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(ま、無理だろうけどね……)
いや、ハッ倒してやりたいのは本音だ。マジで思ってる。
でもさあ、目の前のエミリアさんの格好をしたそいつは別格だと思うんだよね。
事前準備込み込みで、フォルカスやディルムッドたちがいてなんとかなるんじゃない? それでも厳しいかも? そのくらいヤバい存在だってことは肌で感じている。
(今すぐやらないのは私を苦しめるため、だけど同時に本調子じゃないから、か)
結局のところ相当無理をしてエミリアさんという器に収まっているもんだから、チカラが上手く使えないのかもしれない。
とはいえ、だからといって肉体を捨てれば私たちを殺すことなんて造作もないことは事実で、それをやらないのはいちいち器を探すのが面倒だからだ。
(……いやでも、もし私たちの予想が正しくてイザベラがその器なら、なんで私たちを殺してから奪おうとしないのかな)
もしかしたら、器に入るにもそれなりの手順ってものがあるのだろうか。
私は何も言わず、ただ相手をジッと見る。
あれやこれやとボロを出してくれるとか、そんな簡単な相手だと舐めてかかるよりは好きなように喋ってもらった方が誤解もしてくれるかもしれないしね。
(そもそもなんで私こんなに嫌われてんのかなあ)
「あら、不思議そうな顔ね? 自由に過ごしてくれてていいのよ?」
クスクス笑う姿は少女なのに、口調は妙に大人びている……というか、中身は子供も産んだことがある大人なんだから当然っちゃ当然なんだけど。
「自由に生きて、好きなことして、幸せになればいいわ」
「……へえ?」
「アンタが幸せで、たくさん大切な人ができた時。アンタの目の前でそれを摘み取るの。そしてワタシが幸せになる世界を作るのよ」
ウットリとしたその口調に、こっちはうんざりなんですけどね!
さっきからめっちゃ鳥肌たってんだけど、これちゃんと後で治るのかな。その方が心配になってきた。
「アンタがしわくちゃのババアになった頃、ワタシは世界を奪いに行くわ。楽しみにしていていいわよ?」
「……え?」
「あの時と同じように幸せなところで、絶望すればいいわ。ふふ、それじゃあね!」
「ちょ、ちょっと……」
楽しそうに笑って立ち上がった彼女は、くるりと私に背を向けたかと思うと煙のように消えてしまった。
魔法の追跡そのものは可能だろうけど、今はそれどころじゃない。
いやいや、今なんて言ったよ?
「……私がしわくちゃのババアになる頃って、あと何年あると思ってんのよ……」
長期計画にも程があるんじゃないかな!?
っていうかそこまでして憎まれているんだと思うと、とても微妙な気持ちだ。
(……話を総合すると、私は彼女にとっての〝悪役令嬢〟だった、らしい?)
なんかよくわかんないけど、ヒロイン側の立場だった彼女は私に負けたってことか?
そんでタイミング良くこの世界の創世記? に招かれたってこと?
「あああー……なんだこれ、よくわかんない」
とりあえず、もしそれが本当だったとしても今の私には無関係なんですけど!
本当にいい迷惑だな!?
とはいえ、彼女からしたら当事者には違いない。
いや、悪役令嬢にしてやられたって状況がよくわかんないけど……あの性格から鑑みるに自業自得だったんじゃないのかな。
だとしたら逆恨みもイイトコロだよ。しかもその私の前世? に呪いをかけて殺したとか物騒なことも言ってたんだから、ちゃんと復讐もしてんのに転生してんのを見かけたからもう一回潰すとかどんだけ粘着質なんだって話。
こっちが覚えてんならともかく、超いい迷惑じゃない?
「……どう思う? 父さん」
「そうさなあ」
いつの間にやら私の後ろに立っていた父さんに声をかけると、思案げな表情だ。
出てこなかったのは、私が戦う意思を見せなかったから……だと思う。
「いいんじゃないか、あやつの申し出に乗っかって」
少しだけ考えた父さんは、私の隣に座るとそう言ってどこからともなく取り出した串付きソーセージを焚き火で炙り始めるのだった。




