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前世は人間です。…たぶん。

我輩は召喚獣である。名前はまだない。


…はい、ごめんなさい。調子に乗りました。我輩なんてキャラじゃないです。

でも私が召喚獣なのも、名前がないのも本当なんです。


改めましてこんにちは。

何度も言うようですが、召喚獣です。…しつこいって声が聞こえてきそうですが、名前もないし自己紹介したくても自分のことがこれぐらいしかわからないんですよぅ。

え?そんなはずないだろうって?

いやいやこれが本当なんです。おそろしいことに。


私は元々人間でした。いや、元々っていうと語弊がありますね。

前世は人間でした。

そう、人間として幸せに暮らしていたーーような気がするんです。

始末の悪いことに、人間だったことは確かなんですが、その記憶がほとんどないんです。たぶん女だったような…?

そしてどうやら私は死に、生まれ変わったようなんです。

おそらく死んだときのショックで記憶がふっとんだんでしょう。ええ、そうに決まってます。

気がついたらこうして、ぷにっぷにの肉球を堪能する日々です。


「もぅやめてよぉ。僕の足はおもちゃじゃないよぅ」


そして今日も今日とて肉球ぷにぷにに勤しんでいたのですが…。


肉球の持ち主から悲鳴があがりました。おっと、これはぷにぷにしすぎましたかね。

私の下にはうるうるの上目遣いでこちらを見上げる仔猫のような動物が。…いやんっ!そんな目で見ないで!土下座して許しを請いたくなっちゃう!!

ーー ん で す が ぁ。

ここで甘い顔をしてはいけません。謝るなんて言語道断。

ここはジャイアンになりきっていきましょう。…って、あれ?ジャイアンって誰?…まあいっか。

それより今は肉球の確保が喫緊の最優先課題です!


「いいじゃーん。別に減るもんじゃないんだしぃ」


ふてぶてしくそう言ってのけたら、私に馬乗りにされている彼はぐすんぐすんとすすり泣き始めました。

泣いてるところもか〜わ〜い〜い〜と今すぐなでくりまわしたいところですが、ここはぐっと我慢です。


「男なら泣くんじゃない!シャキッとしなさい!」


私が声を荒げると、彼はすぐさま口を閉じて姿勢を正しました。うむ、日頃のしつけの賜物ですな。

涙をこらえるところもとろけるくらいかわいいのですが、私はあえてそんな彼を睨みつけます。

これも彼を一人前にするため!くぅうっ、辛い役目です!


「よし、これで今度狙われても追い返せるな」


はい。そうなんです。彼は狙われているんです。誰にって?

それは…ずる賢くて残酷なワイバーンたちです!!

…えっ、やだなぁ、私は狙ってなんかないですってははは…。


と、とにかくですね。

言い忘れましたが、私たちは産まれたての赤ちゃんです。バブバブこそ言いませんが、正真正銘一人じゃなにも出来ないか弱い赤ちゃんなのです。

ワイバーンはずる賢くて残酷と言いましたが、彼らも生きるのに必死なのでしょう。飢ている目の前に抵抗力のない栄養源のかたまりがいたら、そりゃ誰だってつまみ食いの一つもしたくなります。現実はつまみ食いどころか骨も残さずですけど。

自分のことながらたちがなんという生き物なのかわかりませんが、目の前の彼がおそらく私とそっくりな見た目をしていて、そしてとても美味しそうだということはわかります。

もう本当に噛みついちゃいたいです。


「いたっ!? な、なにするの?」


あら、噛みつきたいと思っていたら本当に噛みついちゃいました。もちろん甘噛みですが、彼を驚かせてしまったようです。


「……ワイバーンに襲われたときの練習!」

「わ、わいばぁん? アレわぃばぁんって言うの?」


とっさに誤魔化せば、彼は思わぬところに食いつきました。よかった、噛みついたことはなんとかうやむやになったようです。彼がおばか…げふんげふん、素直な子で本当によかったです。あぁもぅ、かわいいなぁ!


「ねぇ、わぃばぁん?」

「ん? う、うん。あの怪物はワイバーンって言うんだよ」


嘘です。わかりません。

わからないので、便宜上ワイバーンと呼んでいるだけです。

ヤツらは灰色で毛のない骨ばった体に、ぎょろぎょろとした黄色の目をしています。前世でいうドラゴンのような体ですが、そこまで大きくはないようです。初めて見た瞬間「ワイバーンだ!!」と直感的に思ったんですが、本当はなんていう生き物なんでしょうね?

ところで、前世ではあんな背中に羽の生えた爬虫類みたいな生物はいなかった気がするのですが…ここはどこなのでしょうか。


とりあえず、召喚獣に転生しましたが毎日は快適です。主に泣き虫癒し系の兄弟のおかげで。

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