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カリっとジューシー

 姉を落ち着かせるため退出した姉妹が、俺の前へと戻ってきた。


 顔に浮かぶ緊張の色は、少しだけ良くなっているように見える。


「もういいのか?」


「はいー。先ほどは申し訳ありませんでしたー。商人をしています、ミリアですー」


「妹のノアです」


 ぎこちないながらも、姉妹が揃って綺麗なお辞儀をしてくれた。


 色々と爆弾発言を繰り返した姉のミリアだったが、落ち着いてくれたようだ。


「勇者の春樹だ。日本という世界からこの国を救うためにやってきた。王女2人を嫁にしているのがその証拠だ。実りある交渉になることを期待する」


 出来るだけ偉そうに、立派に見えるように。

 それだけを心がけて言葉を続ける。


 サラの兄たちと戦っていること。対抗するために資金が欲しいこと。


 きびしい現状を伝えれば、姉妹の顔に笑みが浮かんだ。


「そういうことでしたらお任せくださいー。勇者様のお力になれるのなら幸せですー」


 報酬や条件を話す前に了承されてしまった。


 姉妹が揃って気合いの入った良い表情を浮かべている。


「本当にいいのか? 死ぬかも知れないんだぞ??」


 あまりにも気安い雰囲気に、疑問の言葉が出てしまった。


 そんな俺の質問にも、妹のノアが大丈夫!! とばかりに胸を張る。


「ドラゴンの巣に宝あり。ここで引くなんて商人じゃありませんよ」


 聞けば親を失い、店も失った彼女たちにもとっても、この話は渡りに船だったそうだ。


 そうして話しが決まりかけていた時に、それまで沈黙を保っていたサラが、不意に口を開いた。


「報酬の話しなんだけどね。ミリアが側室にして欲しいって言ってたけど、それは本心かい?」


「はいー。勇者様の愛人になれるのなら幸せですー」


 悩む素振りすら見せずに、姉のミリアがうなずいた。


 サラが、満足げにうなずく。


「了解したよ。報酬はお抱え商人の地位と、勇者の嫁でどうだろうか?」


「いいんですかー??」「い゛!?」


 思わず声を漏らしてしまった俺に向けて、サラがウインクをして見せた。


 ちょっと黙ってろ、ってことだと思う。


「アリス、クロエ。良いだろうか?」


「えぇ、問題ないわ」「大丈夫だよ」


「ありがとうございますー」


 口を挟む暇もなく、話しがまとまったようだ。

 まぁ、地位以外に渡せるものもないし、良いんだけどさ。


 ってな訳で、嫁が3人に増えて、義妹が出来ました。


 これあれか? あいつ、嫁が3人とかマジ勇者だなー、的なやつですか?

 勇者、勇者、って言われてたけど、もしかしてバカにされてた!?


 いやいや、俺の仲間はみんな優しい子だし、そんなことあるはずないか。……ないよな??


 そんなことを思っている間に、話し合いが進められた。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 応接室での交渉が終わり、親睦会を兼ねて食事会をする。


「お兄ちゃん、全部運び終わったよー」 


「あぁ、ありがとう」


 料理はいつも通りクロエに担当してもらった。


 生ハムのサラダにイノシシのステーキ、オオカミのから揚げなどが、机の上に並ぶ。


 肉たっぷりなのはクロエだから仕方がない。


「それじゃぁ、食べようか。あまり豪華とは言えないが、ミリアとノアも遠慮せずに食べてくれ」


「ありがとねー、……ハ、ハルくん」


「ありがとう、兄様」


 一応、俺が主催者で、立場が1番高いとのことなので、開始の音頭をとった。


 商人の姉妹は、


『嫁と妹になったんだから、敬語はやめなさいよね』


 とアリスから言われ、ハルくんと兄様呼びだ。


「……うん、うまいな」


 この世界では地位の高い者が最初に料理を食べるのがマナーらしいので、本日のメインである狼のから揚げを口に入れる。


 商人姉妹から買い取ったスパイスで味付けされた狼は、ご飯がやビールが欲しくなる味だった。


 欲を言えば、塩味より醤油をしっかりと染み込ませたものが良かったのだが、醤油がないのだから仕方がない。


「さすがクロエだ。ありがとな」


「えへへー、……あむ、……んいひーー」


 俺に続いてから揚げを頬張ったクロエは、相変わらずの笑顔で頬をパンパンにしている。


「初めて食べたけどー、サクサクで美味しいわねー」


「うん!! なんか、すっごい高い味って感じがする!!」


 どうやら商人姉妹にも好評のようだ。


 ちなみに、小麦粉は畑でクロエがバトル。

 油は1000Pを使って油スライムを召喚し、油スライムに作って貰いました。


 そうして和気あいあいとした食事が進む中、不意にノアの表情が曇った。


「あ、そういえば、兄様達を捕らえるための兵が募集されてたけど、大丈夫なの?」


「…………あぁ、……もちろん、大丈夫だとも。

 迎え撃つだけの準備は着実に進行しているよ。

 …………ちなみにだが、決行日は何時頃だかわかるか?」


「えっと、たしか、集まり次第決行予定って話だったかな」


 ……いや、そんな話聞いてないぞ。


「……ノアは、それを何処で聞いたんだ?」


「生まれた村だよ」


 なるほど、40羽のカラスを王都に派遣していたが、それ以外の町は盲点だった。


 それから、30分。


 洞窟で待機させていたカラスを飛ばして周囲の状況を確認したところ、周辺で1番大きな町に、槍や弓を持ち、訓練に励む集団を見つけた。


 彼らの話を盗み聞きした結果、出発は3日後。

 数は100人。


 俺達の戦力は、クロエとアリス。魔物がスライムと油スライムのみ。

 ノアもミリアも自衛程度の戦力らしい。


 王都の兄達に変わった動きがないからって、完全に油断してた。


 …………どうしよう。 

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