崩れ去る村 勇者の決意
「……そうか、村長は残ったか」
一足先にダンジョンへと戻った俺達は、先行した者全員で壁を作っていた。
今回連れて来た者達は、ダンジョン内に増設した部屋に毛皮を敷いて寝てもらうことになったのだが、今後も増えることを考えると全員をずっとダンジョンの中に押し込んでおくわけにはいかない。
それに火で壁を作ったとはいえ、数日もすれば鎮火し消えてしまうような壁だ。
そのうち、村人たちの足跡を追いかけて敵軍がここまでやってくるだろう。
「皆さん、聞いてください。敵は炎の壁を越えた辺りで引き返しました。なので、簡易の壁は必要なくなりました」
そう思っての行動だったが、村長たち3人の犠牲を代償に、敵は帰って行った。
ほっかりと空いてしまった感情を胸に、彼らが生まれ育った世界の空を見上げて頭を下げる。
「戦闘を回避してくれた3人に、心からの感謝と冥福を」
作業をしていた人々が動きを止め、同じように空に祈ってくれた。
彼等は誇りを貫き、結果を残したのだろう。
大局のための必要な犠牲。最小限の犠牲で最大限の結果を残した。それはまぎれもない事実だろう。
それでも俺は、必死に生き、俺達と行動を共にして欲しかった。
甘ったれるなと言われようが、勇敢な者の誇りを傷つけるなと言われようが、必死に生きて欲しかった。それが、俺の偽らざる本心だった。
「しばらくの間、休憩にする。
今後の方針を決めるから、首脳陣は集まってくれ」
今の俺たちにとまることは許されない。
争いを急ぐ訳ではないが、何もしなければあの村や、3人のような犠牲が増え続ける。
そんな思いでダンジョン内部に作った円卓に座れば、サラが沈んでいた空気を持ちあげた。
「それで? 今後はどうするつもりだい?」
普段通りの雰囲気を装うサラの言葉に、目を閉じていっときの感情を押しのけた。
「ダンジョンの強化は今まで通り続けよう。なんと言っても俺達の最後の砦だ」
ダンジョン内には、俺の腹に穴を開けた鶏型のモンスターが50体ほどいる。
作り始めた当初と比べれば雲泥の差ではあるが、守りの要と言うには心もとなかった。
「あとは、保存食の備蓄を増やしたいと思う。特に塩は自分たちで作れないからな。ミリアとノアに頼ることになると思うけど、確保をお願いできるか?」
「大丈夫よ」
「うん。任しといて」
篭城などを考えると包囲された際の裏ルートも作りたいが、それは追々でいいだろう。
「あとはダンジョン以外の防御手段を作ろうと思う。
簡易で作り始めた壁をより強度の高い物にして、そばに監視塔も作りたくおもう。これは、アリスの魔法とサラの知識をメインに進めれるか?」
「任せておきなさいよね。王都に負けない物を作ってあげるわ!!」
「よろしく頼む」
口元に手を当てながら脳内を整理し、仲間たちの顔を眺めていく。
サラが1人で初めて、俺が加わり、クロエが仲間になった。
アリスがやってきて、ミリアとノアをスカウトした。
それからは日を追うごとに、仲間の数が増えていった。
そんな仲間たちのために、俺たちは前に出なければ行けない。
「一度、王都に偵察に行こうと思う。表だって攻めるつもりはないが、出来ることを探すつもりだ」
そう言葉にすれば、全員が口を閉じたままうなずいてくれた。
「悪いが、最後に一言だけ言わせて欲しい。
みんな、何が起きても死ぬなよ」
この日から、勇者国が本格的に動き始めた。




