判明する敵幹部
「お前達が自然公園で戦ってくれている間、こちらもWSOのほうから有意義な情報をいくらか得られた」
「有意義な情報……ですか?」
「うむ。我々パーティの今後の指針にもなり得る重大な、価値の大きい情報だよエリス」
エリスとレベッカの話も聞き終え、今度はヴァールとシモーネ側のこれまでの経緯が語られていく。
スタンピードに際して慎重に、より詳しい情報を掴んでから向かうべく別行動していた彼女達もまた、今回の事件において重要な情報を手にできていたと言う。
ともすればそれは、エリス達の今後の足取りにも関わるほどのものらしい。
一体どのようなものなのか? 固唾を呑んで続きを待つ一同に、ヴァールはやはり無表情のまま話し始めた。
「まずは能力者解放戦線の主要メンバー四人が判明したことから話そう。首謀者の名はオーヴァ・ビヨンド。フィンランド出身の占い師だった28歳の女だ」
「女……それに占い師? 能力者じゃないんですか!?」
「そこは分からん。WSOや全探組に登録していない、いわゆるモグリの可能性もあり得る。占い師としてはそれなりに人気があったようで、取り巻きを率いて組織したのが件の能力者解放戦線だと思われる」
「信者を使ってテロリストかい。質の悪い宗教家そのものってわけですね」
いきなり明かされた、敵組織のボスの名と素性。オーヴァ・ビヨンドなるその女については初耳だが、同じフィンランド出身ということでエリスにとってはそこが印象深い。
しかも占い師であり、能力者かどうかは不明という異質な輩。どうあれ最終的には必ず倒して捕縛せねばならないのだが、それだけに不気味さすら感じる来歴だった。
その女、オーヴァ・ビヨンドの他にも主要メンバーはいる。いずれ必ず倒すべき、今回のモンスターハザードを引き起こした敵の名を、ヴァールは続けてきた明かしていった。
「次いで側近のイルベスタ・カーヴァーン。年齢は35歳でこの男は元々探査者だ。弓を主体にした戦闘術を持つらしいので、話に聞いた自然公園のスタンピードを引き起こしたのはおそらくその男だろう」
「イルベスタ……カーヴァーン! 違えねぇですぜヴァールさん、閃光弾だかスタングレネードだかをぶっ放す直前、あの野郎がなんかそんな名前を口走ってるのはたしかに耳にしたんだ!」
「私も耳にしました。あのローブの男、間違いなくそのカーヴァーンとかって人です!」
自然公園において戦闘したローブ姿の男──イルベスタ・カーヴァーン。
オーヴァ・ビヨンドの側近として挙げられたその者こそが紛れもなく先程レベッカを死にいたらそうとしていた輩なのだと確信したレベッカとエリスが叫ぶ。同時に強い敵対意識をもって、その名を二人して心に刻み込む。
あの男は危険だった。平然とスタンピードを引き起こす時点でそうなのだが、個人の武力としても何か、得体の知れない力を感じさせたのだ。
実際、レベッカの斬撃をまるで予め知っていたかのように回避し、あまつさえ致命的なカウンターまで放ってきている。エリスと同様の、けれど性質の異なるスキル《念動力》によってだ。
「あり得ん。《念動力》は基本的に物質に干渉するスキルだ。まるで未来を読んでいるかのようなそんな効果などあるはずもない……何かタネがあると見るが、それは現状では分かりようもないな」
スキルに関しては現状、この世の誰よりも詳しいはずのヴァールにさえ理解できない動きとスキルの使い方。
WSO統括理事でさえ把握していない謎の力を使うというのだ、イルベスタは。そのことにさらなる危機感を抱くレベッカ、エリス、そしてシモーネ。
しかして次、さらにヴァールによって語られる主要メンバーに、特にエリスが驚くこととなった。
──因縁とも言うべき、エリスがこの旅、この戦いに参戦するきっかけとなった男の名が、判明したのである。
「火野源一。日本出身の探査者で、こちらもデータが全探組に登録されている。歳は22、二振りの刀を用いる二刀流剣士だ……エリス。お前の故郷を襲い、あまつさえ村民を惨殺さえしてみせたのは、間違いなくこの火野だ」
「火野、源一……!」
「同時にニルギルド・ゲルズなる能力者も確認されている。こちらはモグリで、各地の裏社会で傭兵めいたことをして生計を立てていることしか判明していない。そしてこの二人だな、フィンランドからここに至るまで我々が追ってきたのは」
故郷を襲った怨敵、あるいは宿敵。
同時にエリスにとってはひどく気味の悪い、有り体に言えば気持ちの悪い言動をしていた東洋人の男。その名は火野源一。
隣人一家を惨たらしく殺してみせたあの殺人鬼だけは、絶対に見つけ出して倒しきって償いをさせなければならない。その思いでヴァールのスカウトにも応じたエリスにとってはまさに因縁の相手である。
ともに行動しているらしい謎の傭兵ニルギルド・ゲルズも併せ、これで能力者解放戦線の主要メンバーが判明した。
エリス達が追いかけ、そして倒すべき敵について分かったのである。




