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建国の波紋

 サラが建国宣言を行ってからしばらくした頃。

 城内の会議室に第2王子の笑い声が響いた。


「いいね、いいね。僕達を魔王の手先に仕立てるなんて、サラも大人になったねー。

 兄貴の失態も大々的に報じてくれたし、僕としては万々歳だよ。いやー、楽しい放送だったなー」


 彼の周囲では、緊急の会議だと聞かされて集まった部下たちが、戸惑った表情を浮かべている。

 

 一方的な建国宣言に怒り心頭だと思っていたが、そんな雰囲気は皆無だ。


「アルフレッド王子。第1王子派が魔玉の回収を行っていますが、我等も回収しますか?」


「ん? 回収? いや、いいよ。どうやったかは知らないけど、どうせサラでしょ。回収して分析しても、魔法が使われた痕跡がある、ってことくらいしかわからないと思うよ」


 豪華な肘掛けに寄りかかった第2王子アルフレッドが、楽しそうに身をよじらせる。


「それよりもさ。今回の失敗を追及して、兄貴から徴兵権を奪い取るよね?」


「はい、可能ではあります。ですが、大量の人でが必要です。勇者国なる集団は、放置ですか?」


「んー、勇者国ねぇ。どうせ、勇者って言っても偽者を祭り上げただけだろうから、あんまり興味ないんだよねー」


 んー……、と背伸びをして背もたれに寄りかかる。


「それにさー。付与と土で勇者を召喚するなんて、出来ないでしょ」


 そんな言葉と共にほんの少しだけ悩んだアルフレッドが、ポンと手をたたいた。


「あっ! 土人形に付与魔法をかけて、これが勇者です!! なんてやってんのかも!! うん、たぶんそうだよ。それはそれで面白い!!」


 無邪気な笑みを見せながら声を上げる。


 だが、それも長くは続かなかった。


「けどさー、妹達って遊んでても面白くないんだよね。張り合いがないというかさー。


 やっぱ、敵対するなら兄貴だよ。


 いやー、今回の出兵は驚いたね。まさか、王都の集団演習で僕の目を釘付けにして、その間に徴兵と出兵を行うなんてさー。

 やっぱり、遊ぶなら兄貴だね。君もそう思うでしょ?」


「……はぁ、……確かに今回の出兵には驚きましたが――」


「そうでしょ、そうでしょ。

 いやー、今回のことで徴兵権まで失った時に兄貴がどう動くのか、それが今からすっごく楽しみだよ。ワクワクするね」


 また始まったとばかりに、側近が肩をすくめた。


「…………わかりました。それでは、第1王子派から権力を奪うことに注力する、ということでよろしいですか?」


「うん、出来るだけ早くでよろしくー。

 あ、あと、ジュースのおかわりもよろしくー」


 深々と頭を下げた側近が、アルフレッドのそばを離れて行った。


 

 一方変わって第1王子の会議室では、ピリピリとした空気が場を支配していた。


「チッ、愚妹の分際で……。皆殺しにしてくれれば良いものを……。クソ。

 しかも何が勇者国だ。女の分際で粋がるなよ」


 怒りの原因は、サラの宣言だった。


 自分の失態が世間に知れ渡り、さらには宣戦布告までされたのだ。

 その心中が穏やかなはずがない。


 そんな彼のもとに、魔玉の回収を命じていた兵士が現れた。


「報告します。魔玉の回収率は3割を越え、順調な集まりを見せています。

 どうやら塩街道の路上で少女から購入した者が多く、その場所も敵の本拠地である洞窟に近い場所だったとの事です」


「……そうか、やはり、商人たちか……。

 そいつらは敵の戦力だ。拘束しろ」


 スバルの宣言に、周囲がざわついた。

 報告者である兵士が、驚きをあらわにする。


「魔玉を持っていた者、全員、で、ございますか?」


「あぁ、そう言っている」


 聞き返した部下に、スバルの鋭い視線が突き刺さった。


 額から汗が噴き出し、身が凍えるように震える。


「しっ、失礼しました。それでは作業にかかります」


「あぁ。……いや、少し待て。回収した魔玉の分析についての報告を受けてないんだが?」


「…………」


 運の悪い兵士は、更なる追求に冷や汗を流した。


 報告せよと言われた手前、言葉を濁すことなど出来ない。


「申し訳ありませんでした。報告させていただきます。

 分析についてなのですが、現在、魔法使い達の協力が得られず、作業は進んでおりません」


「……なに? どういうことだ」


 眉がつり上がり、目にさらなる怒りが宿った。


「分析を命じたところ、協力は出来ない、と返答されまして……」


「理由は?」


「先の出兵が原因だと……」


 顔を青くする兵士を睨みながら、スバルが肘掛けを握りしめた。


 豪華な椅子が壊れそうな音を立てる。


「ちっ、アルフレッドが手を回しやがったか。

 よくわかった。お前はもうここに来なくて良い。以上だ」


 兵士がなにかしらの言葉を紡ぐまえに、スバルが会議室から去っていった。


 残された側近たちが、顔を見合わせる。


「数日は顔を見せない方が良さそうだな」


「あぁ、そっとしておいて差し上げよう」


 小さな声に、全員がうなずいた。


 王子2人の権力が拮抗し、王都の混乱が加速して行く。

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