[extra11 猿と雉]
知っての通り、私は桐谷先輩とよく携帯で連絡という名の雑談をしている。
この間、お気に入りの本を持ち寄り、見せ合おうという話の流れになった。
漫画だけどいいのかな…とどきどきはらはらしながら紙袋提げて生徒会に行こうとしたら、偶然にも猿河氏に会った。
「おはよ。今日も大福みたいなほっぺして。食べてあげようか」
挨拶代わりに壁際に追い詰められて、頬を思いっきり絞られた。
怖いわ!どこの世界の挨拶方法だよ。
「ちょ、退けて。こんな所誰かに見られたら大惨事だから。あと、私ちょっと用事あるから。猿河氏にじゃれつくために一階に来たわけじゃないから」
「へー」
猿河氏が私の言う事を聞くはずもなく。
「何。用事って」
「あだだだだだだ…」
サイコパスにも程があるよ!
徐に卍固めをきめられる。痛い、これは痛い。おおよそいたいけなJKにかける絞め技じゃない。
「で、なに」
「き、桐谷先輩にィ~」
「桐谷先輩に?」
ぎぎぎ、と体の節々から変な音が出てる。
やばい、これやばいやつ。壊れるって!と猛抗議しても猿河氏はどこ吹く風。
「呼んだか?」
ガチャ、と桐谷先輩が生徒会室から出てきてびっくりした。
私はおろか、猿河氏まで思わず無言になった。
「鬼丸君に猿河君か」
しかも私たち二人はすごい体勢になっているか。
桐谷先輩はすごい体勢の私たちを一瞥して、一言。
「組体操の練習か?」
いやいやいや!こんな組体操ある!?
毒気を抜かれたらしい猿河氏から開放されて、私はへろへろと桐谷先輩の前に躍り出る。
「あ、これ約束してた例のブツです。全16巻でちょっと物量多いけど、返却はいつでもいいんで」
桐谷先輩に紙袋を渡す。
「…ありがとう」
嬉しい、と言ってくれるが全くの真顔。
なんとなくのイメージでファンタジーものチョイスしたけど大丈夫かなと心配になる。この漫画家さんが猫好きでよく後書きで飼い猫についての日常話描いてるって点も決め手なんだけれど気に入ってくれるだろうか。
横から猿河氏が紙袋の中を覗いて「うわ、名作じゃん」と懐かしそうにしていたのが意外だった。
「ちょっと待ってほしい」
桐谷先輩が一旦生徒会室に戻って、また出てきた。
「僕からはこれを」
渡されたのは予想したより、ずっと薄い文庫本だった。
「星新一の作品集だ。多分、君の好きそうな話が多く掲載していると思うものを持ってきた」
「わぁ、ありがとうございます」
「先輩、この子『星新一…あ、なんか聞いた事あるけど、何書いてるかは分かんないや。とりあえず笑っとこう』みたいな顔してますよ。猫に小判もいいとこじゃないですか」
私の心情を一瞬で読み解いて、猿河氏が告げ口する。猿河氏は一体何の立ち位置でいるんだ。
「うん?素晴らしい作家だぞ、世間ではショートショートの神様などと呼ばれている」
先輩、多分猿河氏は解説を求めた訳ではないと思う。
へー、なるほど、そうなんですか。と酷い棒読みで猿河氏は相槌をうって、適当な所で話題を切り替えた。
「あ、そういえばさっき職員室に行ったら、稲見ちゃん先生呼んでましたよ。体育祭運営についてとか」
猿河氏が職員室を指差す。氏も桐谷先輩に用事があったのか。それでこの辺りにいたのか。それはかち合うわけだ。
ちなみに稲見ちゃんは生徒会顧問である。
「わかった、今行く。あと、練習するのはいいが、怪我には充分気をつけたまえ」
だから、組体操じゃないし!!という無言の全力ツッコミがひしひしと猿河氏から此方側に波紋状に伝わってくる。
「……猿河氏、先輩の事若干苦手でしょ」
先輩を見送りながら、猿河氏にこっそり問いかける。
「若干苦手じゃないよ。かなり苦手」
猿河氏は渋そうな顔で私を見下ろした。
だろうね。終始にこにこ顔を崩さないし、何時もより言葉を選んで話してるようだったし。
「なんで、あんなに癒しキャラなのに」
「何が癒し!?ただのど天然じゃん!ふざけててとか狙って言ってんならまだ弄れるよ?でも、あの人100%じゃん。100%大真面目で言ってるから怖いわ!なにあれ、時々あの人に純白の翼が生えてるように見えて超逃げたくなる」
「あー…」
完全人工養殖は本物天然物を忌避する法則。
「私の中で、桐谷先輩は妖精さんって設定だからね」
同じ人間だと認めると、自分のあまりの内面的醜さに精神崩壊しそうになっちゃうから。
共感を覚えて猿河氏になんだか優しくしたい気持ちになり、私はぽんぽんと猿河氏の肩を軽く叩いた。
桐谷雪路
種族・妖精
属性・クーデレ ピュア←new!




