エリスの実力
エリス・モリガナという探査者の、異才とも言える強さの秘密の一つである《念動力》によるエネルギーブレード。
特筆すべきはその威力の高さにあった……スキルによって引き出した力をすべて込めて形成した淡い輝きの刃は、現状のエリスのレベルでは本来、太刀打ちできないはずの格上モンスターでさえ一撃で切り裂き粉砕する威力があるのだ。
先だってのスタンピードにてヴァールは、実際に彼女がジャイアント・キリングを果たすところを肉眼で見ていた。
ゴールデンアーマー。1957年現在の大ダンジョン時代では、一対一で戦えるような探査者など一握りだろう極めて凶悪なモンスターに対し、エリスのナイフは力量差を完全に無視した一撃必殺を成してみせたのである。
「思うに、あのナイフに込められた《念動力》のエネルギーは、エリスのレベルに関係なく一定の性能を発揮する性質なのだ。彼女のレベルは現在100を少し超えたところだが、これが仮にレベル1000だろうが2000だろうが威力は変わらないだろう」
「レベル4桁なんざ想定にしてもぶっ飛びすぎでしょう……しっかし、なるほど? ヴァールさんが目にかけるだけのことはある、ありゃたしかにとんでもねえ才能だ。あんな威力で攻撃できるんなら、ぶっちゃけそれだけでも私らの助けになり得ますね」
ヴァールの見立てに、レベッカはうなずきつつも山賊バットを確実に仕留めるエリスを見据えた。
全体的な動きそのものは凡庸だ。立ち回りも甘い部分があるし、ここに至るまで一度、攻撃を受けて傷を負っていたりもする。この時点で弟子のシモーネのほうが総合的な評価では上回るだろうが、さりとてあの《念動力》の使い方は、そのような辛い評価をも吹き飛ばすだけのインパクトがある。
すさまじい威力だ。半信半疑だったがたしかにこれなら、あのゴールデンアーマーをも一刀両断できてもおかしくないほどに。
レベッカも当然、かのモンスターとは何度か交戦しているものの……正直に言えば一対一で戦ったことがなく、また戦えば確実に殺されるだろうと戦士としての嗅覚から察していた。
純粋なパワーファイターの彼女であってもあの鎧の防御を貫くのは容易いことでなく、防御面をすべてかなぐり捨てた一撃でようやくといった話なのだ。
それを軽々貫通してトドメをさしたというエリスの話も、今のエネルギーブレードの威力を見れば否応なく納得する外ない。
間違いなく攻撃面だけならばあのヴァールにも匹敵する実力だ。そして、それだけでももはやレベッカには彼女を認めない理由などない。
動きの拙さ、防御力の低さ、総じて総合的な実力不足については今後、ヴァールやレベッカが戦いのなかで教えていけばいいだろう。そこさえカバーしていければ、十分に自分達と肩を並べてモンスターハザードに立ち向かえるポテンシャルはあると言えた。
「で、でもですよ……無茶苦茶な威力ですけど、防御面はさすがにガタガタですね。あれじゃちょっと、これから先が思いやられるっていうか」
「まあ、さすがにそこはな。聞けば彼女は探査者となって以来、師匠もおらず独自に故郷付近のダンジョンを探査していたそうだからな。むしろ、あそこまで動けるだけでも──むっ!」
「きしゃしゃしゃしゃしゃしゃーっ!!」
「あっ! ほら、エリス危ない後ろー!!」
師と異なり、エリスに対して低めの評価を下すのは弟子のシモーネだ。嫉妬混じり、羨望混じりのものながら、その指摘自体は正しくヴァールやレベッカも静かに耳を傾ける。
彼女の言は正しい。そう言わざるを得ないほど、エリスの動きや防御面での技術は未熟なものだ。
聞けばエリスの場合、師匠もいない完全な独学での戦闘技術らしいのだとヴァールは庇いつつも咄嗟に声を上げた。見据える先のエリスの背後から、討ち漏らした山賊バット、最後の一匹が襲いかかってきているのを見る。
直前に他のモンスターを切り裂いていた直後、危険なタイミングだ……この時ばかりはシモーネも、エリスへの妬み嫉みなど考えず探査者として後輩に叫ぶ。
しかしもう遅い、反応したとて避けきれないタイミングだ! 直撃を喰らえば、さすがにただでは済まない!
「っ、《念動力》!!」
「!!」
「えっ!?」
「なんだとぉ!?」
────その刹那だった。エリスは咄嗟に、さらなる《念動力》の特異な使用法を披露した。
これもまた、ゴールデンアーマー戦にてヴァールにも示したものだ。物体を動かす力でもって"己自身を操り動かす"。セルフ・マリオネット。
そして本来ありえない挙動と速度で、彼女はその場で宙返りをしてみせた。背後から迫る山賊バットを華麗に交わしつつ、さらに背後を取ってみせたのである。
「きし────!」
「これで……終わりですっ! でやぁっ!!」
返す刀でエネルギーブレードを一閃、山賊バット最後の一体を見事に切り裂く。
一撃にて必殺を成す超威力が直撃し、モンスターを光の粒子へと返事させていく。後に残るのはエリスのみ。
勝利だ。
複数匹の巨大かつスピードの早いモンスターを相手に、彼女は一人で戦い、見事に勝ってみせたのであった。




