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「とーにーかーく! オリアクスと私の関係はわかったでしょ!?」
私がそう言えば彼らはとりあえず納得してくれたようだった。
オリアクスはそんな私たちを楽しげに見ている。
「ところでアルマ、私を呼ぶということは何かしてほしいことがあるのかね? 大陸を一つ増やしたい? それとも国を治めてみたくなった? お前のためにならば、どのようにでも!」
「いやそういうのは必要としてないんで」
「ああ、つれない娘だ! 子供に贈り物をするというのは、親の特権なのだろう? 私たち悪魔族にはない『家族』というものを得たのだから、その喜びを味わいたいのだがなあ」
顎を撫でながら悲しげに言ってもだめなものはだめである。
こっちの良心に訴えかけようったって無駄だからな!
いやだってそれが『近所のレストランでメニュー好きなの選んでいいよ』くらいだったら可愛げがあるけど、大陸を一つ増やすってなんだ。私に何のメリットがあるんだ。
「オリアクス」
「お父さん」
「……オトウサンに聞きたいことがアッテネー」
笑顔で父親呼び強制ですか。
いやまあ、オリアクスからしてみれば私は娘なんだからそう呼ばれたいんだろうけどさあ。
(別にオリアクスのことは嫌いじゃないし、父親って思うのは問題ないんだけどねえ)
基本的に、人間を害そうとかそういうこともないしね。
悪魔は人を堕落させ滅ぼす、みたいに言う人もいるけれどそれは違うのだ。
彼らからしてみれば潤沢なエネルギー資源である肉体を持つ種族たちを滅ぼすなんてとんでもない、こちらの世界は彼らにとって食のデパートみたいなもんである。
だからむしろ、大事にしてくれるといっても過言じゃない。
契約者が望めば大量虐殺もあり得るので、そういう意味では遠慮ないけどね!
「あのさ、最近世間を騒がせている小説があるんだけど」
「ふむ?」
それはともかくとして、私はことの事情をオリアクスに説明した。
私とイザベラが出会ったことについても。
彼は私の話をじっと黙って聞き、少し考える素振りを見せてから、私たち全員を見回した。
「まずは、その〝魔王〟とやらが我ら悪魔族の王であるかどうかだが……そこについては微妙だな。我らの中にも複数の種があり、それらにそれぞれの王がいる」
「……意外と複雑なんだな」
「ふむ。見せられぬのが残念であるが、なかなかにこちらと変わらぬ文明があるのだよ。さて、話を続けるとその記述では悪魔族の王であるかのように書かれているが、魔族の王とも取れる」
「そうね」
悪魔族は妖精族たちのようなもの。
魔族は私たちと変わらない、肉体を持つ種族。
全くの別物であることは、ここにいる全員が理解している。
だけど、オリアクスが言うように小説で『魔王の手下である悪魔』って書き方は悪魔の王ともとれるけど、魔族の王が悪魔と協力して……ともとれるな、確かに。
私もつい魔王とその手下ってことで悪魔族の王ってイメージ持ってたけど。
「そもそも、その理屈でいくと〝魔王〟ってのはもう既に何人もいるってことだもんなあ」
ディルムッドの言葉に私も頷いた。
そうだ、その通り。
小説には『魔王が出現する』というイベントがあるわけだけど……出現も何も、今も王様している魔王がいるってことだもの。
「もー! わけわかんないじゃん!」
「……それに、魔王が出現した……というのが、悪魔族の王が人間界に出現したとして、なんのメリットがあるのかね?」
小首を傾げるオリアクスに、私も答えられない。
フォルカスも、ディルムッドも、イザベラも。
みんながオリアクスの言葉を全面的に信じたわけではないのだろうけれど、それでも人間を〝食料を供給してくれる存在〟と見做しているならば、あえて侵略するなどはメリットがあまりなさそうに思えたのだ。
確かに支配して一定数を供給するっていうのはアリだと思うけど、でも今までお互いにまったく問題なく生活していたのを崩すほどのなにかはどちらの世界にもないっていうね。
「そうなると、キーワードとして考えられるのは北の王国、聖女、創世の女神を崇める団体……というところでしょうか」
「そもそもその作者が誰かって点もだね」
「ふむ、それでいくならば参考になるかわからないが」
オリアクスが何かを思いだしたようにぽんっと手を打った。
そして晴れやかな顔でこう言ったのだ。
「転生者の仕業かもしれん」




