表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/117

王都の偵察 6

 敵の本拠地に潜入してから1日足らず。


「遅かったじゃない。アリスを心配させるなんて、ダーリンのくせっーーんきゅっ!? ち、ちがうわ。誰も心配なんてしてないんだから!! 調子にのらないでよね!!」


 第2王子の包囲網を振り切った俺は、コロコロと表情を変えるアリスに迎え入れられていた。


 顔を真っ赤に染めて視線をそらす彼女を微笑ましく思いながら、ミリアに視線を向ける。


 そして、背負うように連れて来たノアをミリアに託した。


「さっそくで悪いんだが、ノアを頼めるか?」

 

 普段なら大人顔負けの澄まし顔をしているノアも、目を赤く染め、涙を必死に拭っている。


「お姉ちゃん……、おじさんが……」


「……うん、大丈夫よ。

 お話はホットミルクを飲みながらね」


 ミリアに頭をなでられて、ノアが目を伏せた。


 殺意を持つ大人達に追われ、一般市民に指を指され、時には悲鳴をあげられた。


 一番の重みは、信頼していた伯父さんに裏切られたとの思いだろう。


 そんなノアと視線を合わせて、ミリアが普段通りの笑みを見せる。


「紅茶入りのクッキーと普通のクッキーどっちがいい?」


「……紅茶入り」


「お姉ちゃん、久しぶりに頑張るわねー」


 手をつないで2人が部屋を出て行った。


 彼女のことは、ミリアに任せて大丈夫だろう。


 そんな思いを胸に、俺はサラ達の方へと向き直った。


「ちょっと拙いことになった」


 わざとらしく肩をすくめて、そんな言葉を伝えてみる。


 予定よりも幾分か早い帰宅に、ノアの様子。


 ある程度は察していたのか、サラたちも瞬時に表情を引き締める。


 旅の1番の目的であった特産の食料は、無事に入手出来たこと。


 大量の兵士に囲まれ死に掛けたこと。


 第2王子を暗殺しようと銃を撃ったが、見えない壁に阻まれたこと。


 そして、王都にダンジョンへの入口を開き、それが敵側に知られたことを伝えた。


 緊急で作ってもらった入り口を通り、出来上がっていく通路を走り抜ける。


 そのせいで、敵本拠地までの直通ラインが出来てしまった。しかもその場所を敵に知られている。


「……ねぇ、それってヤバイんじゃないの?

 ダンジョンの入口って、見つからないようなところに作ってくるって言ってなかった?」


「あぁ、そこそこ拙い。なんとか打開しようとしたんだが、どうしようもなかった」


 第2王子が現れるまでは、立て篭もりと遠距離攻撃でなんとか均衡を保っていたのだが、銃による攻撃を封じられたことにより、状況は悪化。


 敵は転移魔法が使えないため俺たちと同じ速度では来られないが、地道に歩けばいずれはたどり着く。


 申し訳ない、と頭をさげれば、サラが肩に手を置いてくれた。


「兄達に存在が知られてしまった事は残念だが、キミ達の命には代えられないからね。仕方ないよ。

 それで? 兄達の動きはどうなっているかわかるかい?」


「あぁ、カラスを通じて見る限り、突然現れた穴を怪しんで、誰も入ってこない……、いや、どうやら様子見は終わりらしい。丁度、第2王子に背中を押された兵が入ってくるみたいだ」


 俺達が逃げるために作った王都にあるダンジョンの入口。

 そこに1人の青年が足を踏み入れようとしていた。


 未知に対する恐怖からか、及び腰になりながらも、時折聞こえてくる第2王子の声に押されて、前に進む。


「なにか出ました!!」


「おっ、なになに?? 強敵??」


「……えっと」


 暗がりの中をランタンで照らせば、うごめく小さな影が見える。


 支給された剣を片手で握りしめて、ゆっくりと灯りを近付けた。


 ぼんやりと浮かびあがる影。


「…………とかげ??」


 だが、普通のとかげと言うには大きすぎる窓


 全長は1メートルほどて、その口もとには鋭い牙が生えていた。


 どう考えてもトカゲなんて優しいものじゃない。


(召喚獣? いや、魔物か?

 ……どちらにせよ、味方じゃないな)


 応援を呼ぶか、相手の出方を伺うか、逃げるか。


 未知との遭遇に兵士が判断を迷えば、トカゲが口を大きく開いた。


「っ!!」


 口の中がまばゆい光に染まり、巨大な炎が噴射される。


 瞬時に反応した兵士は、左手に装着していた丸い盾を体の前に掲げたものの、トカゲが吐き出す炎を防ぐには小さすぎた。


「ぐっ!!」

 

 顔と手、それから胸は何とか守ったものの、腰から下は、火炎放射器並みの炎が直撃し、鉄の鎧を溶かしていく。


 炎は予想以上に熱く、掲げた盾は溶け、全身がぼろぼろ。


 特に足の方は重症で、立っていることすらままならない。


「や、やめろ!! 来るな!!!」


 そして、身動きが取れなくなった兵士のもとに、巨大なトカゲが忍び寄る。


 床に治れ込みながらも、剣や盾で応戦を試みたものの、時を待たずして兵士の叫び声が響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ