり崩落させてコースを塞いでしまっても構わないと判断したのだ。
それが吉と出るか凶と出るかはわからないが、ここまで苦労しているのはネオンの大火力を制限しているからだ。そもそも、ネオンが魔法を使えば蟻がいくら物量戦をしかけても吹き飛ばすことはできるのである。
ただし、ネオンが手当たり次第に攻撃を開始すれば残留組が撤退することは不可能になる。しかしそれもネオンを撤退組に選んだ目的の一つだ。残留組で敵を引き付けて通路を塞げば、撤退組に対する大きな時間稼ぎになるだろうとノートは考えたのだ。
そこにグレゴリを付けたのは万が一の時のサポート。残留組はここから消耗戦になるので、下手にヒーラーを残すよりは撤退組にリソースを割いた方がいい。
グレゴリは主であるノートを置いていくことにかなり抵抗したが、ノートが命令すれば悲しげながらも命令を受諾した。
「ごめん、行くね!!」
「任せたぞ!」
そして用意が整い、ユリンたちは全力で撤退を開始。残留組であるノート、スピリタス、トン2、鎌鼬、メギドはさっとノートの元に集合する。
実のところ、今回の組み分けは生存能力だけではなく『初期限定特典』を持っているかも考慮された。
それは『初期限定特典』持ちが強いからという理由ではない。『初期限定特典』持ちが持つヘイト集中率を考慮しての物だ。
ノート達も戦いの中で実感したが、同じ極悪の性質でも、『初期限定特典』持ちのヘイトの集中率はスピリタス、トン2、鎌鼬を上回った。特に神敵化しているノートのヘイト集中率は露骨だった。
だからこそ、素で異常なヘイト集中率を持つノートが残留組に残ることでヘイトを自分に一極化させる。ヘイトの集中率が明確なら、スピリタスたちも誰を守ればいいか明確化させるので動きやすくなる。
それと、単純に自分の手持ちの中の、攻撃系最強の手札3枚を同時に使ってみたらどうなるかノートは気になって仕方なかったのだ。
総合力という観点ではユリンたちも負けていないどころか、所々上回るのだが、ことPLスキルに基づく攻撃力という観点ではノートの中ではスピリタス、トン2、鎌鼬が頭一つ抜けていた。
前衛3の後衛2というバランスの良さ。継続戦闘とか燃費とかをかなぐり捨てての攻撃極振り。できうる限り暴れてよし。その手の指示を与えたら、この残留組メンバーはほぼ最強と言っても過言ではない。
「自重は一切捨てていい!今回の探索で必要なアイテムは大量に獲得したから武器も防具もスペアが全損しても問題なし!死力を尽くして限界まであがき続けろ!」
ノートの号令が洞窟に響き渡ると同時に、洞窟中を揺らす轟音、振動。崩落する退路。ネオンの魔法で、モンスターハウスと化した残留組のいるエリアは封鎖された。そしてその轟音により、ノート達の元にさらに魔物が集結してくる。
おそらくはヌコォの指示だろう。だが問題はない。ノートの意思をくみ取った的確な指示だ。
これでノート達残留組が帰還できる確率はゼロとなった。しかし誰一人として暗い表情などしていない。むしろ楽し気に笑って見せた。
(´・ω・`)タイトルを色々試験的に変えましたが
(´・ω・`)それにより混乱を招いたようで
(´・ω・`)申し訳ございません。
(´・ω・`)感想、レビュー、評価、お気に入り登録を
(´・ω・`)していただけると幸いです。
(´・ω・`)特に私は感想乞食なので
(´・ω・`)一つでも多くの感想をいただけると
(´・ω・`)とてもモチベーションが上がります。
(´・ω・`)質問でもかまいませんので
(´・ω・`)感想をお待ちしております
(´・ω・`)なんなら感想返しで設定ゲロするかも
(´・ω・`)トーテム




