新人指導
兵士たちと仲良く食事してから一晩が過ぎた。
肉たっぷりスープとパンの炊き出しは好評だったらしく、
『勇者すげー、勇者やべー』
などといった声が漏れ聞こえてくる。
その中にはリア充爆発しろ系の賞賛もあるが、#勇者__おれ__#の評価は少なからず上がっていた。
『勇者国の国民になりたいです』
そう言ってくれる人もいたりする。
勇者国の出だしとしては、まずまずと言って良いだろう。
そんな状況下で、兵士たちの帰宅時間が迫っていた。
「お兄ちゃん。階段ってこの辺でいいの?」
「うーん、まぁ、大丈夫だろ。
どうせ、みんなに帰ってもらったら消去するんだしな」
「あーい。コアちゃん、お願いねー」
ここに住みたい、国民になりたい。
そう言われても、ダンジョンを造り始めたばかりの俺達には、養えるだけの能力などない。
肉は洞窟内の狩りがメインで、野菜の収穫は化け物退治。
安定供給とは、ほど遠い環境だった。
「勇者様。豚が何か言いたそうに暴れてます。口のロープを外しても?」
「……そうだな。外してやれ」
「くぅ……。平民のクズどもが!! こんなことをしてただで――」
「失礼しました。寝言のようです」
准男爵をはじめとする王国所属の兵たちは、縛り上げて王子が待つ王都の門前に放置する手はずになっていた。
後の処置は王子が勝手にしてくれるだろう。
「ほら、さっさと歩け。今死ぬか?」
「むぐぅ、む、ぅぐぅ……」
准男爵を先頭にして、兵士たちが出来たばかりの階段を上っていく。
縛られた者以外は、全員が見違えるような笑みを見せていた。
「勇者様にもらった肉は、我が家の家宝にして大切に保管します。一生の宝物です」
「あ、いえ、普通の肉なんで、普通に食べてください」
「ラジャー」
背負い袋に肉を詰めて、土魔法を付与した魔玉を持った兵士が笑う。
肉はごちそうで、土魔法があれば畑仕事が楽になる。
敗戦兵として村八分にされるどころか、これがあれば英雄になれると、誰しもが喜んでくれた。
「さてと、一通り終わったか」
名残惜しそうに帰って行った男たちを見送って、残ったメンバーに目を向ける。
3人の嫁と2人の妹。
そして、皮の防具を身に付けた5人の男たち。
身寄りがなく、留まることを決めた男たちだ。
「名前と得意な武器、それから得意な事を発表してくれるか?」
「「「イエッサー」」」
「左から順番な。よろしく」
「イエッサー。
自分は、リアムといいます。土木工兵を担当していたため、得意武器はありません。得意なことは土を掘ることです」
身長は高いが、ほっそりと痩せている。
どう見ても、栄養が不足していた。
「なるほどな。よし、次」
「イエッサー」
他の男たちも同じような状態だった。
年齢は15歳前後。
魔物が出る世界で、ひとりきり。
全員が日本では考えられないような苦労を重ねて来たのだろう。
「よし、お互いの得意な事はわかったな?
では、このメンバーを使った戦闘方法を考えてくれ」
「「「イエッサー」」」
全員が顔をつきあわせて、真剣に悩みだす。
真面目な好青年に見えるが、内戦の影響で職場を失ったと聞いた。
どの世界でも戦争のシワ寄せが行くのは、弱者である子供達なのだろう。
そんなことを思っていると、1番背の高い男が駆け寄ってきた。
「報告します。
前衛に盾と剣を持つ者を3人、後衛に弓を2人が良いと考えます」
基本に忠実に、ってことだろうな。
「よし、ならば、その隊形で訓練を行う。
クロエ、見てやってくれるか?」
「はーい。この人達を倒せばいいんだね?」
大きく手を挙げたクロエが、物騒なことを口にした。
本気でいってるように見える。
「……あー、あれだ。演習なんで、倒さず寸止めでお願いします」
「うん、わかったー。いくよー」
にっこりと笑ったクロエが地面を蹴った。
猛スピードで男たちに近付き、盾をかいくぐって、首筋にナイフを這わせる。
「油断しちゃダメなんだよ?」
恐怖からか、縦を持った男が膝から崩れ落ちた。
「ふたりめー、さんにんめー」
瞬く間に前衛が倒され、残る2人もあっけなくクロエに背後をとられていた。
「もっかいするよー。みんな立ってね」
「は、はい」「すいません」
俺のそばに戻ってきたクロエが、再び男たちに向かっていった。
そして呆気なく戦闘が終わる。
「盾の3人は、もうちょっとがんばってねー」
「はひっ」
「わたしに勝てるまで続けるね?」
「らっ、らじゃー」
果たして、この訓練は終わるのだろうか。
クロエが味方で良かった。
5人を相手に無双するクロエを見て、心の底からそう思った。




