2-43
「マリエッタ、いい加減にしないか。今日は非公式の場での顔合わせとはいえあまりにもお客人を前に無礼な振る舞いは見過ごせない。いい加減に理解しろ」
オリアクスの言葉を受けて口を噤んでしまったマリエッタさんに、フォルカスが大きなため息を吐いてから言葉をかける。
それは兄としての注意なんだろうけれど、結構、こう、手厳しいな?
でもまあさすがに私もびっくりして黙る勢いだからね、お転婆とかそういうレベルを超えてるわあ。
彼女を見ているとね、こう、うちのイザベラが素晴らしい淑女だよなあって改めて思うし、なんだったらエミリアさんの方がまだ良かったんじゃないか。
なんせ彼女は元が平民だったからしょうがないよねって感じがするし。
でもマリエッタさんは生粋のお姫様なんだからさあ……もうちょい、こうね?
マリエッタさんの隣に座っているアリエッタさんを見ると、教育とか躾とかそういう問題ではないと思われるのがなんとも切ない。
これはフォルカスのせいじゃないよ、うん。
「お兄様……! わたくしは、お兄様のことを思って言っているのですわ!!」
「それが余計なお世話だというんだ。お前にはお前の婚約者がいるだろう」
「た、確かにいますわ。でも政略結婚ですし……いいえ、わたくしのことではなく、お兄様の……」
「私は王家に代々伝わるしきたりに従って王位継承権を返上し、冒険者となった。家族の縁を切ったわけではないし、女王の息子であることもまた事実」
「そ、そうですわ! お兄様は誇り高きフェザレニアの王子で……」
「女王の息子、そう認知されているが私が王家を出た身であることも事実だ。私が誰と縁を結ぼうと、家族ならば幸せを願ってくれても良いのではないか」
すっぱりと妹からの言葉を拒絶したフォルカスに、泣きそうな顔をするマリエッタさん。
傍から見ると虐めているように見えなくもないが、彼女が癇癪を起こしているだけだから……癇癪っていうか、言いがかりっていうか?
(もし私が前世ブラコンだったとして、弟が連れて来たカノジョに嫉妬したらこうなったんだろうか?)
意味もなくそんなことを思ってみるが、……ないな。
そもそも弟がカノジョが遊びに来てるって笑顔で紹介してくれた時、アイツが用意したおやつが焼き芋だったっていうのに衝撃受けて思わず『コイツでいいの!? なんかごめんね!?』って全身全霊で謝った気がする。
……あの時のカノジョさんがそのままアイツのお嫁さんになってくれてたらいいなあ……。
ちょっぴり、おねえちゃん、弟のことが心配です。
いや、今は思い出に耽っている場合ではなかった。
隣にいる、可愛い妹を守るためのあれこれを知るためにここにいるってことを忘れてないよ!
勿論、フォルカスの家族と顔合わせしてるってこともわかってますとも。
わかって……わかってるけど、私まだ碌に会話してないね。いいのか、こんなんで。
私は! 困らないけどな!!
「それよりもお前に聞きたいことがある。家族全員、知っておくべき話だ」
フォルカスの言葉に、緊張が走った。
事情を知る女王様と、この話し合いで何かがあるということだけを知るアレッサンドロくんが不安そうな表情を垣間見せたけれど、彼らは何も言わなかった。
「お前は、幼い頃言っていたな。自分は転生者であると」
そこまで口にして、フォルカスは口を閉ざし……一度目を閉じた。
本当は、彼だって聞くのが怖いのかもしれない。
でも、次に目を開けた時にフォルカスに躊躇う様子は見えなかった。
「幼いゆえの戯れ言と思っていたが、改めて問う。それは、本当の話なのか」




