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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第二次モンスターハザード前編─北欧戦線1957─

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道を外れるしかできない者達

 ところ変わってラトビアは、都市グルベネを南西に抜けて──昼前。

 能力者解放戦線メンバー、火野源一とニルギルド・ゲルズはこちらも車に乗り、ひとまずは順調な逃亡の旅路を走っていた。

 

 エリスとの戦いで深手を負った火野も、ここまで来ればニルギルドの応急処置と本人の強靭な肉体と自己治癒力もあってほぼ、回復している。

 それゆえだろう、ニルギルドが運転する車の後部座席にて彼は、いかにも退屈そうに欠伸してぼやいてみせた。

 

「ふわーあ。暇ったらねえな、ニルギルドぉ……WSOの犬どももつけてきやがるだけで手も出してきやがらねえ。いい加減生殺しすぎて萎えてきちまうよ、俺ァ」

「無駄口を叩くな。暇であることに感謝しておけ、WSOの追跡能力はさすがだ」


 対してハンドルを握るニルギルドは、厳しい顔でむっつりと答える。

 常に周囲に気を配りながら、特に後方から付かず離れずで追いかけてきているWSOのエージェントをそれとなく撒こうとチャンスを伺いながらの、火野とは対照的な様子だ。


 実際、あまり余裕のない逃走だ……本当ならばすでに追手から逃れ、ラトビアの首都リガに向かい適当な船に忍び込んで一路、解放戦線の拠点に進めたのなら最上だったのだ。

 それが現実はこの通りで、未だ敵を振り切れずにグルベネまで来てしまった。援護としてイルベスタ・カーヴァーンに別地点での陽動まで行わせておいてなお、この始末だ。


 おそらくはこのままリガに向かいたいという、こちらの思惑もすでに筒抜けだろう。

 となると取れる手は、進める経路は限られてくる。ニルギルドは内心にて覚悟を決めつつも、火野としばしの会話に付き合った。 


「ったくクソ真面目め。傭兵ってのはもっとワイルドで享楽的で刹那主義なイメージだったんだが特別オメーだけなのかね、その遊びのなさはよう」

「チンピラと一緒にするな。俺は、俺達はプロフェッショナルだ……少なくとも12年前はそうだったし、そこから今に至るまでもずっとそうだ」

「能力者大戦で、多くが無理矢理戦争に参加させられる能力者ばっかだったなかで逆に、喜んでスキルを使った戦争に飛び込んでいった傭兵か。しかもオメーさんは当時12歳だったんだろ? 少年兵ってやつじゃねえか、非人道的だねえ。ふひゃはははは!」

「自ら望んだ闘争だ。俺にはあの時あの道しかなく、だからこそ今、この道しかないのだ。いつか果たせなかった望みを果たし、果てられなかったこの身を果てさせるために」

 

 愉快げにニルギルドの来歴について述べる火野。彼が言うように、今ハンドルを握るこの男は傭兵だ……傭兵だった。12年前能力者大戦においてドイツ軍に組み込まれた、少年兵能力者だったのだ。

 そうして戦場に飛び込み、スキルを用いて人を殺した。殺し続けた。それが自身の居場所であり、生き方であると信じていたがゆえに。

 少年ニルギルドは孤児だった。

 

 しかし能力者大戦を最後に世界から戦争が消えた。能力者は探査者として社会的立場を得、そこからはみ出るものは誰であれどうであれ反社会的なアウトローとして扱われた。

 傭兵など、少年兵など以ての外だった──それが、ニルギルドには耐え難い仕打ちだった。戦争が終わった時にはもう、彼には他の生き方など残されていなかったのだから。

 

 それから12年。裏社会で反社会的組織の用心棒稼業に就くことで生計を立てていた彼は、数年前にオーヴァ・ビヨンドの勧誘を受けて能力者解放戦線と契約を結び戦闘要員として参加した。

 そのような背景を持つ男が、淡々と告げる。

 

「モンスターではなく、人間を相手取ることしか頭にない者もこの世にはいてしまうのだ。俺は致命的なまでにこの世界に向いていない……本当なら12年前に死ねるはずだったんだ。能力者同士が殺し合う、公平で公正で平等な生と死の狭間での居場所で俺は、死ぬべきだった。今度は過たない。必ず、俺は俺の終わりを踏破してみせる」

「それで夢破れたからってテロ屋入って、スタンピードを引き起こすってか! くひひひひ、良いねえそのイカれ具合は実に俺好みだ! オメーが女だったら一発ヤッてるところだぜふひゃははははは!」

「殺すぞ。貴様は精々エリス・モリガナとやらを組み伏せる妄想でもしておけば良いのだ。性欲と殺人欲の区別もつかないシリアルキラーめ、同僚としては頼るが人間としては貴様など語るにも値せん」


 嘲笑にも似た高笑いをあげる火野を、バックミラー越しに冷たく見やってニルギルドもまた、彼を評する。

 火野源一。これもまたオーヴァ・ビヨンドにスカウトされて遥々日本からやって来た男だが、この男こそシンプルなシリアルキラーだ。


 日本の裏社会で雇われ鉄砲玉をこなし、敵対組織を必要以上なまでに潰して回るのが趣味の殺人鬼。

 しかも先日のエリス・モリガナとの邂逅によって何かあったのか、彼女を痛めつけて性欲を満たしたいという無自覚かつ極めて変態的な性癖にも目覚めている。


 味方にしても殺してしまいたいほどのクズだが、敵に回すとそれはそれで厄介極まりないゲス──というのが、ニルギルドから見た火野の姿でしかなかった。

 辛辣な言葉を投げかけられてなお、火野は嗤う。


「けひゃははははは! 人殺し以外に道のねえ人でなしが、テメェのこと棚に上げやがる! けっ……まあたしかに? 今の俺はあのモリガナを痛めつけてボロボロにして、それで一緒に気持ちよくなることばっか頭にあるけどよう。モリガナの穢れない血に塗れて、俺の欲望を受け止めてもらうのさ。きっと楽しいぜ……!!」

「……………敵ながら同情せざるを得ないな、モリガナとやら」

 

 嘆息する。ニルギルドはたしかに戦争と殺人のなかでしか生きられない男だが、それでもそれにかこつけて己の欲求ばかりを満たすつもりなどない。

 唾棄すべき欲望に魅入られて、エリスへの加害欲を日増しに肥大化させていくこの男と仲間である自分自身を密やかに嘲りながら、彼はアクセルを踏んで車を加速させた。

 目指すはグルベネから南西、後さらに南下。リガではない──リトアニアだった。

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― 新着の感想 ―
オーヴァが(おそらく)火野とニルギルドを彼女達と言っていたので、青年とはなっていたけど男かは微妙なニルギルドは男装の麗人説あるか!?と思っていたけど、別にそんなことはなかったぜ。
2025/09/19 12:45 こ◯平でーす
怖ぁ、、、こんなんに数十年粘着されたのか(;´∀`)エリスさん
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