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私が思わず零した言葉に「いっけね」と更に心の声が駄々漏れる。
みんなが目を丸くする中で、一番早く反応したのはイザベラちゃんだった。
「もう、アルマ姉様ったら!」
おかしそうに笑うイザベラちゃんの姿に、私も「ごめーん」とおどけてみせたので場が一気に和んだ。さすがイザベラちゃんだぜ……!!
ライリー様とヴァン様はちょっぴり呆れた様子だったけどね。
あれ、内心きっと『アルマだからしょうがない』とか思ってるんだよ。
理由としてはディルムッドと同じジュエル級冒険者だから、常識が通用しないとかそういう感じに思われてるところがちらほらとだね……理不尽の極み!
まあそれはともかくとして、私は笑うイザベラちゃんのことを凝視している王子に向かって一言、言ってやることにした。
いや正直なところ一言じゃ足りないから一言じゃないけど、この空気ならいけるいける。
「自分は格好悪くて役にも立たない状況で親に叱られて泣きべそかいて、結局フった女に縋って助けてもらおうとしてるんでしょ? 細かいことはわかんないけど、ないわー」
「なっ、なっ、なっ」
「しかもその理由が完璧だと思ってた婚約者がイジメをしていたらしいからでしょ? 失望したっていうけど、そもそも失望させたのはどっちなのかしら」
「なっ、えっ、き、貴様ッ、……だ、誰に物を言って」
「アンタだけど、王子サマ?」
忘れてもらっちゃ困る、私はジュエル級冒険者。
自由に生きるための実力社会の頂点……とまではいかないけど、そこそこの地位にいる以上、王侯貴族にへつらう必要はない。
この国追い出されたって、他の国に行くだけだしね?
不敬罪ってだけじゃ国際手配はできないし!
なんならこの国と仲がよくない国まで足を伸ばせばいいんだし?
オウジサマはそこんとこまでちゃんと理解しているのかいないのか、私の言葉が乱暴なせいなのか、目を白黒させてつつ顔色を赤くして青くして、大変忙しそうだ。
「弱者に相談されたから。それはいいと思うよ、先輩として話を聞いてあげるってとっても大事。だけどさ、その問題の相手ってただの知り合いとかじゃないでしょ。婚約者でしょ?」
「そ、そうだ! だからこそ……」
「だからこそ、話し合いが必要だったんじゃないの? 今後結婚して苦難を共にするパートナーなのに、一方的に事情も聞かずに悪いって決めつけて叩きのめしてご機嫌だったわけだ?」
「そ、それは……」
私の言葉に王子はぐっと言葉に詰まった。ちょっとは思うところがあるらしい。
っていうかそんな顔するくらいだったら最初からするなっていうんだよ。
「そもそもそれが全部勘違いだったらどうするわけ?」
「えっ……」
「しっかりした証拠があるんなら提出すればいい。イザベラちゃんが罪人だという証拠を出せるモンならね。それがないから彼女を連れて行って、彼女に罪を認めさせて、それで自分は救われようって魂胆なんでしょう?」
「ち、違う、私は……」
「待たれよ、アルマ殿」
私が突きつけていく言葉の数々に、王子はふるふる震えるばかりだった。
あーあ、こんなんが跡継ぎじゃこの国ヤバいんじゃないのかって思った時に、ライリー様が間に割って入る。
「アルマ殿が仰るとおり。だがまず殿下にお伺いするが、王城にて謹慎中との話だったはずですが一体どのようにしてこちらへ? 供もおらぬようですが」
「……ここに来た時には、いた」
すっかり意気消沈した王子はもう抵抗する気力もなくしたのか、大人しく答えてくれた。
ちょっと言いすぎた? 大人げなかったかな?
そう反省はするものの……いや、やっぱり論外だしなア。
「マルチェロが……手助けしてくれたんだ。ここにイザベラ=ルティエがいる、イザベラ=ルティエがいれば、父上の前で罪を認め、エミリアに謝罪してくれたら……それを私が受け入れたら、全てが丸く収まる策があると……」
「いや無理があるでしょ」
「アルマ殿」
「だって、ライリー様……」
「わかっている! わかっているんだ……」
王子が膝から崩れ落ちる。
それを見ても私は別に罪悪感とかはなかった。
隣のイザベラちゃんは、驚いたように体を震わせたけど……彼の元に駆け寄る様子もない。
エドウィンくんだけが、王子を支えるように膝をついただけだった。
「イザベラ=ルティエの代わりに、ペリュシエ侯爵令嬢が私の婚約者になった。陛下が戻る前にだ」
ぽつり、ぽつりと王子が話し始める。
エドウィンくんが初めの頃言っていたように、イザベラちゃんが諸悪の根源で、能力のあるエミリアさんとやらに嫉妬して酷いことをした。
貴婦人の中の貴婦人がそんなことをしたという失望と共に、平民出身で貴族令嬢となった子爵令嬢が王子と結ばれる、そんなシナリオが完成すればきっと国民は喜ぶに違いない。
そう思っての行動だった。
イザベラちゃんに関しては、今まで信頼していた分だけ失望したから苦労させたかったんだとか。バカか。
ところが、国王が戻ってから独断での行動を詫びて、エミリア嬢とやらを紹介して苦労もあるだろうけれど支え合って結婚を……と思い描いていた物は叶わなかった。
何故か国王の裁可を待たずに次の婚約者が決まり、王太子を僭称したことについて大臣やほかの重鎮達に代わる代わる説教され、果てには教会からも苦情を受けるという始末。
「それは当然のことでございましょう」
呆れたようにイザベラちゃんは言ったけれど、それはもう……なんていうか、すっごく吐き捨てるような言い方だった。
いやでも、これはしょーがないわあ……。




