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王都の偵察 2

 王都への潜入を果たした俺たちは、クロエの食事に付き合った後で、ノアと親戚関係にあると言う店を訪ねることになった。


 その目的は食料の調達である。


「兄様。ここですね」


「……あー、なんというか。……でかいな」


「ですね。オジサンと同じくらい大きな店を構えるのが、昔からの夢なんです」


 見るからに高級な店の前で、ノアが照れながら瞳を輝かせた。

 

 高級店が立ち並ぶ地区にありながらも、目的の店は周囲のものよりも、ふたまわりほど大きい。


 両親が健在だった頃に何度も世話になっており、王都で一番信用出来る人らしい。


 幼い頃を思い出しているのか、ノアの口元には年相応の笑みが浮かんでいた。


 カラン、カラン、と鐘の音がなり、壺や皿などの調度品が並ぶ店内へと足を踏み入れる。


「いらっしゃいま……」


 店の奥へと視線を向ければ、店主らしき男が驚きに目を開いていた。


「ノアちゃん? ……ノアちゃんなのかい!?」


「はい。お久しぶりです、おじ様」


 どこか照れくさそうにノアが返事を返せば、店主の顔に満開の笑みが咲く。


「いやー、大きくなったねー。……お店がダメになったって噂を聞いて心配してたんだけど、元気そうで安心したよ。

 ミリアちゃんは? 一緒じゃないのかい?」


「今は一緒じゃないですけど、お姉ちゃんも元気ですよ。ほんとはお姉ちゃんも来たがってたんですけど、お仕事がたくさんあったので、押し付けてきました」


「ふはは、そうかいそうかい。仕事が山盛りなのはいいことだよ」


 そう言って目を細めていた店員の視線が、俺とクロエの方へと動く。

 その目は先ほどまでとは異なり、どこか探るような雰囲気は商人のそれだった。


「それで? こちらの方々は?」


「あっ、そうでした。この方は、あにさ――じゃなかった、ハルキさんです。

 私達のお得意様であり、代表であり、生産者であり、責任者、って感じですね。

 説明は難しいんですけど、あたし達の面倒を見てくれてる人です。隣にいるのが、ハルキさんの妹さんですね」


 ノアの説明じゃ、結局俺は何者なんだよ、なんて感想しか出てこないのだが、正直に『勇者です、この国の敵です』なんて言えないしな。


「……おぉ、そうでしたか。保護してくださった方ですか。いやー、お恥かしい限りなんですが、私共がこの子達の不遇を知ったときには、すでに行方知れずになってまして。ずっと途方にくれて居たんですよ。


 この度はノアとミリアを助けて頂き、本当にありがとうございました。ノアもハルキ様に懐いているようですし、今後とも良い関係を続けて頂けると幸いです」


「いえいえ、そんな。お礼を言われるほどの事をした訳では無いですから。

 むしろ俺の方が助けられてばかりですからね」


 えぇ、本当に、謙遜でじゃなく、マジで助けられてますよ。


 ……あれ? 今思えば、俺、ノアに何かしてあげれたっけ? 仲間に引き入れただけじゃない?


 …………うん、まぁ、うん。

 変な方向に行く前に、さっさと本題に入るとしますか。


「それでですね。ちょっと仕事をお願いしたいんですよ。

 ノアから聞いたんですが、植物の品種改良をしていただけるとか」


「えぇ、もちろんです。それが仕事ですからね。

 もとになる種はお持ちですか?」


 クロエに頼んで、袋にしまってあった米を机の上に置く。そして、本拠地から持参した魔玉も取り出した。


「すいません。すこしばかり懐が心もとなくて、魔玉持参ってことで、安くして貰えたらなー、なんて思いましてね……」


 勇者国保有の資金をすべて数え直したのだが、魔法の依頼をするにはすこしばかり心もとなかった。ゆえに、材料持参で交渉してみよう、ってことになっていた。


 ミリア曰く、魔法が高いのは王都に出回る魔玉が高いためだから、魔玉を持っていったら、普通は安くしてくれるはずよー、とのこと。


 ミリアの予想通りと言うべきか、チラリとノアの方を見た店主が、人好きがしそうな笑みを見せた。


「そちらの魔玉を使わせていただけるなら、無料で構いませんよ」


「……いいんですか?」


「もちろんですよ。材料をそちらで用意していただけるのなら、こちらの損失はありませんし、ノアとミリアがお世話になっているようですからね。彼女達が一番辛い次期に何も出来なかった私の自己満足染みた罪滅ぼしだと思ってください。

 おっと、そういえば、お客様にお茶もお出しせずに。これは失礼いたしました」


 そういって店主は手元に置かれていたベルを鳴らす。

 するとすぐに1人の女性が姿を見せた。


「失礼します。お呼びでしょうか?」


「あぁ。すまないが、お客様にお茶とお菓子を用意してくれ。

 1番ランクの高いやつを頼む」


 お菓子。その言葉が聞こえた瞬間、俺の隣でずっと大人しくしていたクロエがシュパっと顔をあげる。


「ふふふ、そうだね。お嬢様方も多いし、少しばかりお菓子を多めに頼むよ」


「……畏まりました」


 どうやら店主もクロエの反応に気がついたようだ。

 いや、ほんと、うちの食いしん坊がすいません。


「先に仕事を終わらせて、ゆっくりとお菓子の時間と致しましょうか。そちらの魔玉を右手に、左手に種を握ってもらえますか??」


「わかりました」


「私が詠唱を始めましたら改良後の姿を想像してくだい。それではいきます。

 心に宿る神よ、かの者の呼び声に答え…………」


 勇者国の主食を担うべく、日本の米を思い出していく。


「はい。結構ですよ。他にもございますか??」


「せっかく王都にまで来たので、こっちの種芋の改良もお願いしたく……」


「かしこまりました。そちらも無料でお引き受けしますよ。それでは目を閉じてください」


 米と同じ要領で、ジャガイモも作り上げた。


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