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探索自体はそれほど苦労しなかった。
というか、まあ、魔物はまあまあいる……けど、襲ってこないのである。
「なんだろうねえ」
何か条件があるのかと思って目の前に立ってみたり、手を振ってみたり。
剣を抜いてみたりもした。
その結果、ある程度あちらは距離を取って警戒はするものの、それだけなのだ。
一度殺気を込めて武器を構えた時には襲ってきたけど……つまり、こちらに敵意がなければ襲ってこないようだ。
(変なダンジョン)
とはいえ、前回来た時のことを考えれば条件は予想できる。
この遺跡に点在する〝遺物を持ち帰ろうとする〟ことがトリガーなのだろう。
今のところ私たちはダンジョン探索というよりも遺跡見学をしているような気分だ。
(んー……)
イザベラの経験を考えればダンジョン内のモンスターと戦闘もやっておくべきだと思ったんだけど、無駄な戦いを避けるってのも大事なことだ。
ダンジョンの深さが不明な場合は特に、無駄な消耗を避けて進むのがいいわけで……そう考えると今回は探索を優先として進むのがいいのだろう。
途中、遺物に触れなければならない……もしくは絶対に持って帰りたいと思うような品に出会ったら戦闘止むなしってことで頑張ればいいわけだしね!
「それにしても、不思議な空間ですわね」
「地下に進んで行っているのに空が見えるの、不思議よね。ダンジョンにはよくあることなんだけどさ」
「そうなんですの……」
私たちは既に地下四階まで進んでいた。
エリアボスっぽいのもいないし、スタンピードを恐れる要素である内部でモンスターが爆発的に増えている様子なんてものもない。
なんていうか、とても静かで、未開拓の土地でひっそりしていた遺跡を見つけたみたいな空気。
「ここは、王宮の廊下のようですわね」
「あーなんかそんな感じするね」
石の柱が左右に等間隔に並び、壁も柱も装飾が施されている。
まあ、ところどころ歳月を感じさせるひび割れや欠けがあるけど……当時はきっとかなり壮麗な光景だったんじゃなかろうか?
「保管庫のようなものかと思いましたが、もっと大きな何かが……?」
「そうとも限らないかな。ダンジョンが物の記憶から場所を作り出すとか、人の記憶で内部を決めるとか……色んな説があるし」
「そのような記述を見たことはございますが、やはり目の当たりにするとなんとも不思議な光景ですわ……」
保管庫には何があったのか、まだわからない。
でももし、このダンジョンが〝物の記憶〟から内部を作っているのだとしたらここは古代王国の王城に関連する何かなのだろうと思う。
それとモンスターが襲ってこないことの理由がよくわからないけど。
(まあ、その辺は進めばわかる……かなあ?)
しかし長い廊下だ。この階に下りてから、殆ど曲がり角もない。
途中途中部屋はあるものの、ちらりと覗いた感じ目立った物はなさそうだし……。
とはいえ、何があるかわからないからね!
警戒しつつ一つずつ部屋を開けて中を覗く程度はしてる。
気になったら中も確認するつもり。
(一体なんなんだろうねえ……)
王国で招かれた際の城とは建物の構造そのものが違うようだということくらいしかわからない。
そりゃまあ、地域差ってのもあるし年代も違うので建築様式が違って当然なんだけどさ。
「……ここは図書室、かな?」
開いた部屋は広い空間と、見渡す限りの本、本、本。
学術都市の図書館なみに天井近くまで本がずらりと並ぶのはなんとも圧巻だ。
「……あれらの本は、読むことができるのでしょうか」
「興味ある?」
「は、はい! ……何か、わかるかなと思って……」
段々と声が小さくなるイザベラ。
きっと自分の意見にまだ自信が持てないのだろう。
なら、おねえちゃんがしてあげられることは、一つである。
「じゃあ入ろうか! 大丈夫、私が警戒してるからね」
「よ、よろしいのですか?」
「勿論! 言ったでしょ、何事も経験だよ。やってみるべきだと思ったなら行動して、それが失敗だったなら次に活かすことを考える。今はフォローする人間がいるんだから、いくらでも試せばいいんだよ」
私の言葉にホッとしたような表情を見せたイザベラ、本当に可愛い。
そしてこの可愛さがわからなかったあの王子様の見る目のなさに一体どうやったらああ育つものかと首を傾げたくなってしまったのは内緒である。
しかし、これだけモンスターが襲ってこない状況なら、後続の【砂漠の荒鷲】率いる王子サマ隊が追いつく可能性もあるからトラップ以外にも注意を払うべきかと私は探索魔法の範囲を広げた。
幸い、彼らがこの階層に到着した様子は見受けられないのでまだ時間に余裕はあることだろう。
あえてその事実を告げてイザベラを焦らせても仕方ないし……。
(ああいや、あの子たちなら不用意にあれこれ触れてモンスターたちに襲われる可能性もあるかあ……)
来る途中それなりに遺物はあったからなあ。
前回のあれで反省してりゃいいけど。
まあ、手放せば退いてくれたって事実が彼らの頭に残ってたなら同じ轍を踏んでもなんとか回避できるだろうと私は思考を切り替えるのだった。




