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イングリッドと名乗った女性は自分を聖女だと言い、しかも悪魔の力を借りて〝始まりの聖女〟を封じたってんだから驚きだ。
いやもうなんかしら関係はあると思ってたけど、いきなり封印まで話が飛ぶんだ!?
目を丸くする私たちをよそに、イングリッドは柔らかな笑みを浮かべている。
「そう身構えないでくださいまし。わたしは、ただ、伝えたいのです」
「……伝えたい?」
「ええ。そのためだけに、このダンジョンは生まれたのです。〝始まりの聖女〟に対抗しうる素質を持つ者が現れた時、全ての事実を話すために」
イングリッドによると、ダンジョンとして生まれたことは偶然だったらしいが。
彼女が死の間際に残した記憶媒体のようなものがダンジョンコアとなったために、昔の神殿風になったんだってさ!
「貴女たちは〝始まりの聖女〟が、わたしたち聖女の祖であることは知っていますか?」
「ええ」
「では、話はこの古代王国の滅亡からにいたしましょう」
瘴気によって混乱を来たしていた古代王国に突然やってきた〝始まりの聖女〟と名乗る女性は、既に何回か転生をしていると言っていた。
ただそれを鵜呑みにするほど当時の人間も信心深かったわけではないけれど、彼女の力によって瘴気が祓われていたというのも事実。
生まれ変わったときに、また聖女として返り咲く。
だからこの国においてその地位を、聖女という存在を大事にせよ。
特に力ある聖女を頂に置き、教会は彼女たちに協力して瘴気を祓うように。
こうして聖女信仰が根ざしたということらしい。
「己がされたように軽んじ、使い捨てなどさせないように、そういう意味だと〝始まりの聖女〟は語っていたようです。それ聞いて民衆も、教会の人々も、自分の子孫を大切にし、瘴気に対抗するためのものだと信じました。けれど、真実は違ったのです」
「違った?」
「確かに〝始まりの聖女〟は魂をなんらかの方法で巡らせ、記憶を持ってこの世界に誕生しました。けれど、その身がかならず神聖力に満ち、健康で美しいとは限りません」
「……」
言われてみれば、そりゃまあ、そうである。
転生したってことは魂が同じでもガワは違うのだ、前とまるっと同じなわけではない。
当然、美醜の判断も世代で違うし……生まれた国が違えばその土地特有の能力なんかもあるだろうし……。
そりゃそうだよね、私だって前世平凡系女子だったけど、今世は結構凄腕な冒険者とかだし……生まれ変わってもまるで同じってワケがないのだ。
(うん? それだと毎回転生したときに聖女として活動してたってのはなんなんだろう?)
大なり小なり聖女ってことで魂の結びつきがうんたらだから聖女の子供として生まれるとかそんなんで、神聖力ってやつを受け継いでいるのだろうか?
よくわからなくて首を傾げる私をよそに、イングリッドは言葉を続けた。
「ですから、聖女たちを大事にするということは……聖女は、その立場故にどこにいようが見つけ出され、教会に集められるのです。その中で能力が強く出た聖女は、責任ある立場として残ります」
人々を救う立場、崇められ大切にされる存在。
だけれどそれは、同じくらい強固な楔でもあったのだとイングリッドは語った。
そして、ここからが問題だった。
「〝始まりの聖女〟の目的は、己が常に最高の力を使えるよう、自分が転生した際の体がそれに適さぬ場合は当代の聖女、その最高位の人間の器を乗っ取ることだったのです」
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