3-36
仮面男が嗤いながら、言葉を続ける。
それは、荒唐無稽なようで……なるほどと納得せざるを得ないものだった。
結界を張ったことで世界は平和になった。
つまりそれは、結界によって瘴気が外に漏れなくなったから。
たくさんの聖女がいてくれるおかげで、瘴気は浄化され続けていく。そのおかげで王国も平和を保たれた。
どちらにとっても利があるが、原因が解決できていない。
そう、王国の、結界内部に瘴気が生まれていたってことだ。
「つまり、封印から漏れ出してるってアンタは考えてるわけだ」
「いいや。意図的なものだと考えている」
それは私も思った。思ったけど、それを結びつけたくなかった。
でもここまでくれば、そうだろうなと認めざるを得ないんだけど。
イザベラは話の展開について行けないのか唇を震わせて、仮面男に問いかけた。
「……意図的……とは……」
イングリッドは動かない。
まるでよくできた彫像のように私たちを見ているだけだ。
仮面男はイザベラの問いかけに、歪んだ笑みを向ける。
「〝始まりの聖女〟は完全に封じられていない、彼女は虎視眈々と復活を待っているのです。今度こそ、正しく自分を受け入れる器を作り出し、抱え込んだ瘴気をも操って、ただ一人の神となるべく待っているのです」
そうだ、あの土地に住んだのは彼女の信奉者。
そこに血縁者がいなかったかどうかなんて、私たちにはわからない。
だけど、いたとしたなら?
もしも〝始まりの聖女〟に連なる血族がそこにいて、歳月と共に数を増やし、そして彼女が求める聖なる属性を持っていたら?
瘴気を少しずつ与え、慣らし、聖属性が反応するように調整したとしたら。
結界によって閉ざされた土地、人々は聖女を大切にする。
一定以上の能力を持たない少女たちは成人と共に役割を次代に繋ぐ形に変え、繰り返し、繰り返し。
これまで、ずっと〝始まりの聖女〟が続けていたことを、規模を小さく、そしてより計画的に行っていたのではないかと仮面男は言うのだ。
(私も、そうじゃないかと思う)
荒唐無稽だ、ただの妄想だ、そう言い捨てることは簡単だ。
でも、これまでの話や……聖女が何故あの国にしか生まれないのか、各国に聖女の伝説は残るし、その末裔だという一族がいるとかなんとか聞いたことはあるけどそれだけなことにも理由がつく。
「イングリッド様、器は完成しました。今度こそあの憎き〝始まりの聖女〟を滅するためにも、この娘の体を――」
仮面男が指さすのは当然イザベラ。
それを目にした瞬間、反射的に私は仮面男を蹴り上げていた。
「あ」
「ア、アルマ姉様!?」
「ごめん、手じゃなくて足が出たわ」
いやもうそりゃ自分でもびっくりしちゃうくらい、脊髄反射ってヤツだった。
こんなだから冒険者ってのは頭に血が上りやすいって言われちゃうのよね!
気をつけよう。




