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「ああ、少しは楽しめたかしら。余興のつもりだったんだけど」
「……余興?」
「ええ、そうよ。あの子ねえ、古代王国の末裔なんですって。かつてワタシに協力した人間たちの末だから忠誠を誓う代わりに、自分たちを虐げた連中を隷属化させて国家を復活させたいとか言い出して……笑っちゃうわよね」
「……」
クスクス笑う〝始まりの聖女〟は本当に楽しそうだ。
それこそ昔からの友人と他愛ないことを話して笑っているかのようなのに、口にする言葉のその毒々しいこと!
背筋がぞっとしたね。
「あんまり熱心だから、あの子が大っ嫌いだっていう子をあの子専用の人形にしてあげたの。いじめられっ子だったみたいね、彼」
小首を傾げたり、不思議そうにしたり、その仕草はどれも年頃の少女そのものだ。
何度も転生を繰り返し、その間で子供まで産んだ女のものとは思えないくらいあどけない。
「でも面倒くさいし、そもそも古代王国だってワタシがいなければ結局潰れていたんだから、今更復活したって邪魔でしょう? どうせワタシが神になった時には、世界はまっさらになるんだから!」
ケラケラと笑いながら、その事実をカイゼル君に話したんだそうだ。
それまで彼女のためにとあれこれ尽くしてきたというのに、その結果がこの仕打ちだ。
彼にはもう戻る場所がないくらい、あれこれと尽くしてくれたんだそうだ。
「でもほら、尽くされまくっちゃうと鬱陶しくなるのも仕方ないじゃない。そんな目で見ないで?」
困ったような口調でありながら、ニヤニヤと笑うその姿は酷く邪悪だ。
これが〝聖女〟ってんだから、世も末だよね。だからって世直しして貰いたいとは思わないけど!
「おかしかったわあ、あの時の顔ったら! 見せてあげたいくらい。あ、見たのかしら? 信じてたものが全部嘘だったって知って、自分がやってきたことの責任を取るに取れなくてにっちもさっちもいかない状況って知った時の絶望! ワタシのせいだって言うけど、全部求めて来たのは自分なのにね? 自己責任って言葉を知ってるの? って聞いてやったら泣きそうになったから本当におかしくっておかしくって……!!」
カワイイ笑顔で言ってることがものすごくえげつない。
まあ自業自得はそうだろうけど、唆したのはそっちだろうに。
「でもね、もう遊ぶのもいい加減にしとかないとなって思ってね。それで身辺整理を始めたのよ、ワタシ」
「……身辺整理?」
「そ。貴女たちはどうせワタシがこの肉体を得たからまた聖女として行動をし、瘴気を取り込みに行くつもりだ……なんて思ってるんでショ? でもざぁんねん! そんなことしないわ」
彼女がゆっくり立ち上がる。
当たり前にできた高低差もあるんだろうけど、私を見下すその目がとても嫌な感じだ。
純粋に、悪意をぶつけられている。
マリエッタ王女が嫉妬からぶつけてくるのとはまるでちがう、どろっとねちょっとした悪意に私もそろそろポーカーフェイスがくずれちゃいそう。
「ワタシはアンタを許さない。だから今は自由にさせたげる」
勝ち誇ったその笑顔、ムカつくからハッ倒してやろうかななんて思ったのは内緒である。




