手探りで進行中
勇者として建国の誓いを述べてから10分ほど。
控え室で気持ちを落ち着かせた俺は、整然と並んだ兵達の前へと戻った。
「戻って来られたぞ?」
「今の時間は何だったんだ?」
そんなささやきが聞こえるが、勇者らしくスルーだ。
サラとアリス曰わく、さっきの宣言は威厳が弱かったらしい。
その失敗を踏まえて、今回は強気で頑張ろうと思う。
栄養不足の人々を見渡して、大きく息を吸い込んだ。
「お前等ー!! 暖かい食事が食いたいかーーー!!」
「「「…………」」」
テレビで見たベテラン司会者のイメージ。
言葉だけだと弱いので、右腕を高々と振り上げてみた。
だが、そんな俺の渾身の叫びに、兵士たちはポカーンと口をあけていた。
「ごめんなさい。俺が問いかけたら、おーー!! って言って貰っても良いですか?」
「え? あ、はい。勿論です。申し訳ありませんでした。もう一度、お願い出来ますか?」
オホンとひと息いれて、呼吸を整える。
「わかりました。それではいきますよ」
兵士たちを見渡して、腕を空高く掲げた。
「お前等ー!! 暖かい食事が食いたいかーーーーー!!」
「ぉ、おーーー」
「声が小さいぞ。美味しい物が食いたいかーーー?」
「「「おーーーーー!!」」」
おぉー、意外に楽しいなこれ。
会場も盛り上がってるし、今回はバッチリだな。
なんて思ったのもつかの間、アリスが頭を抱えてため息を吐き出す姿が見えた。
(これも違うのか……。雄々しく、勇ましく、堂々と……)
そうか、威圧感が足りないのか!!
アリスも、力のない勇者なんて聞いたことないわよ、って言ってたしな。
よし!!
「お前等!! ここでの返事はイエッサーだ。わかったな?」
「「「…………」」」
「もう一度だけ聞く。わかったな?」
「「「イエッサー」」」
司会者風で慣れてくれたのか、今度は早めに順応してくれた。
……レンジャー、って言わせた方が良かったか?
まぁ、どっちだっていいよな。どう違うのかわかんないし。
「うむ。では、お前等に命令を与える。
1番左の列は、サラの指示で食料庫より肉を持ってこい」
「「「イエッサー」」」
「2列目と3列目はアリスの指示で、調理場を整えろ。
調理器具なんかは自前のやつを使え」
「「「イエッサー」」」
「残りの連中で戦闘が出来るやつは、クロエの指示で食料の確保。
戦闘が出来ないやつは、半分がノアの指示で調理。残りの半分がミリアの指示で寝床の作成だ。
全員、自分の担当はわかったな?」
「「「イエッサー」」」
「上官である彼女たちの返事には、イエスマムだから間違えるなよ。
本作戦の作業終了予定は、ひとはちまるまるとする。行動開始!!」
「「「イエッサー」」」
俺の言葉に従い、それぞれの担当者の後に続いて兵士たちが動き始めた。
(どう考えても、痩せすぎだよな)
細い腕に、細い足。
去っていく後ろ姿が小さく見える。
(全員を保護できればいいんだけど、現実じゃ無理だしな)
明日の朝にはそれぞれの村に帰ってもらう。
サラたちとの話し合いで、そう決めてあった。
(今日くらいはお腹いっぱいになるまで、食べてもらうかな)
それが今出来る、精一杯のことだった。
よし、美味しいものが出来るように頑張りますか。
そんな思いで立ち上がったが、進むべき先が見えない。
「おれ、どこの手伝いに行けばいいんだ?」
他人への指示は出したが、自分の身の置き場を忘れていた。
サラや兵士たちは作業を始めている。
「どなたか、勇者の手伝い要りませんかー?」
寂しさで小声になりながら、俺は部屋の中をさまよい始めた。




