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侵入者10

「……魔法ってすげーな。燃やし尽くされた毛根まで生き返るなんてな……」


 敵の侵入から2週間が経過したその日。

 ベッドから立ち上がった俺は、カラスの目を通してふさふさに戻った自分の髪を眺めていた。


(そもそも生きていたこと自体が驚きか……)


 両手には未だに火傷の跡が見えるが、それすらも日に日に減ってきている。


 死を覚悟した戦闘だったが、ノアの魔法のおかげで俺の体は戦闘前の状態と変わらないまでに回復していた。


(やっぱ、平和ボケ、してたんだろうな)


 前回のニワトリのケガもそうだが、もう少し頑張らないといけない。

 そう思いながら腕に残る火傷の傷跡をノア特製の布で覆っていると、ノックと共に入り口の扉が開かれた。


「お兄ちゃん、全員揃ったよ」


「……あぁ、ありがとう。飛ばしてくれるか?」


「はーい」


 布を巻き終えてクロエに指示を飛ばせば、一瞬の浮遊感が体を襲った。

 気が付けば豪華な椅子の前に立っていて、サラ、クロエ、アリス、ミリア、ノア。そして5人の男たちがなぜかひざまずいていた。


 その中からサラとアリスが進み出て、俺の手を握ってくれる。


「快気おめでとう」


「アリスの看病に感謝しなさいよね」


 そんな言葉を皮切りに、ひとりひとりが言葉を贈ってくれた。


 誰しもが嬉しそうな笑みを浮かべている。どうやら、なにかに悩んでいるのは俺だけなようだ。


 そうして仲間たちをぼーっと眺めていると、5人の男のリーダーを任せたリアムが前に進み出る。


「勇者様、発言させて頂いてもよろしいですか?」


「あ、あぁ。構わない」


「ありがとうございます。先ほどは、突入が遅くなり申し訳ありませんでした。

 そのせいで、勇者様をはじめ、姫様達にも苦労をかけてしまう事態となり、申し開きもございません」


「……いや、よく耐えてくれた。ベストなタイミングだったとさえ思う。

 リアム達の突入のお陰で、1人の被害も出さずに敵を全滅させることが出来た。礼を言う」


「……有り難き御言葉、しかと頂戴致しました」


 まぁ、実際の所、俺が死に掛ける前に来て欲しかったかなー、なんて思わなくもないが、洞窟の入口から、敵に悟られないようにダンジョンを進んで来てくれたんだ。


 いくら敵がほとんどの魔物を始末していたとは言っても、音を気にしながらの侵攻は多いに苦労したことだろう。


 みんなが限界まで頑張ってくれたお陰で、全員が無事に生き延びれた。それが今回のすべてだと思う。


(生きてれば次がある。次を感張ればいい)


 そう自分に言い聞かせて、次なる計画に思いをはせた。


「ミリア。たしか、それなりの数の皿と服が準備できたと言っていたよな?

 どんな感じだ?」


「んー? 私が作ったお皿が250枚。ノアちゃんが作ってくれた服が50着あるわよー?」


「そんなに出来たのか!?」


「うん。みんな頑張ってくれたわー」


 俺が怪我を負って何も出来なかった間、ミリアとノアはクロエたちが採ってくる魔玉を使って、服や皿などの生活用品を作っていてくれた。

 その目的は、勇者国の活動資金を獲るためである。


 また、得たポイントを使って部屋数も増やしており、ダンジョンの部屋数は13個に増加していた。


 ほとんどが一本道なのは変わらないが、ようやくダンジョンと名乗っても良いくらいになったと思う。


「ここ1ヶ月で採れる食材も増えたし、本拠地もかなり大きくなった。

 これも皆のお陰だ」


 その間に俺は、寝ていること以外出来ていない。

 本気で仲間たちに感謝だ。


「これまでの疲れを癒すために明日は休息とし、明後日より作ったものを周辺の村へ売りに行くことにしたい。

 その際の護衛としてリアムたちも来てくれ。全員に今回の褒美としてすこしばかりのお金を与える。

 村は比較的安全だ。村の中での護衛は必要ないから、そのつもりでな」


「……お金、それに休息ですか?」


「あぁ、そうだ。明日は1日何もせずにゆっくりと……、いや、やっぱり、宴会にするか?

 ……そうだな。そうしよう。よし、明日は疲れを癒すために食事会にする。普段より豪華な食事を楽しもうじゃないか」


 俺のせいでみんなには迷惑をかけた。

 それになにより、みんなと騒ぎたい気分だった。


 そんな俺の発言に対して、真っ先に食いしん坊の目が光る。


「豪華な食事!? 何食べる? 厚切りステーキ? 味付け卵? 焼き魚?」


 ステーキは日本と同じなのでいいとして、焼き魚は海から遠いため高価である。

 味付け卵は、卵も調味料も高価なため、かなりの贅沢品だ。


 実は、3つの中で1番高いのが、味付け卵だったりする。


 ちなみに、醤油はないので塩漬けこんだものだ。


「そうだな。全部作ろうか。

 から揚げと蒲焼もな」


「ふゅ!! 全部!? いいの?」


「あぁ、いろんな種類がテーブルの上に並んでいたら、楽しいだろ?」


「うん!! お兄ちゃん、大好き」


 弾けんばかりの笑顔を見せるクロエの周りでは、そんな彼女を微笑ましそうに他のメンバーが眺めている。

 どうやら、反対する者はいないようだ。


 まぁ、誰かが反対したからと言って、今のクロエを止める事なんて出来ないと思うが……。


「うっし、話し合いは以上でいいよな?

 それじゃぁ、みんなで――」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」


 話が落ち着きを見せると思った矢先、アリスが俺の声を遮った。

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