侵入者2
ハルキの入浴中を狙ってサラが突撃していた、そんな頃。
洞窟の入り口に、魔法部隊の兵士が姿を見せた。
敵から見えにくくする魔法を発動しながら、ゆっくりと前に進む。
そして見えて来たのは、地下へと続く階段。
「入った直後に階段か。なんともまぁ、面倒なことで。
おい。どっちに進む?」
奥へ進む道。地下へと続く階段。
そのどちらを選んでも不吉な予感しかしなかった。
そうして立ち尽くしていれば、1人だけが前へと進み出る。
「古の神々よ、進むベき道を示したまえ」
淡々と刻む言葉に誰しもが固唾をのんだ。
満を持して、男が口を開く。
「洞窟の奥からは人の気配はない。人がいるのは階段のほうだ」
「決まりだな」
出て来た答えは、悩む必要なないもの。
だが、男の表情はかなり渋いように見えた。
「人と魔物の気配が入り乱れている。それなのに、戦闘の気配がない」
「……ってことはおめー、あれか? 人と魔物が共生してるとでも言うのか?」
「その可能性もある」
冗談のつもりが、返ってきた肯定の言葉。
そんな部下たちのやりとりに、リーダーの男が表情を引き締める。
「……了解した。慎重に進むとしよう。
すぐに脱出できる準備を整えておいてくれ」
「あいよ」
張り詰めた空気の中で、男たちが下へと下りていく。
その足取りは重たく、速度は一向に上がらない。
そんな中で見えてきたのは、左右への分かれ道。
「こんどは?」
「……ひだり、だな。右は直後に行き止まりだ。ひだりの方が奥が長い」
「了解した」
誰しもが表情をこわばらせて進んだサキに見えてきたのは、石で覆われた空間。
その先に、大きなニワトリがコケをついばんでいた。
長閑な風景に、思わず安堵の息が漏れる。
「なんだ、ニワトリかよ……。ってか、良いサイズだな」
「このサイズが市場に並んでいたら、客はさぞビックリするだろうな。
ここは食料庫か? いや、養殖じょ――っく!!」
気の抜けた会話を続けていると、コケから目を離したニワトリが、突然襲いかかってきた。
「ちっ!!」
慌てて盾を振りかざし、ニワトリのくちばしを防ぐ。
間一髪のタイミングに、男が冷や汗を流した。
「こいつ、勇者の配下か!!」
盾のすき間から剣を振り、ニワトリの首を跳ね上げる。
「アロー」「炎よ!!」
仲間たちが慌てて魔法を唱えれば、大量の攻撃をその身に浴びてニワトリが姿を消した。
その場には、なぜか肉の塊と大きな卵だけが残った。
「ふぅ……、悪いな。助かった」
額の汗を拭いながら、先頭にいた男がホッと息を吐く。
「いまのやつ、魔物か??」
「かもしれんな」
ただのニワトリにしては動きが良すぎた。
身の危険を感じるような攻撃に、残された肉と卵。
地上じゃお目にかかれない光景に、勇者の影がちらついて見えた。
「これも、勇者の影響ってわけか……」
そうつぶやきながら、行く先を見詰める。
そこには、顔が2つもある犬がこちらに向けて走ってきていた。
「次のお客さんらしいな」
そう漏らした男が、さっきのお返しとばかりに、炎の矢を打ち込んだ。
胴体に直撃して、犬の姿が消え去る。
「ここは魔物の巣窟なのだろう。周囲の岩さえも魔物の可能性がある。
目に見えるものはすべて敵だと思え。隊形はいつも通りだ」
うっす。などと口々に答えた男たちが、慣れた様子で隊列を組む。
そんな彼らに向けて、3匹の犬が姿を見せた。
「ッチ、次から次へと!! 犬なら犬らしく尻尾振ってれば良いんだよ!!」
前衛の3人が盾やナイフや剣などで牽制し、背後の男たちが詠唱を始める。
ひっきりなしに襲い来るモンスターたちに手を焼きながら、男たちが先へと進んだ。
そして部屋の端まで進んだ男たちの目に映ったのは、大きな立て看板。
『ようこそ、ボク達の城へ。キミ達を歓迎したいんだが、そこから先は秘密でいっぱいだ。
いままで進んできた空間で食料を得るなり、住み着くなり、戦闘を楽しむなりしてくれる分には構わないが、それ以上進むようなら、生きて帰る事が出来なくなると忠告させてもらうよ。
決めるのはキミ達だが、ボクとしてはすぐに帰ってくれるとうれしく思う』
そんな文字が躍っていた。
この先に勇者がいる可能性は高まったが、正直進みたくはない。
「どーしますかねぇ? 一応戦闘はしましたよね? 勇者の配下は魔物でした、その数はそこそこいました、ってことでどうでしょう?」
「俺もそうしたいんだが、さすがにそういうわけにもいかんだろ。
せめて、勇者の顔を見ました、くらいじゃないと、うえの連中は納得しねぇよ」
「ですよね……。進みますか……」
ふぅー……、とため息を吐き出した男たちが、さらに奥へと進んでいった。




