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王都の偵察 4

 クロエがお菓子を頬張っているそんな頃。


 勇者たちのいる店から少しだけ離れた場所で、1人の兵士が驚きに声を上げた。


「なっ!!! アルフレッド王子!? 親衛隊!?

 ……し、失礼しました」


 慌てて地に手を付けた男に、王子が優しげな笑みを向ける。


「いいよいいよ、跪かなくても、今の僕は御忍びだからね。

 それで? 勇者らしき者が居るんだって?」


「はい。あそこにあります店の主より、王家の紋章がない魔玉を持ち込んだ客がいる、との通報を受けました。

 顔を知る者が魔法で確かめたところ、髪の色は違うが勇者によく似ている、とのことです」


「なるほどねー。いやー、規制とか色々と頑張った甲斐があったよ」


 部下からの報告を耳に、王子が楽しげに笑って見せた。


「さーて、ちょっと勇者さまのお顔でもー……。ん?? おっ、出て来た、出て来た」


 店の中が騒がしくなり、勢い良く出入り口の扉が開かれる。


 その奥から姿を見せたのは、灰色の髪をした少年と2人の少女。


「へー、あれが勇者かぁー。見た目は普通なんだね。もうちょっと面白い人を想像してたんだけどな。そう思わない?」


「……見た目に関しては、同意権ですね。女性受けが良さそうな顔をしていますが、武力に関してはダメそうな印象を受けます」


「だよねー。強いのかな??」


 新しいおもちゃでも見つけたかのように、王子がニヤリと口元を吊り上げた。


 そんな彼の視線の先で、1人の兵士が少女のナイフを腹に受けて、地に伏せる。


「ここは通さねぇ――がは」


「っち、遠距離の魔法使い――っつ!!」


 慌てて駆け寄った2人の兵士も、すれ違いざまの一撃に沈んだ。


 物陰から近寄っていた物は、勇者が金属の筒を向けて血を吹いた。


「なっ!? …………くっそ。……何をしている。追え!!」


 足止めできた時間は、10秒もなかっただろう。


 そんな光景に思わず呆気に取られていた兵士達は、上司に叱咤されると、及び腰になりながらも、逃がすまいと勇者の後ろ姿を追って走り始めた。


「ははは、いやー、華麗に逃げられちゃったねー。

 あれが勇者の魔法かぁ。遠距離で詠唱なし。中々な性能みたいだね。いやー、さすがさすが」


「いや、笑い事ではございませんよ。

 武勇の欠片も感じないと思っておりましたが、見た目に反して、中々骨が折れそうな相手ではありませんか……」


 結局勇者は、王子と親衛隊が隠れていた路地とは反対側へ走っていったため、彼等は高みの見物である。


 そんな彼等のもとに、現場の責任者の男が、顔を青くさせてやってきた。


「……誠に申し訳ございません。

 包囲が完了する前に察知されるだけでなく、あの2人が一瞬で抜かれるなどとは……」


「いやいや、いいよいいよ。僕も勇者の能力にはびっくりしたからね。仕方ないよ。

 それにどうせ王都からは逃げられないんだしね。お粗末な変装は解けちゃったからさ」


 王子の言葉通り、店から出てきたときには灰色の髪だった勇者だが、いつのまにか艶のある黒髪に変化していた。


「……ありがとうございます。お手数をお掛けしました」


「いやー、勇者との鬼ごっこは楽しいねー」


 目の前で敵の大将に逃げられたというのに、なぜか楽しそうな王子は、現場の責任者に『それじゃ、勇者が見つかったら教えてね』と言い残して、勇者が訪れた店へと向かった。


「んーっと? 君が店主? 通告してくれた人?」


「は、はひ」


 いきなり現れた国のトップ2に驚く店主。

 その表情には、はっきりと恐怖の2文字が泳いでいる。


「いやー、ありがとねー。なかなかに面白いものを見させてもらったよー。

 その御褒美に何かあげようと思うんだ。えーっと、何がいい? 王家御用達の看板でもあげよっか?」


 魔法の国でナンバー2の権力を持つ彼が叶える事の出来る願いの幅は広い。それこそ魔法のランプにお願いするレベルだ。


 いきなりそんな幸運が舞い込んだ店主は、すこしだけ頭を下げると、はっきりとした口調でその願いを口する。


「ノアとミリア。勇者に騙され、その部下となっている私の姪っ子、2人の助命をお願いします」


 もともとそれが、情報提供時に軍に約束させた内容だった。


 勇者の話を聞いてわかったが、ノアは商品部門の責任者、ミリアに至っては勇者の妻である。

 鶴の一声でもない限り、処刑は確実だった。


 王家御用達の看板は、商売をする者なら全員が憧れる最高の称号。

 店を継いでからずっと願い続けた物ではあったが、あの子達の命以上のものではない。


 そんな店主の懇願にたいして、わかったよー、と言い残し、王子はその場を後にした。


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