演説をしよう
サラの演説から一夜が開けた日の早朝。
俺は攻め込んできた討伐隊を前に固まっていた。
「おぉー、本当に真っ黒な髪をお持ちだ」
「すっげー、マジ神々しくね?」
黒髪は勇者の証らしく、周囲の視線が俺の髪に集まる。
100人近くの視線を感じる。
帰ってもいいだろうか?
そんなことを思っていると、ほんの少しだけ騒がしくなった人々の前に、ノアが進み出た。
「勇者様にお手を触れないでくださいねー。慌てず騒がず、綺麗に並んでくださーい」
「はいはーい。並んで、並んで」
クロエも加わって、テキパキと指示を出していく。
気が付けば綺麗な隊列が出来ていた。
全員が直立不動で、俺の言葉を待っていた。
(やべえ。胃が痛い……)
緊張しないためには、観客を野菜だと思えって聞いたったかな。
こいつらはカボチャだ。
気にしない、気にしない。
「お兄ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。問題ないよ。かぼちゃに見られるくらい、どうってことないさ」
「んゅ? かぼちゃ? 煮付けにする?」
「……妙なこと言って悪かった。
俺のことは気にせず、周囲の警戒を続けてくれ」
「はーい」
クロエがスライムナイフを片手に周囲を警戒しているが、暴れまわるような者はいない。
つぶやくような言葉さえ消えていた。
「ダーリン。あんた専用の御立ち台が出来たわよ。
さっさと登りなさいよね」
「あぁ、了解した。ありがとう」
「ふん、別に、たいしたことはしてないわよ。
けど、そうね。頭くらいなでてもいいんじゃないかしら?」
「あいよ」
アリスの髪をなでたあとで、高くなった土の上にのぼった。
予想以上に高い。
全員が俺のこと見てる。
さすがにここで逃げたらダメだよな……。
勇者らしい言葉で、勇者らしい振る舞いで。
その一心でカボチャたちに視線を向けた。
「あー、本日はお忙しいところお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。
先の放送で御紹介に預かりました勇者をさせて頂いている者で、名前をハルキと申します。
以後、お見知りおきのほど、よろしくお願い申し上げます」
ふぅ、我ながら、完璧な名乗り上げだな。
……あれ? なんで、みんなポカーンとしちゃってんの?
方向性間違えた? いや、けど、俺、これ以外に初対面の人との話し方なんて知らねーよ?
もしかして、名刺の交換から始めなきゃいけなかったのか?
……まぁ、いい。大丈夫だ。俺は間違えてなどいない。
みんな感動してるだけだ。そうに違いない。
よし、このまま話を続けてしまおう。
「勇者国の建国と言うことで、私がその国の代表を務めることになったわけですが、先にはっきりと申し上げておきます。
私は完璧な人間ではありません。
私の持論になりますが、人は皆、得意な事、不得意の事を持ち合わせていると思っています。
私は、不得意な事はすべて人に任せます。なぜなら、その方が効率が良いからです。
誰にどんな仕事をまかせるかは、実力のみで判断します。
家柄、賄賂、容姿などは、評価に加味しません。
勇者国は、犯罪者以外の奴隷を認めず、子供達が自由に職業を選べ、自由に生きる国とします。
これで、私の宣言を終了します。ご清聴ありがとうございました」
深く頭を下げた俺は、すぐに視線でワープを要請した。
そして、いつものメンバーだけが控え室へと移動する。
「死ぬかと思った……」
とりあえず思いついたことを話したのだが、良かったのだろうか?
そんなことを思っていると、サラに頭をなでられた。
「予想より良かったと感じたよ。
初めての宣言にしては高評価だ」
どうやら本気でそう思っているようで、他のメンバーも笑顔だった。
兄妹で争うことになったサラやアリス。
奴隷として不自由な生活をさせられていたクロエ。
父の店を買い戻したいミリアとノア。
「とりあずはさっき言った通りの国にしたいと思う。それでいいか??」
「問題ないよ」「うん!!」「任せておきなさい」
「はーい」「がんばろー」
全員がそれぞれの言葉で同意してくれた。
討伐隊は無力化した。
兄たちの地盤もすこしだけ揺るがすことが出来た。
勇者国の滑り出しとしては、上々じゃないかと思っている。
この先何が起きるかわからないが、この仲間たちとなら、乗り越えられるようなきがした。




