近くの街で 2
ノアに案内された宿は、可もなく不可もなくといった感じの宿だった。
ビジネスホテルのような部屋に、布団がひいてあって、1泊朝食付きで銅貨1枚。
値段も設備もこの町の平均くらいだそうだ。
まぁぶっちゃけ、安全に眠れる場所なら問題ない。
「うっし。予定通り明日まで自由行動だ。解散!!」
「「「イエッサー!!」」」
各自が自分の部屋に荷物をおいて、うきうきしながら街へと繰り出していった。
いくら自由にさせていたとはいえ、ダンジョンの中から出られない生活はストレスが溜まっただろう。
久しぶりの街で発散して、楽しい思い出を作ってきたら良いと思う。
「お兄ちゃん。何食べに行く? どこから行く?
私、王都以外で食べ物屋さん行くの初めてだから、いろんなところに行ってみたな!!」
食べ歩きツアーだよ!! といった感じで、きらきらと目を輝かせたクロエが腕に引っ付いてくる。
街に入っていきなり串を3本も食べたはずなのに、どうやらそれはなかったことになっているらしい。
大きな口をあけておいしそうに食べるクロエに付き合っても損はないと思うが、残念ながら食い倒れのまえにするべきことがあった。
「まてまて、先に販売の準備だ。
販売場所を決めて門で預かってもらってる販売物を運び込まなきゃいけないだろ? 食べ歩きはそのあとな」
「えーーーーーー」
うきうきとしているクロエには悪いが、今回の外出は防衛資金の調達がメインの目的だ。
早々に販売を始めて売れ行きを確認しなければならない。
「うぅーー。お兄ちゃんがいじめる」
「いや、いじめるもなにも……」
「いい香りがしてるのに、お兄ちゃんの意地悪」
「…………」
クロエの言葉通り、周囲にはすてきな香りが流れていた。
焼き魚に似たもの。
おでんに似たもの。
煮物に似たもの。
時折、懐かしい気持ちさえわき上がってくる。
そしてなにより、お米を探したい。
今回ばかりは、食いしん坊に味方してやりたい気持ちも少なからずあった。
(けど、それはダメだろ。また死にかける)
そう心に誓って、決意をかためる。
だが、そんな俺に向けて、ミリアが優しい微笑みをくれた。
「わたしとノアちゃんで、お店をするわよー?? ハルくんとクロちゃんは、情報収集で良いんじゃないかしらー」
「……いいのか?」
その微笑みにすがるように視線を向ければ、頬に手を当てて、嬉しそうにうなずいてくれた。
「ふふふ、お姉ちゃんに任せてくれてー。ノアちゃんもそれでいいわよね?」
「うん、大丈夫だよ。……あー、けど、2人でってのは大変じゃないかな?
兄様、6人いるんだから、3人と3人じゃダメですか??」
「そうだな……」
情報収集ならサラが必要だろう。
彼女の知識や研究結果が役に立ってくれると思う。
あと、残るのは……。
「アリス、販売を頼んでもいいか?」
「ふぇ? アリスが販売するの? なんで?」
自分が頼まれるなんて思っていなかったのだろう。
驚いた表情を見せたアリスが、不安そうな目をこちらに向けてきた。
ぶっちゃけ、王族であるアリスがまともな接客など出来るとは思わないが、残る人材は彼女だけなのだから仕方がない。
本音を言えばクロエを販売に回したいが、彼女がそれを良しとするはずもないしな。
「初めての事で不安かも知れないが、アリスは見た目がいいから、笑っていれば大丈夫だ。アリスならできるよ」
「……見た目がいい」
そんな言葉を小さくつぶやいたアリスが、頬を赤く染めるて顔を上げる。
そして、きれいな笑顔を咲かせてくれた。
「アリスに任せておきなさいよね。販売くらい余裕なんだから」
「……あぁ、よろしくな」
どうやら快く引き受けてくれるらしい。
うん、なんてチョロイ子なんでしょう。お父さんはアリスの将来が心配だ……。
「そういう訳で、サラは俺たちと一緒にこめ……、じゃなかった、有益な情報を探してもらうから一緒に来てくれるか?」
「了解したよ」
一瞬だけアリスに視線を向けたサラが、ふぅ……、と小さくため息をついた。
そして、意味ありげな笑みを浮かべながら、俺の目を見つめてくる。
「ハルキは米が欲しいのかい? 心当たりがあるのだが、案内したほうがいいかな?」
「……まじで!??? 行きます!! つれていってください!! お願いします!!」
「ふふ、了解したよ」
っしゃーーーーー!!
お米様が食べられる。お米様、お米様ーーーーーー!! ひゃっはーーーーーーー!!
わき上がってくる嬉しさに任せて、両手を天に掲げる。
周囲に居る彼女たちには異様な光景に見えるかも知れないが気にしない。
久しぶりにお米が食べられるのだ。この感情は誰にも止められることなど出来ない。
(米かぁ!! 米だよ!! 米ですよ!!!!)
俺のこのリビドーは何人たりとも止められない!!




