対策会議
移動系の魔法使いを逃がしてしまってから4日。
「おにーちゃーん。準備できたよー」
「……あぁ、今行く」
俺達の情報が敵に伝わってしまったことに対する今後の予想や、対策について話し合いを重ねた俺達は、拠点の守りを強化する、という結論を出していた。
この人数で王子達に攻撃を仕掛けることなど出来るはずもなく、相手の出方を伺いつつ、守りを固める以外に選択肢などなかったわけだ。
つまるところ、現状維持である。
そして今、なぜか俺の目の前には豪華な食事が並んでいた。
「早く早く。お兄ちゃんの席はこっちだよ」
「……ほんとに、いっぱい作ったんだな」
「ふふーん。がんばりました」
目玉焼き、ゆで卵、味付け卵、ステーキに焼き鳥、から揚げ、シュウマイに水餃子、デザートはスイカとりんご、蜂蜜のクレープ。
色とりどりの飯が、真っ白な器に入れられ、天高く積み上げられていた。
決定的な打開策が見つかったわけではないが、一応は結論が出たということで、延期していた宴会を開始する。
「それじゃ、取り分けてくれるか?」
「はーい!!」
身内に犠牲者が出ていないとはいえ、今回の戦いは俺達の負けだったと思っている。
宴会は無期限の延期、という形にしようと思っていたのだが、クロエの笑顔が大変怖かったので開くことになった。
「ハルくん。とりあえず4本だけ持ってきたんだけど、良かったかしらー?」
「あぁ、問題ないよ。もし足りないようなら、後で持ってきたらいいしな。
それじゃぁみんな。席についてくれ」
褒美だから俺が注ぐと宣言して、1人1人の席を回り、各自のコップに俺特性のドリンクを注いでいった。
「今回の戦闘では、皆の頑張りにより、敵を撃退することが出来た。勇者として、君達を誇らしく思う。
そんな君達に報いるために、食事と飲み物を用意した。本日はおおいに楽しんでくれ。
乾杯」
「「「「カンパーイ」」」」」
お馴染みの掛け声と共に、手に持ったコップに口をつける。
口いっぱいに心地よい炭酸の刺激が広がり、ほのかに残る蜂蜜の香りが鼻から抜け、後味には程よい酸味が残る。
そしてアルコール特有の香りを体全体で感じた。
俺と同じように、褒美に口をつけた仲間たちは、みんな驚きの表情で自分のコップを眺める。
「……ハルキ。僕の感覚が間違っていないなら、この液体はお酒だと思うのだが、気のせいかい?」
「あぁ、酒で間違っていないよ。褒美として蜂蜜酒を振舞って見た。
俺の好みに合わせてみたんだが、サラはどう感じる?」
「うーん。……このシュワシュワ感には驚くが、嫌いではないと思う。
それよりも何処から入手したんだい? 塩以外の物を外から購入してきたなんて話は聞いていないのだが、僕に隠れて調達してきたのかい?」
「いや、俺が作った。いわば密造酒だ。俺が飲みたくて作ったものなんだが、塩を扱う商人との取引にも使っている。
造れる量が少なく、王国の法律に触れるらしいから、大々的には流してないがな」
「……なるほど、勇者としての知識、というわけか」
「そういうことだ」
この世界に召喚された当時、情報収集のために立ち寄った魔物の肉の焼き鳥屋で、アルコール類が販売されていなかったことにショックを受けた俺は、その後、サラにこの国の酒造りについて情報を流してもらった。
どうやらこの国では、製酒業は王家直轄事業として厳しく管理され、戦いが起きた場合には、出回る量を極端に減らし、かわりに褒美として与えているらしい。
酒が飲みたければ、兵士になって手柄をあげろ。
そういうことのようだ。
そのため、王家と敵対している俺には、どう頑張っても酒を手に入れる機会が訪れないことがわかり、それならばと日本時代の知識をもとに、いちから作り上げた。
ちなみに、塩づくりも王家の管轄で、販売や移動に制限が掛けられているが、こちらは酒と比べて管理が甘い。
そのため、密造、密売する者がそれなりにいるらしい。
一応、塩つくりの知識もあるが、海も塩湖もないこの地で塩を作れるはずもなく、生育が難しいらしい胡椒と一緒に、ミリアとノアを通じて密造酒と交換してもらっている。
密造酒、おぬしも悪よのぉ。
いえいえ、密造塩様ほどでは……。という感じだ。
「まさか、お酒を頂けるとは……。
本当にありがとうございます、勇者様」
「十分な量の酒を用意しているから、遠慮せずに飲むといい。
今出した物は蜂蜜だが、りんごから作ったものもあるので、欲しいものは言うように」
「はい、ありがとうございます」
どうやらこの国に炭酸飲料の文化はないようで、みんな、独特な刺激に目を白黒させながらお酒を楽しんでいる。
……次に作るやつは、#二次醗酵__シャンパン__#はしないほうが良さそうだな。
(いや、ほんと、高校の化学の先生が変人でよかったよ)
授業の合間に言っていたことを思い出して、試行錯誤を繰り返し、魔法の力も借りて作り上げた。
ってか、お酒も飲めない年齢で、しかも違法な知識って、先生ともあろう人間が、なにを言ってるんだよ。
なんて思って聞いていたのだが、この世に無駄な知識なはない、と言う言葉を再認識した。
人生、何が起きるかわからない。
一見無駄に見えても、記憶の片隅に残しておいて損はないようだ。
とまぁ、そんな苦労秘話はさて置き、いやな事はすべて忘れて、久しぶりのお酒を楽しみますかね。
「兄様、兄様ー。ヒック。
へへへー。兄様」
「もぉ、どうしてダーリンが3人も居るのよ?
さては、偽者が混じっているわね。ダーリンの癖に生意気なのよ」
「ハルくん。なんだかここ暑くないかしら? 暑いわよね? 暑いから脱ぐわね」
早くもおかしくなってきた女性たちは、極力気にしないことにしよう。




