侵入者4
魔法兵士たちが、勇者のアジトに侵入してから2時間あまり。
「開くぞ?」
「あぁ」
入ってから4つ目になる扉を開き、周囲の様子を確かめながら中へと入った。
これまでに出てきた敵は、単調な攻撃しかしないモンスターだけ。
そのおかげでここまでに負傷者はいない。
だが、常に周囲を警戒するあまり、誰しもが疲労を感じていた。
「ここは特に岩が多いな……」
「不意打ちには気をつけろよ。ここまで進んだんだ、勇者までもう少しだろう」
「だな」
そうして疲れた体にムチを打ちながら中央まで進む。
部屋の中には天井まで到達するような大岩が重なり合い、魔法兵たちの視界を奪っていた。
全員が違いに背を向けながら、注意深く先へと進む。
そんな時、
――突然、大地を揺さぶるような爆音が響いた。
「っつ!! 何が起きた!? 周囲の状況を確認しっ!!」
リーダーの男が叫びながら周囲を見渡せば、最後尾の男が頭から血を吹き出して倒れていた。
彼の周囲には大量の血があふれ出し、小さな水溜りを作っている。
(どういうことだ? 何にやられた? 魔法を使える魔物でも出たか!? いや、勇者の可能性もある!!)
「全員、武器を構えろ。長距離から攻撃されている。魔法反応を出来る限り追いかけてくれ」
「了解っ!!」
現状を把握したリーダーが、最善だと思う指示を仲間に出していく。
動揺で動けなくなれば死ぬ。
仲間の死を悲しむのは、戦闘を終えた後。
いくつもの戦場を切り抜けてきた男たちの脳内には、そんな考え方が叩き込まれていた。
「っ!! ぅぐっ……」
だが、武器を構えて遠距離攻撃に注意を払っていても、防ぎきれない攻撃もある。
2回目の爆発音が聞こえたと同時に、索敵を得意とする者がその場にうずくまった。
どうやら腹に攻撃を受けたらしい。
即死ではないが、大量の血が流れ出していた。
「すぐに治療してやれ。魔力はすべて注いで構わない。
ダビ、敵の場所は見えたか?」
「あぁ、あそこの岩陰に魔力の反応があった」
そう言って指差したのは15メートルほど離れた大きな岩。
リーダーがそちらに目を向けると、まるで挑発でもするかのように、1人の少年が、その岩の陰から姿を現した。
(なんだ? こちらに姿を見せてどうするつもりだ? 手に持ってるのは杖には見えないが、あれで魔力を増強させて魔法を行使しているようだな。
あの魔法は連発出来ず、発動に時間がかかるタイプか)
「敵はあそこだ。次の魔法が飛んできる前に突っ込むぞ。
シュバル、お前はそのままそこで治療をつづっ――!!」
リーダーの号令で回復役以外の全員が敵に向けて突撃しようとした瞬間、回復役の喉に矢が突き刺さった。
少年の攻撃ではない。
どうやら違う場所に潜んでいる者がいたようだ。
(ちっ!! 魔術師をおとりにして弓兵を使うなど、非合理的なやつめ!! 勇者を名乗るなら頭の良い作戦を考えやがれ!!)
一般常識とはかけ離れた攻撃に、リーダーが脳内で怒鳴り散らす。
「敵は岩陰にこそこそ隠れて我らを迎え撃とうとしている。ならば、こちらも岩陰に居座り、敵が出てくるのを待つ――子供!?」
敵に聞かせる意味も込めて、出来る限りの大声で高らかに作戦を伝えれば、3メートルほど先にあった岩の陰から、2人の少女が飛び出してきた。
「ちっ!! 次から次へと!!」
迫り来る少女たちに視線を向けながらも、遠距離攻撃にも気を配る。
次々に襲い来る敵の攻撃に、魔法を詠唱する暇はなかった。




