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なるほどねえ。
心の中で私はそう呟いた。
私、私たちの目の前には捕縛された男が数人。
いずれも普通の服を着た人たちで、でも目はうつろだった。
その中にマルセルとカイゼルもいたんだよねー。
「まっさかマルセルが傀儡で、カイゼルが黒幕集団の一員とはねー」
「くっ……」
大きなため息だって出ちゃうわ!
私の反応が気に食わないのか、カイゼルはキッと睨み付けてくる。
そもそも遊び歩いていたのはある意味で自分たちを囮にしていた。
そう簡単に食いつくわけもないと思っていたので、存分に楽しませていただいたわけだが……意外と早く来たので逆にびっくりしたわ!
フォルカスがこちらに向かっているというディルムッドを迎えに出て行った隙を狙ったようだけど……そんなに私たち家族って弱そうに見えるのかね?
いや、見えるか。
パッと見たら上品そうな初老の男性と、愛らしい美少女と、どこにでもいそうな冒険者だもんね。
「しっかし……きみら仲良しじゃなかったの?」
「……調べたんじゃないのか」
「うん? まあ、きみがその教団? とやらに参加していたってことはわかってたけど」
「……くそっ……」
カイゼルは苦々しい表情だ。
父さんが何かウインクしてきたから何かと思ったら、くすりと小さく笑って……その笑顔、なんか邪悪なんですけど。
「あのこどもの魂に少しだけ触れて過去を覗いてみたよ。どうやらあのこどもは例の滅びた王国の末裔で、その責を問われて酷い目に遭い没落したようだ。その後も再起できず、貧しさの一途を辿ったようだね」
「……そんなこともわかるんだ?」
「わかるとも。だからこそ悪魔族は人間族の柔らかな部分を食むことができるんだからね。ああ、安心しておくれアルマ、イザベラ。父さんはお前たちにそんなことはしないし、させないからね?」
「うん、そんなことしたら今後一切、ウインナーを食卓に出さない」
「そうですわね」
「おお、娘たちよ……」
よよよと嘘泣きをする父さんを尻目に、私はカイゼルに視線を戻す。
なるほど、貧乏だった……商店を構えるよりも、行商を選んだ……。
彼には彼の事情があるんだろうけど、まあそれはそれ、だ。
やるからにはやり返される覚悟がいるってことだろう。
「それで? うちらを狙っても無駄だったと知った気分はどう?」
「最悪だッ……」
「まあ、そうだろうねえ」
捕まえた連中を見回しても、きちんと受け答えできるのはどうやらカイゼルだけのようだ。
手っ取り早く洗脳、じゃなかった自白する魔法……どっちにしろ物騒だな? とにかく精神に干渉する魔法を使った方がいいかもしれない。
自決とかされたらこっちが困るし。
(でも私そっち系の魔法苦手なんだよなあ、父さんに頼んじゃうかなあ)
それはそれでやり過ぎそうなんだよね!
うーん。頭を悩ませる私を、カイゼルが嗤った。
「……なにかな?」
「ボクらは、たしかにそちらのお嬢さんを攫いに来た。ああ、確かにね」
イザベラに向けられる視線は、どこか狂気的だ。
くつくつと嗤うカイゼルに、イザベラが怯えた表情で私の裾を掴む。
「だけどそれはあくまで上手くいけばのついでの話! 本題は、アンタへのメッセンジャーだったのさ、冒険者アルマ!!」
「……私?」
言われて目を瞬かせる。
そんな私にカイゼルは言葉を続ける。
「あのかたからの伝言だ。『今度こそお前に邪魔はさせない。明日の夜、山頂の泉で待つ。来なくても構わない』とのことだ」
「……あのかた」
「ボクは、国を復興させてボクを馬鹿にした連中を見返すんだ。このマルセルのように、いずれは隷属させてやるのさ! ボクら一族にはその権利がある……!!」
知らんがな、そう思ったけどもう私の言葉は彼に届きそうになかった。
縛り上げられても高らかに嗤い続けるカイゼルは、もうまともではなさそうだった。




