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侵入者6

 自分が起こした爆発音に、耳がキーンとする。


 そういえば、耳栓をするの忘れてたな。

 せっかくノアに作ってもらったのにな……。


 ……あれ? 何で俺、手がこんなに震えてるんだ?

 敵を撃ったんだったか??


 撃ったんだよな。…………人を。


「うぐぅ、……」


 いや、違う、そうじゃない。落ち着け。


 あれは魔物だ。魔物なんだ。いつも狩りをしている魔物たちと一緒だ。


 吐いてる場合じゃないだろ。気を強く持て。


「スーーーー、ふーーー……」


 目を閉じて深い呼吸を心がける。

 ゆっくりと目を開き、岩の向こうの様子を視界に入れた。


「全員、武器を構えろ。長距離から攻撃されている。魔法反応を出来る限り追いかけてくれ」


 そんな叫び声と共に、魔物たちが周囲に目を配っている。


 俺の場所には気がついていないようだ。


(早く次の弾を装填しないと……)


 焦る気持ちが先行して、指先が震える。


(弾を入れるだけだろ!!)


「いってくれ!!!!」 


 言うことを聞かない体に活をいれ、叫びながら引き金を引く。


 部屋に2回目の爆発音が響き、鉄の塊が目標物に当たった。


 だがそれは、頭ではなく腹部。


「っち!!」


 思わず漏れた舌打ちをかき消すように、リーダー役の声が聞こえた。


「すぐに治療してやれ。魔力はすべて注いで構わない。

 ダビ、敵の場所は見えたか?」


「あぁ、あそこの岩陰に魔力の反応があった」 


 リーダーらしき魔物が口早に指示を出せば、回復担当の魔物が治療を始める。

 残る魔物たちが一斉にこちらを向いた。


 狙撃に驚いているうちにすべてを終わらせようと思っていたが、魔物たちもなかなかに知能が回るらしい。


「これ以上は無理か」


 悔しさを吐き出すようにつぶやきながら3発目の弾を装填し、敵に銃口を向けて立ち上がった。


 身を隠していた岩の側を離れて、敵の前へと躍り出る。


「なっ!!」


 魔物たちは俺の思惑通りに驚いた表情を浮かべて、俺だけに注意を向けてくれた。


 その隙を突いて、ミリアが弓を放つ。


(結局は作戦通りか……)


 俺が胸に広がる悔しさを感じている間に、回復担当の首に矢が刺さった。


 完璧なタイミングでの不意打ちであり、矢を見ることすら出来なかったと思う。 


(……アリス、ノア、頼んだ)


 そんな思いをこめて、彼女たちの側にいるカラスを羽ばたかせた。


 俺やミリアよりも敵に近い場所で待機していた2人が飛び出して行く。


 短剣と2本のナイフが魔物の首を切り裂いた。


「えーぃ!!」


「ごめんなさい。でも、攻めてきたおじさんたちが悪いんですよ??」


 返り血を避けて、2人が次なる獲物へと襲いかかる。


 ノアの短剣が敵の盾に受け止められ、クロエのナイフも敵の剣に止められた。


「オジサンたち強いですね。けど、手数は私達の方が多いですよ?」


「やぁっ!!」


 そんな些細なことは気にしないとばかりに、2人が軽やかに攻撃を続けていく。


「行きなさい、ロックスロウ」


「忠告はしてあげたのだから恨まないでくれると嬉しいよ」


 そんな2人の攻撃のすき間を縫って、2人の王女が魔法を放った。


 こぶしほどの石が宙を舞い、魔物の頭を狙う。


 様々な魔法を付与した魔玉が宙を舞った。


「残念だけど、私もいるのよー?」


 激しく動き回る2人を避けて、雨のように遠距離攻撃が飛ぶ。


 無論、短剣もナイフも、的確に魔物の急所を狙い続けていた。


(……みんな、さすがだな)


 誰の攻撃にも迷いがない。


 舞い踊るかのように戦うクロエとノアは、危なげなく前線を支えている。


 遠距離攻撃を行う仲間たちは、前衛2人の動きを予測しながら、的確な攻撃を続けていた。


(俺にはもったいない仲間たちだよな……)


 頼もしい仲間たちの姿に、なぜか胸が熱くなる。

 そして気が付けば、ずっと続いていた腕の震えがとまっていた。 


(みんなの戦っている姿を見て安心するなんてな……)


 場所が知られる前に俺が全員を倒してやる!! なんて、本気で思っていたはずだった。


(ほんと、腐った勇者だよ……)


 湧き上がってくる自嘲を奥歯でかみ殺して、十字の印を敵の頭にあわせた。




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