2-11
「悪魔を頼る……!?」
私の言葉に、イザベラがぎょっとする。
まあ、そりゃそうか。
イザベラからしてみれば、悪魔を頼るってのはイコールでマルチェロくんみたいなイメージだろうし、実際一般的には〝悪魔と契約を交わす〟って言っているようなものだし。
「大丈夫大丈夫、ええとね、あまり知られていないけど悪魔族ってのはさ、契約しないとあちらの世界から出てこられないタイプと、自力でこちらに来ているタイプがいるわけ」
「ええっ!?」
「自力でこちらに来ているのは大体なんていうか……変わり者でね。前にも話したけど、悪魔たちにとって人間の感情がエネルギーになるってざっくり言ったでしょ、それらを契約者を介さなくても手にすることが出来るってわけ」
つまりチート級の悪魔ってワケ!
ただまあ、そんなことを説明しても不安がらせるだけだからここは黙っておくのがいいだろう。
そもそも、私がこうやって悪魔に詳しいのにも理由がある。
まずはそこから話さねばならない。
「まあ、これから話すのはさ、みんなが初めてなんだけど」
「……姉様?」
「フォルカスが竜の血を引いているように、私は悪魔の血を引いているらしいんだよね」
さらっととりあえず事実を告げてみる。
私の言葉に、イザベラが口を押さえ、フォルカスが瞬きを繰り返し、ディルムッドがあごが外れるんじゃないかってくらい口を開けた。
「は、はあああああ!?」
「ちょ、声がでかい! ディルムッド、大きな声出し過ぎ!」
「馬鹿野郎、これが驚かずにいられるか!! どういうことだ!」
「いやあ、どういうことだって聞かれるとなあ」
うーん、あれはいつだったかなあ。
正直細かいことは覚えていないんだよねえ。
私は少し考えて、彼らにも近くにあった倒木に座るようジェスチャーをして、思い出しながら話を続ける。
「私が孤児院で育ったって話はしたよね」
「おう、それで冒険者になったんだろ?」
「そうそう。そんで、フォルカスやディルムッドに出会うちょっと前くらいかなあ」
旅は順調で見るもの聞くもの楽しくて充実した日々を送っている中で、ある時声をかけられたのだ。
あれは驚かされたよね。
そりゃその頃はまだ駆け出しの冒険者で、なんたって女の一人旅だし、当然周囲の警戒もしていたってのに突然現れたら驚くでしょ。
敵意はないって言われてハイソーデスカって信じるものでもないし。
「ところがさ、そんなどっからどう見ても危険な相手がこういうワケよ。『会いたかった、我が子よ!』って」
「……待て、待て待て。理解が追いつかねえ」
「そもそも、悪魔から人間は生まれないのではないか?」
「うん、だからさ、本当は黒竜帝にもそうなのか聞いてからみんなに話そうって思ってたんだけど……今回の事情が事情だしさあ」
色々考えた結果だ。
悪魔と人間では恋をしたという逸話はあるものの、子を生したという話がないのだ。
なので私の父親を名乗る悪魔がいたとして、それをただ信じるには疑わしい。
妖精とか精霊とかにも聞いてみたけど、混じっているかとかはわからないらしい。
だから黒竜帝に一応それを知る方法はないか聞いてみたかったんだけどねえ。
「私が呼べばいつだって来るって約束してくれたんだよね」
あの日、私の前に現れて父親だと名乗った悪魔は嬉しそうだった。
そりゃもう、これが普通の人間だってんなら感動のご対面だったのかもしれない。
だけど、ハジメマシテがインパクト強すぎるってのも考え物だよ?
悪魔だって名乗られて警戒して、娘よ会いたかったー!って言われてもさあ!!
「ってことで、どうせ聞いているんでしょ? オトウサン!」
「ふふふ、いつ呼んでくれるのかと今か今かと待っていたよ!!」
私が呆れながらに言った『お父さん』という言葉に反応するように、周辺の木々が揺らめいて一人の紳士が森の中からゆったりとした動作で歩み寄るのが見えた。
「初めまして、娘のお友達かな? 私は悪魔族が一人、オリアクスという。以後お見知りおきを……」
一見、どこからどう見ても紳士然としたその男性の柔和な笑みだったけれど、きっとみんなには不気味な笑顔に見えてるんだろうなあ。
一応あれ、心底喜んでる笑顔なんだけどね!
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