表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/117

侵入者

 クロエが風呂場に突入する1習慣ほど前のこと。


 王都にある酒場に、7人の男が集まっていた。


 彼らの前にはぬるいビールが注がれたジョッキが置かれているものの、飲もうとする者はいない。

 全員が何かに取り付かれたかの様に、テーブルの上に置かれた1枚の紙を見詰めていた。


「王印が押してあるってことは、拒否権なしの命令か?」


「あぁ、残念ながらな」


 彼らは全員が兵士。

 それも、魔法部隊に所属するエリート兵士だった。


 見詰める紙にはただ一言だけ、『勇者国の偵察を命じる』そう書かれていた。


「かーーーーー。マジかよ。ここって、あれだろ? 中隊が全滅したってうわさの場所だろ?」


「あぁ、そうだ。そこを見て来い、ってことらしい。偵察任務は得意だろ、と言われてな」


 リーダーを勤める男がため息を吐き出す。

 周囲からも批判の声がとんだ。


「しかもあれだぜ?? 殺人鬼の集団がいるとか、悪魔がいるとか聞いたぞ??」


「俺は奇跡の力をもらえる場所って聞いたけどな?」


「マジで行きたくねぇんだけど……」


 全員がお通夜のように顔を暗くし、自分の不幸を嘆いていた。


 そんな中で、リーダーの男が机を叩く。それを合図に、全員が顔を寄せた。


「その中隊だがな、全員が無傷で帰って来たって話しだ。

 上層部に聞いたから間違いない」


「はぁ? けど、うちの国が敗北したのは事実なんだろ? あれだけ堂々と宣戦布告されたわけだしな。

 なのに全員無事って、余計に意味わかんねぇよ」


「それも含めて見て来いって話しらしい。出来るならば勇者様の姿も拝んで来いってさ」


 さらなる不安要素に、男たちの顔が引きつった。


 だが、命令者は第2王子。行きたくないと駄々をこねても無駄だった。


「やるか、国に殺されるか、その2択か。やってらんねーな」


「そういうな。姿だけを見て、即座に帰宅だ」


「まぁな。敵を全滅させろって書いてないだけマシか」


「そういうことだ。準備を整え次第出発するぞ。まずは周囲の村に聞き込みを行なってから、敵本拠地に乗り込む」


「了解」


 そういうことになった。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 それから4日後。

 彼等は、ダンジョンがあると記された場所から程近い村で、勇者やダンジョンに関する情報を収集していた。


 しかし、その進捗状況は予想以上に悪い。


「……どういうことだ。なぜこんなにも軍を敵視している?」


 兵士であることを明かして、勇者の情報を求めれば、


『村から出てけ!! 2度と来るな!!』


 そんな言葉が返ってきた。


 軍に逆らえば、国への反逆とみなされる。

 

 国内での情報収集で手間取るなど、普通ならあり得ない話しだった。


「やつら、勇者って言葉を出しただけで目の色が変わるぜ。俺たちをよそ者だってわかってやがるしな。

 かーーーー、やってらんねぇ!!」


「酒場で聞こえてきた、勇者を褒め称える声が1番有力な情報って感じだな」


「あー、あれか。勇者様は我々に大量の肉をおわけくださった、ありがたやー、ありがたやー、ってやつな。

 敵をほめるなんてむかつくやつらだ、なんて思っていたが、そんな連中ばかりだぜ?」


「敵方の洗脳が進んでるってことか。これはいよいよもってまずいかもしれんな。

 俺たちに厄介ごとが振りかって来る前に出発するとしよう。敵地に乗り込む前に、ここの住民達と争うことになりかねん」


「だよなー。やつら、マジでやばい感じだったしよぉ。ほんとかどうかわかんねーが、入り口の土壁も勇者にもらったとか言ってたぜ??」


「土壁か……。ここはもう勇者の国なのかもしれん。明日、日の出と共に敵地を攻める。

 目的は敵の容姿を確認すること。それが出来次第、即座に撤退するから、そのつもりでな」


「あいよ」


 結局その日彼らが手に入れた情報は、勇者様マジすげー、と言う声ばかり。


 誰しもが不安を抱えながら、部屋の片隅で眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ