ダンジョンを作ろう 2
「コアちゃん、ポイントって、いまあったりするの?」
「多いとは言えないんすが、ちょっとくらいならあるっす。
最近は、皆様の近くで過ごしてきたっすから、その間のポイントが溜まってるっす」
問題はなさそうだな。
それじゃぁ、ダンジョンを作成しようか。
「クロエ、とりあえずは入口の階段から作ってみるか」
「うん、そうしよっか。……えっと、ここでいいよね?
それじゃぁ、コアちゃん、お願いね」
「うっす、了解っす」
クロエが洞窟の中央に移動し、ダンジョンコアに指示を出す。
指示を受けたダンジョンコアが淡く光りを放ったかと思えば、辺りの土がもこもこと動き出した。
なんだか、アリスの土魔法に近いな。
なんて思って見ていると、蟻地獄の様に土や石が地面深くへと流れ落ちて行く。
人が5人ほど並んで通れる大きさになった所で、ダンジョンコアの光りが消えた。
「できたっす」
「うん、ありがとね」
出来立てホヤホヤのダンジョン入口は、緩やかな傾斜の階段なっていて、足元は石で舗装されていた。
壁はコンクリートのような素材で覆われており、なかなか頑丈そうに見える。
とりあえず、崩れる心配はなさそうなので、ダンジョンコアを持つクロエを先頭に階段を下りる。
程なくして、少しばかり広い空間にたどり着いた。
「サラ、なるべく小さな炎で、この辺全体を明るく出来るか?」
「可能だよ」
地下なので酸素の心配もあったが、光を灯さない訳にもいかない。
俺が檻の中で見せてもらった程度の炎が、サラの指先から飛んで行き、天井付近を舞う。
その炎の数が5個を超えるほど増えたところで、ようやく周囲の状況がわかってきた。
どうやら、ここは部屋のような場所らしい。
大きさは、1人暮らしのアパートには少しばかり大きい程度といったところか。
地面は階段同様、石が整然と並べられ、壁や天井もコンクリート素材で舗装されている。
部屋の中央には、石で出来た台座のようなものがあるだけで、他には何もなかった。
「オーナー様、自分をあそこの石に乗せて欲しいっす」
「うん、わかったよ」
クロエがダンジョンコアの指示に従いって、石で出来た台座のようなものに歩み寄る。
「クロエ、ちょっと待ってくれるか?」
その手を俺が掴んだ。
不思議そうか表情を浮かべて、クロエが振り返る。
「…お兄ちゃん? どうしたの?」
「その役目は、俺に任せてくれないか?
誰が乗せても問題ないんだよな?」
「はいっす。お仲間様でも問題はないっす」
「んゅー?
いいけど、なんで?」
「なんとなくだよ、なんとなく。
なんか、こういうのは、勇者として俺がやっとかなきゃなー、って思うんだよ。
クロエもそう思わないか?」
「そうなのかな? うーん。…………まぁ、いいや。お兄ちゃんがそういうのなら間違ってないと思うし、任せてあげる。
はい、お兄ちゃん」
そういって、クロエがダンジョンコアを手渡してくれた。
ダンジョンコアは、サラ自身が城からくすねて来たものだ。
正直な話し、信用なんてあるはずもない。
ゲームや小説なんかじゃ、魔王の手先として描かれることも多いしな。
台座に乗せるなんて怪しいイベント。
用心するに越したことはないだろう。
兄は妹を守るべき存在だしな。
いや、まぁ、実際に何か厄介ごとが起きた場合、俺がクロエに助けてもらう可能性が極めて高いんだけど。
そこはあれだよ。
気持ちの問題ってやつだ。
「それじゃ、のせるぞ?」
「はいっす」
念のために仲間に向けて声かけた後で、腕を伸ばす。
入念に注意を払って手を離した瞬間に、バックステップで台座から距離をとった。
「くっ!!」
一瞬にして、魔方陣が地面に描き出される。
台座やダンジョンコアが、淡い光りを放ちはじめた。
(やっぱり罠か!!)
後方に飛ぶようにして、さらに距離をかせぐ。
そんな俺の行動に対して、予期せぬ言葉が飛んできた。
「さすが勇者っす。その調子でもう少しだけ、距離をとってほしいっす」
「…………あぁ、了解した」
ダンジョンコアが豹変し、俺達を襲ってくるかも。
なんて思っての行動だったのだが、疑った相手に褒められてしまった。
俺の身を案じてるかのような声までかけられた。
なんとも釈然としない思いを抱えながら、さらに離れる。
「その辺で大丈夫っす。
自分は今からここの地形にアクセスして、管理コアになるっす。その際にこの台座周辺の環境が変化するっすから、絶対に近づかないで欲しいっす。それと、出来る限りでいいんすが、その場を動かないでもらえるとありがたいっす。
危険はないんすが、強い光りが出るっすから、目を閉じておいて欲しいっす。いいっすね?」
俺達と敵対するつもりなら、距離を稼ぐ時間を与えずに魔法を発動しているはずだな。
喋り口調も雰囲気も変わってないところを考えると、ダンジョンコアの指示にしたがっても大丈夫そうか?
「あぁ、そっちも了解したよ。
アリス、わかったか?」
「はぁ? 何でアリスにだけ声をかけるのよ。
動かなければいいのと、光るから気を付ければんでしょ?
わかってるわよ、失礼ね!!」
今回はアリスでもわかったらしい。
「それじゃぁ、やるっすね。
それと、今後、自分の声はオーナー様以外に聞こえなくなるっすから、そのつもりでお願いするっす」
「は? いや、ちょっとま――クッ」
思わず目を見開いてダンジョンコアの方を見たが、視界は強い光りでかき消された。
それから少しばかりの時間が経過し、次第にまぶたの裏に感じる光りが収まっていった。
ゆっくりと時間をかけて目を開けば、アクリルケースで覆われた石の台座と、その中に鎮座するダンジョンコアの姿が見て取れた。
台座の足元からは、数百本もの電気の線らしき物が生えている。
その行く先は、地面の中や壁、天井。
階段から台座までの道らしき部分以外を所狭しと走っていた。
「……アクセスとやらは終わったのか?」
そう小さくつぶやけば、
「終わったって言ってるよ」
とクロエから返事が来た。
洞窟からこの部屋に来るまでの間だけだったが、ずっと、っす、っす、と話していた声は聞こえてこない。
最後に聞いた言葉通りなら、俺がその声を聞くことはもうないのだろう。
少しだけ苦い思いを感じながら、ダンジョン制作の準備が終わった。




