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あれから。
私たちは周囲の目もあってフォルカスの弟だというアレッサンドロを連れて町を出た。
元々フォルカスが待ち合わせしていたのも彼だというのである意味納得だ。
なんでも、流石に直接妹さんに番である私を見つけたと紹介するのは悪手だと考えたらしく、妹の近況を聞くために落ち合ったんだそうだ。
ホントもう、ゆっくりする時間をくれよ!
それはともかく。
フォルカスは大変な怒りっぷりで、こうして町を出て近くの草原で野営するための準備をして、いざ話を……と思ったんだけどアレッサンドロくんは地面に正座させられてフォルカスに説教されることすでに三十分くらい経っているんじゃなかろうか。
「姉様、炒め終わりましたわ」
「あっ、じゃあエビ取り出してくれる?」
私たちが口を挟む隙がないっていうか、まあ反省はしてもらいたいことが多々あるのでお任せしている状態である。
とはいえ、暇だったので折角市場でお買い物もしたし、美味しい料理を作ろうと思い至ったのだ。
何を作るかって?
ジャンバラヤだ!!
いやあ、天気の良い日に草原のど真ん中でジャンバラヤ!
最高じゃないの。
トマトもパプリカもタマネギも、美味しそうなソーセージに鶏肉も大ぶりのエビも手に入っちゃったもんだからさ!
私のために怒ってくれた可愛い英雄、我が妹イザベラを称えてごちそうを作るのは当たり前なのである!!
「ほうほう、良い香りだねえ」
「オリアクスはソーセージつまみ食いしないでよ、ちゃんと後で盛り付けてあげるから」
「ふふ、楽しみにしているよ」
ちなみにジャンバラヤにトマトが入っている方が好きなので、私の独断と偏見で入れさせてもらった。
美味しく出来上がれば良いのだ!!
イザベラが炒めてくれた具材に水と香草一緒に投入してから、私は空間収納の中からお手製のブイヨンキューブを取り出して放り込んで味を調える。
流石にコンソメキューブみたいなものはこの世界に売ってなくてね、ブイヨンキューブの作り方は地元の主婦の皆様に教えていただきました。
あれって、手作りできるもんなんだ……! って教えてもらった当初は感動したことを覚えているよ。
とても便利なので、時折作ってストックしておいているんだよね。
「うん、いいお味。イザベラも味見する?」
「はい!」
ニコニコ顔で味見のスープを飲むイザベラは可愛いねえ。
できあがった料理を食べたらもっと笑顔になってくれるかもと思うと、本当に毎回料理を作る甲斐があるってもんですよ。
さて、いい具合にスープの味も調ったので、主役の米を投入だ!
具材と一緒に先に炒める方法も考えたけど、私はこっちの一緒に煮ちゃう方が好きなのでそこの辺はお好みってヤツだと思うから大雑把に行く。
……ここじゃあこだわるような人もいないしね!
とりあえず、米に関しては市場で売っていたのを買っておいた私グッジョブである。
大量には買えなかったんだけどね……それにしても、米は穀物の一種で流通がなくもない。
けど、あまり流通していないということは知っているのでそれを考えるとやはりフェザレニアはとても豊かな国なんだと思う。
「よそ見をしていないできちんと話を聞け、アレッサンドロ!」
「し、しかし兄上、いい匂いが……」
「やかましい! いい匂いがするのは当たり前だ、私の番が料理をしているのだから!!」
「えっ。えっ!? 番って……あの番ですか!? あの平々凡々な女が!?」
いやいやフォルカス、何が当たり前なんだ。
番が作る料理だからって何でも美味しくなるわけじゃなくてそこは私の料理の腕がいいとか言えないのか。
そう突っ込もうと思った瞬間、私を指さしたアレッサンドロくんに対してイザベラが睨み付けて反論をしようとしたのが見えてそちらを止めようとした時だった。
「……私の番に、何か不満でもあるのか……?」
「なにも、ございません、あにうえええぇぇ……」
キィン、と音がしたかと思うとアレッサンドロくんが下半身を凍らされて、フォルカスにアイアンクローを喰らっていたのであった。
やだ、キュンとしないわあ。
発売から数日経ちましたが、お買い上げいただけた方々には楽しんでいただけているでしょうか。
書店SSなんかも楽しく書かせていただいたので、みなさんも楽しんでいただけたら嬉しいなあ!




