岩のある部屋
魔力を流出させてから5日。
空を飛ぶ大きなマリモを発見した日から、朝食前にみんなで魔物の増え具合をチェックすることが日課になっていた。
だが、その日いたのは、ノアとミリアだけ。
「……あれ? 他のやつらは?」
「あ、兄様。おはようございます。
えっと、皆は忙しいから、不参加だって言ってましたよ? 聞いてませんか?」
「あー、そういえば言ってたような、気がするな……」
嘘です。たったいま、初めて聞きました。
そんな俺のもとに、ミリアが歩み寄る。
「お姉ちゃんがいるから大丈夫よー。なにがあっても守るからねー」
「……了解。頼りにさせてもらうよ」
メイン戦力であるクロエもアリスもいないのは正直心もとないが、いざとなれば移動の魔玉で逃げれば良いか。ってことで、3人だけでダンジョンに突入することになった
日に日にモンスターの数は増えているが、すべて空飛ぶマリモだから大丈夫だろう。
あ、そうそう。マリモを倒したときにドロップした藻なんだが、お湯で茹でて塩で味を調えたら普通に美味しかった。イメージ的には、アオサのスープって感じだ。
味噌汁にして飲みたかったが、肝心の味噌がないので諦めざるを得なかった。
「うっし。いきますか」
「はーい」
気合いを入れた掛け声と共にカラスを2匹呼び寄せる。前後に配置してダンジョンに入った。
進むに連れて見えてくるのは、床が石に覆われた大きめの部屋。
そうは言っても、新しく石のある部屋を作ったわけではない。
「おっ? 今日も真ん中の石がすこしだけ大きくなった、……かな?」
「そうですか? うーん、変わってない気もしますよ??」
「おっきくなったわよー」
魔力を流した翌日。
マリモだけじゃヤバい、とダンジョンコアに相談したところ、障害物の設置を進められた。
今更発覚したことだが、従者として召喚するスライム達は、ダンジョン内での放し飼いが正しい使い方らしい。
部屋の中に入れておけば、モンスターが育ちやすい環境を整えてくれるのだとか。
そういうことならと、石スライムを購入して、部屋の中で放し飼いにした。
1番大きな石でも俺の腰くらいまでの高さしかないが、時間経過と共に石が大きくなっているため、そのうち、俺の身長を通り越し、天井まで到達するのではないかと思っている。
初期の頃の部屋と比べて物陰が多く、不意打ちなどの危険が増したが、ここを住みかとする魔物達にとっては暮らしやすい空間になったのだろう。
まぁ、俺にはカラスがいるから、障害物なんて関係ないんだけどな。
「うっし、やりますか。
ちょっとだけ意識を分散させるから、周囲の警戒よろしくな」
「はーい」
「任せてねー」
念の為に2人に声をかけて、合計8匹のカラスを動かして部屋の中を眺めていく。
宙を漂うものや、岩陰に潜むも、石に体当たりをし続けているもの。
部屋の中には、20匹のマリモの姿が見えた。
「今日も順調に増えてるな」
「あらー、良かったわねー」
「あー、うん。まぁな。こいつらがいれば、スープの具材には困らないしな」
苦笑をかみ殺しながら、ミリアの言葉に応えてやった。
昨日が16匹で、今日が20匹。魔物の数自体は着実に増えている。
だが、戦闘力のないマリモをいくら増やしたところで、兄達に対する防御力にはならないだろう。
(やっぱ、魔力の流出を200に引き上げようかな。それともあれか? 石スライムの数を増やすか??)
手持ちのスライムは、10匹の油スライムと普通のスライム。
ここに油スライムを導入しても良いのだが、油まみれのダンジョンにはどうにも抵抗があった。
(地下空間で火災とか、どう考えても全滅だろうしな)
そんなことを思いながらカラスを羽ばたかせていると、見慣れない生物が視界に映り込む。
マリモとは違う、真っ白な体。
思わずカラスの目で、二度見してしまった。
「新しい魔物を見つけた。場所は中央の岩陰。俺達から見て岩の真後ろにいる」
意図的に緊張感を交えて、声のトーンを下げる。
そんな俺の警告に、ノアの目が大きく開かれた。
「新種!? 強そうなんですか!?」
そんなノアの問いかけに対し、再び新しい魔物に目を向けるが、どうにも返答に困る。
「……あー、なんだ。強そう、……には、見えないな。
なんだろう、見た目には、クロエが喜びそうな感じだな」
「クロ姉様が喜ぶ? ってことは、食べ物系ですか?」
「あぁ。まぁ、確かめる必要があるし、接触してみるか。
それでいいよな?」
「はい」
「大丈夫よー」
そういうことになった。




