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侍女のルリに、紅茶を持ってくるように指示する。
ルリは猫耳の獣人だ。
薄茶色の髪の毛と黒い三角の耳、瞳の色は、クルクル色を変える緑がかった茶色。その色合いが、三毛猫を思わせる。
以前の遠征の時に、獣人の村が襲われ一人生き残った幼いルリを侍女として引き取った。
彼女はとても賢くて、良く働く。何より、猫耳メイドが至高。
人族至上主義のこの国で、私が獣人を侍女や護衛にしていることで陰でいろいろ言われているのは知っている。
ルリも侍女をしていることで辛い思いをしているに違いない。
「――――ねえ、ルリ。私と一緒に来てくれる?」
「当たり前です。姫様がいらないと言ってもついていきますよ?」
本当は、一人で行くべきなのかもしれない。
私の近くにいたら、断罪に巻き込まれてしまうかも。
でも、一人は寂しい。
そろりとルリが近づいてきて、その尻尾が私の手に触れる。
「またそんな顔して。大丈夫です。私は、何があろうと姫様の味方です」
「ありがとう……。さ、使者殿を待たせてはいけないわね」
扉を開くと、使者さんが耳をぺたんとして、緊張のせいか尻尾をぴんと立てて待っていた。
――――犬耳が最高なんですが。
「砂漠の国に連れて行ってくれますか」
「え? 本気で婚約を受けるとおっしゃるのですか。シエラ姫殿下」
「……そのためにあなたは、ここに来たのではないの?」
「――――いや、ダメもとというか」
なにか、ごにょごにょ言っている犬耳の使者さん。
一時の気の迷いで決めたわけではない。それをうまく人に伝えることはできないけれど。
聖女の力を磨いてきた。ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた瞬間から、聖女の力を最大限に生かすことができるよう動いてきた。
そして、私のシナリオ離脱計画の第一候補が砂漠の王子様だった。
砂漠の王子様は冷酷だと言う噂があったけれど、使者の人選を見る限りそれもなさそう。
私の迷いはなくなった。犬耳と尻尾最高。
それに、獣人を使者にするくらい大切にする人なら、私の野望も理解してくれるはず。
獣人も人も一緒に楽しく暮らせる国。
その国は、きっと楽園のように、たのしいだろう。
「連れて行ってほしいです。私の婚約者(仮)のいる砂漠の国に」
それにしても、使者さんの礼儀作法が完璧だ。立居振舞からして、とても強い。
間違いない、魔獣討伐に数多く参加して強い人を見てきたけれど、アダム隊長と同じくらい強いかもしれない。
懸念していることはそれでもある。
それは、砂漠の国の王子様が、あえて獣人を使者にした理由だ。
もしかして、砂漠の国はあえて獣人を使者にすることで……。
もしも、生まれ変わる前の第三王女シエラ・グリフィスだったら、間違いなく、使者の命はない。
そうなれば、グリフィス王国から離反する正当な理由ができる。その可能性は、ゼロではない。いや、どちらかというと高いのかもしれない。
心に少しの引っ掛かりを感じながらも、私は使者さんの手を取った。その手は、鍛えられて思ったよりもゴツゴツしていた。
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