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建国宣言

 王都にある城中で、2人の男が顔を見合わせていた。


 彼らの背後にあるのは、城の貯蔵庫。


 その日が警備の当番だった。


「声がするよな?」


「あぁ、誰もいないはずなんだが……」


 耳をすませば女性の声が聞こえてくる。


 その出所は、明らかに扉の向こう側だ。


「どうする? 隊長に報告するか??」


「いや、やめておこう……。正直な話、中を見るのは怖いが、それ以上に隊長に報告するほうが怖い」


「だよな。……開けるぞ?」


 顔を見合わせて、男たちがうなずき合う。


 瞬時に駆け込んで、槍を構えた。


「…………は??」


 中に人影はない。


 そのかわりに、数個の魔玉が淡い光に包まれていた。


 その魔玉から、女性の声が聞こえてくる。


「話を繰り返させてもらうよ。 

 ボクは第4王女、付与のサラと呼ばれていた者だね。今日はお詫びと報告があるんだ。聞いてもらえるかい?」


 そんな言葉が2人の足を止めた。



 魔玉を扱うお店で、

 薬剤師のてもとで、

 露天の陳列で、

 果てはゴミ箱の中で。



 王都のいたる所で、同様の声が響いていた。


「結論から言うよ。第1王子と第2王子が魔の王に操られてしまったんだ。みんなの生活が苦しいのも、そのためだね。王家から魔のものを出してしまったことを深く謝罪するよ」


 王家を代表でもするかのようなサラの言葉に、王都全体が静まり返る。


 それは明確な敵対宣言。


 王家にすら敵対するような物言いに、誰しもが息を飲んだ。


「このまま兄たちを放置すれば、みんなが殺されることになる可能性が高いね。

 だけど、安心して欲しい。

 遠い世界の勇者が、ボクのもとに来てくれたんだ。

 彼はこの国の人々を救うと約束してくれたよ」


 それはあまりにも混沌無形な、おとぎ話。


 それよりも次に続く言葉が重要だった。


「第1王子が差し向けた討伐隊は、1人の血も流さずに無力化したよ。全員をこちらで保護してあるから、安心してほしい」


 聞こえてきたのは、勇者側の勝利を伝えるもの。


 逃げ出した王女を捕まえる、ただそれだけの作戦だと聞かされていた一般市民たちから、動揺の声が漏れ出した。


「静まれー!! これは敵の虚言だ!! 惑わされるな!!」


 第1王子スバルを指示する兵士たちが声を上げる中で、サラが言葉を続ける。


 槍で突こうが、剣で切ろうが、火であぶろうが、魔玉は壊れなかった。


「苦しい生活を終わらせたいと思う者は、ボクたちのもとに集まって欲しい。

 勇者ハルキを筆頭に、その妹である聖剣のクロエ、第4王女サラ、第5王女アリスが、キミたちを受け入れるよ」


「アリス様が??」「おい、アリス様だってよ」「王女が2人も……」


 王都が再びざわめいた。


 人々が静まるのを待ってから、魔玉が再び光り出す。


「初代の勇者が建国してくれたボクたちの国は、進み方を間違えた。ボクたちはここに勇者国を建国し、王国との敵対を宣言するよ」


 開戦の火蓋はすでに切られている。


 王位を巡る小競り合いが、明確な戦争に発展した。


 群衆が表情に影を落とす。


 その心の中には、ほんの少しだけ、今の生活から脱却出来るのではないかという淡い期待が芽生えていた。




 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 カラスを通じてサラの演説を聞いた俺は、思わず頭を抱えた。


「なぁ、サラ。長男の失策を国民に知らせる、って話だったよな?

 なにがどうして建国宣言になったんだ? 

 作った国のトップがどぉーも俺っぽかったんだが、気のせいか?」


 それがサラの宣言を聞いた俺の素直な感想だった。


 軽く首をかしげたサラが、意外そうな表情を見せる。


「そうだったかい? てっきり、キミにも伝えていたものだと思っていたよ。

 だけど、キミは今まで通りでいいんだ。気にすることはないはずだね」


 そうだったかい? って、どうかんがえても確信犯だろ……。


 まぁ確かに、サラやアリスがトップで建国を宣言しても、国民は納得しないだろうし。

 国対個人より、国対国の構図の方が良い気はするけどさ。


「宣戦布告までしてたけど、本当に大丈夫なのか?」


「自信はあるよ。これで第1王子の失敗を第2王子が知った事だし、どちらもにらみ合いになるさ。ボクたちが宣戦布告をしたおかげで余計にね。その間にボク達は力を蓄える事が出来るというわけだよ」


「またお得意の占いか?」


「いや、今回は幼い頃から兄達を知っている妹としての言葉だよ。

 こんな状況に成ってしまってで悪いんだけど、今まで通り、ボクを助けてはくれないかな?」


 ほんの少しだけおびえたような表情を見せたサラが、右手を伸ばしてくる。


 真っ白な、きれいな手。


 その手をしっかりと握り返してやった。


「わかったよ。どうせお飾りだしな。なんでも命令してくれや」


「ありがとう。感謝するよ」


 初めて会った時よりも輝いた笑みが帰ってくる。


 嫁が3人。妹が2人。


 ぐだぐたな異世界生活だが、日本にいたときよりも格段に幸せだからな。


 こうして俺は、6人しかいない国の王になった。

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